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プロローグ 二年に進級して早くも三ヶ月ちょい立った。 その三ヶ月の間、何事もなかったってワケではない。 が、それについては脇に置いとおこう。今からする話は久しぶりに生命の危機を感じた事件だ。 いや、ちょっと大袈裟か。だが本っ当に痛かったんだ。もうあんな目には遭いたくないね、一生。 その日は地球温暖化とやらが地味に効きつつあるのか凄まじく暑かった。衣替えで夏服になったものの 白いワイシャツは噴き出る汗でペッタリと素肌に接着されていた。まだ七月中旬でこの暑さ。 梅雨と重なってるので雨もたまに降るが、快適な気温まで低下させるほどのパワーはないようだ。 悪戯に湿度を上昇させ同時に俺の不快指数までチマチマ増えてきている。この調子じゃ夏本番に位置付 けられてる八月はエライ事になるんでないの?俺も地球も。 まぁ結果から言う。地球はともかく、俺はエライ事になった。しかも一ヶ月後ではない。授業が終わって 文芸部室に向かっているのが今の俺。この30分後にドエライ事になる。だけど悪い予感なんてのは一切な かったんだ。感じるのはとめどなく噴き出る汗による不快感だけ。 まぁ、遠からず近からずこれが原因になるんだが。 放課後の文芸部室…と言っても文芸部らしい活動はこの一年三ヶ月の中で一度だけで。 我らSOS団の季節イベントもやるが、もっぱらすることもなくダラダラと過ごしてる。 今日も特にすることはない。することがないならすぐに家に帰ってクーラーに当たりながらゴロゴロするのがベストなのだが 俺の足は部室に向かっている。何故だろうね?習性というのは恐ろしいものだ。クーラーもないあの部室に行ってもやる事は いつも同じなのに。スマイルエスパー野郎からボードゲームの勝ち星を奪いながら未来型メイドの煎れた茶をすする。 そして読書マシンと化した宇宙人の姿を眺める。 これらの作業をこなしながら常に感じるのは、退屈だなぁ、ってことだ。 んでもって、あの団長が頭のネジを撒き散らしながら嬉しそうにトンデモ企画を持ち込むんだ。 気づく頃にはその退屈がいかに貴重かがわかる。 で、部室に着いた。 中にいたのは、トランプを切り続けてるエスパー古泉、茶葉と闘う未来型メイド朝比奈さん、定位置で読書にふける宇宙人長門。 団長ハルヒ以外全員いたわけだ。ハルヒがいない理由は俺も知ってる。ヤツは今教室でワックスがけの最中だ。 ご苦労なこった。まぁ交代制なので二学期は俺も参加せざるを得ないのだが。 「どうですか?久しぶりにトランプでも。最近はずっとチェスや囲碁でしたからね。結構新鮮かもしれませんよ?」 本当にゲームが好きなんだな、古泉。だが二人でトランプってのはつまらんだろ。しかも野郎同士じゃな。 「おや、僕が相手じゃ不満ですか?いつも貴方を楽しませようと努力しているんですが」 無駄な努力だな。その努力を機関に注いで出世すればいい。 「とんでもない。機関の業務より、このSOS団の活動に意欲を注ぐ方が有意義ですよ、今の僕にはね」 「職務怠慢だな。今度新川さんか森さんに会えたらチクってやる」 「それは勘弁してください。新川さんはともかく、森さんはああ見えて結構厳しいんですよ」 「あぁ…なんとなくわかるわ。あの人のオーラは身の危険を感じちまう」 二月の事件での森さんは今までのおとなしいメイドキャラとは一変していたからな。 「話が逸れましたね。で、どうします?トランプ」 「あぁ。相手してやるよ」 どうせ暇だしな。 ここで俺は他二名の団員に目をやった。 長門は先週俺と行った図書館で借りた凄まじく分厚い本(ジャンル不明)を読んでいる。 朝比奈さんは茶葉に適する温度を見極めようとヤカンを睨みつけている。 この二人も誘ってみるか。 「朝比奈さん、一緒にトランプしませんか?」 「えぇと、今お茶の準備してるので遠慮しますぅ。だって、皆さんには出来るだけ美味しいお茶を飲ん でほしいから…」 素晴らしい!その奉仕精神はまさしくメイドそのものだ。 「じゃあ仕方ないですね。美味しいお茶、おねがいします」 「はぁい。もう少し待っててくださいね」 「長門はどうだ?トランプ」 長門は本から視線を外さずに「………いい」と言った。 「二人じゃ盛り上がらんだろ。お前もたまには…」 「…今、いいところ」 ……そうですか。 あの長門が面白いというほどだ、よっぽど熱中しているようだ。まぁ、たぶん俺には何が面白いかわか らん内容だろうが。っていうか何語だ?それ。 長門の勧誘を諦め古泉に目を戻すと、ニヤニヤしながら俺にトランプを配り始めやがった。まるで最初 からこうなる事はお見通しだと言わんばかりに。 まぁいい。当分トランプを見たくなくなるぐらいに痛めつけてやる。 「暑いな。クソ暑い。どうにかならんのかこの暑さは」 朝比奈さんのお茶を飲みながら古泉との大富豪の毎ターンに愚痴を呟く俺に古泉は苦笑しながらいちい ちそれに答えある提案をしてきた。 「僕も参ってしまうぐらい暑いですよ。ではどうでしょう?この勝負に負けた者がアイスを買ってくる というのは?」 お前、全然暑そうには見えんぞ。涼しい顔しやがって、汗もかいてないじゃないか。 でもその案は俺も乗った。ちょうど冷えたアイスが食いたいと思ってたところだ。 「ではちょっと本腰を入れてかかりましょう」 手抜いてやがったのか。だが既に俺の方がかなり有利な戦況だ。俺の勝ちだな。俺のために汗水垂らし てアイスを買ってくるがよい、古泉。 ………こういう時だけ負けるのはどうしてだろうね。古泉の野郎は最後の最後に大逆転をかましやがった。 今まで負け続けてたのは今日のこの勝負の伏線だったんじゃないのか? 「そんな事ないです。正真正銘まぐれです。僕は買いに行く覚悟してたんですが。勝負というのは時に 予想のつかないものですよ」 そういう要らんこと言うから胡散臭さが増すんだ。そのツラ見ながらだと馬鹿にしてるようにしか聞こ えん。 「それは失礼しました。まぁ勝負ですからね。この暑さでは買いに行くだけで罰ゲームですし、お代は 先に渡しておきましょう。ついでに皆さんの分をお願いしますよ」 そういうと古泉は千円札を差し出してきた。ラッキー。勝負を受けたものの、生憎俺の財布には合計百円 ちょいしか入ってなかったからな。このままバックレちまおうか。 だが皆の分と言われるとそんな悪どい事はできん。古泉になら別に恨まれても知ったこっちゃねぇが 朝比奈さんに非難されるのは絶対避けたい。長門も結構根に持つタイプだし。 しゃあないな。ちょっくら行ってきますか。 「あ、涼宮さんの分もお願いします。仲間外れにされた、なんて思われたくないですからね」 古泉は肩をすくめ苦笑しながら言った。わかってるよ。アイツはすぐすねるからな。 しかもそれだけで世界を危機に晒しかねないのがハルヒクオリティだ。 余談ではあるが皆にどのアイスがいいか聞いてるとき、面白い事があった。 古泉はソーダ系、朝比奈さんはバニラ系。ここからが面白かった。 どうせ「何でもいい」と言うだろうなと思いつつ長門に注文に訪ねた。 「……ガリガリ君」 思わず吹いたね。別にガリガリ君には非はないんだ。アイスの定番だしな。しかし長門がその名を口にすると、何とも笑える。なかなか長門もわかってるじゃないか。 古泉はクックッと笑いを堪え、朝比奈さんに至っては顔を真っ赤にして口を押さえている。 長門は状況を理解していないようで首を傾げ、笑いっぱなしの俺の顔を見つめている。 「……ガリガリ君…ガリガリ君…」 ガリガリ君食いたいのはわかったから、ワイシャツを掴みながらすねた感じで連呼しないでくれ。面白い&可愛いのダブルパンチで俺の思考がどっかに飛んでっちまう。 「わかったよ。ガリガリ君だな?」 長門は俺にしかわからない、困った顔で頷き読書を再開した。 なんか無駄に興奮したもんで、余計に暑くなっちまった。さっさとガリガリ君買ってくるか。 このまま今日が終れば、非常に有意義な一日だったろう。 悲劇はこの数十秒後に待っていた。 俺は、いい意味での長門らしくない発言を噛み締めながらアイスを買いに行くため廊下に出ようと部室のドアを開けた。すると目の前に一人の女子生徒が立っていた。 回りくどい言い方だな。ハッキリ言おう。俺の目の前にいたのは…… SOS団団長 涼宮ハルヒだ。 なかなかこのタイミングはない。いつもなら俺たちがノンビリしてる頃にハルヒは横真っ二つに割る勢いでドアを蹴り開けるわけだが、この時の様子は少し変だった。 ハルヒは両の目を固く閉じ、深呼吸をしている。それに合わせて肩の大きく上下させていた。 俺はというと、そのハルヒの様子を何も言わずただ見ていた。ハルヒは俺に気付いていない。 俺の背後にいる三人も、いつもと様子が違うハルヒをじっと見ていた。誰も一言も発しなかった。 まさしく、嵐の前の静けさ。 呼吸を整えたハルヒの表情は目を閉じたまま、ゆっくりと満円の笑みに変わった。 そして……… 「みんな、ごっめーん!遅れちゃったー!」 そのハルヒの大声を目の前で聞いている途中、俺は凄まじい衝撃に襲われて目を閉じた。 ゆっくりと瞼を上げて目に入った光景。 ハルヒの太陽のような笑顔。 まだ固く閉じた瞳。 前にピンと伸ばされた綺麗な右足。 状況を把握できない俺はゆっくりとその右足を辿る。 スカート、太股、膝、ふくらはぎ、白いソックス、運動靴。 そして辿り着いた先に見えたのは……… 俺の、いや、男にとって大切な、それでいて一番の弱点である『そこ』に、ハルヒの伸ばされた右足のカカトが、深く、深く突き刺さっていた。 「教室のワックスがけが長引いちゃって……え?」 ハルヒはここでようやく、瞼を上げた。 「え?…ちょ、キョン!?あん…た…そんな、とこで…なに……あ!」 一瞬で笑顔が動揺した表情に変わる様を見届けた俺は、もの凄い速度で膝を床に打ち付け、倒れこんだ。 『そこ』に受けたダメージは俺の全身のコントロールだけではなく、思考を奪っていった。 あれ…俺…アイ……ス買いに…行く…ああ…ハル…ヒ…いつもドア……蹴っと…ばして…たんだ…っけ…… 「ちょ、ちょっとキョン!大丈夫!?なんでアンタあんなとこに!……何これ…温かい…?アンタまさか漏らし…て…え?赤…い…?え……ち、ちち血ぃ!!??」 「涼宮さん!落ち着いてください!朝比奈さん!救急車を呼んでください!早く!」 「え…あぅ…キ、キョン、君……うぅ」 「朝比奈さん!早く!救急車を!」 「………私が呼ぶ」 「長門さん!お願いします!」 俺の頭上で叫ぶ古泉、携帯をかけている長門、泣き出す朝比奈さん、尻餅をつきながら手の血糊を見つめているハルヒ。 薄らいでゆく視界。遠のく意識。その中で、俺は思った。 俺のアソコとドアのどちらが丈夫だろう、と。 俺は下半身に突き刺さる様な激痛でうめき声を上げ、それで目が覚めた。 薄くオレンジ色を帯た白い天井が見えた。部室の天井より綺麗だが、眺めてるとどうも気が重くなる。 天井からゆっくりと壁に視線を映すと、窓が見えた。もうすぐ日が沈むようだ。 窓からは天井をオレンジ色に染めていた太陽が低い山に隠れていく、夕暮れの風景が広がっていた。 昨日、下校途中に見た空と同じだ。いつもなら俺はそろそろ家に着く頃だろうが、今おれがいるここはどこだよ。 やはりまだ頭がぼんやりしていたのだろうか。 その窓がある壁に無表情な少女が寄りかかっている事に気付くまで、だいぶ時間がかかった。 声をかけようとして口を開いた丁度その時、背後から声がした。 「目を覚まされたようですね。どうですか?具合は」 下半身の激痛を堪えながら振り返ると、明らかに作り笑いをした古泉が立っていた。その隣には涙目の朝比奈さんがいた。 「良かったぁ…キョン君大丈夫?本当にあの時はどうなることかと…」 朝比奈さんは安堵の表情を浮かべて言った。……だがなんかぎこちなさが残る表情だ。 あの時……っていつだ?俺がどうなったって?駄目だ、頭の中がモヤモヤしてて思い出せん。 何も言わない俺を見かねて、古泉が勝手に喋りだした。 「まだ状況を飲み込めていないようですね。ここは病院です。本当にあの時は大変でした。 まさか涼宮さんの蹴りにあれほどの破壊力があるとはね。 貴方がうずくまったと思ったら意識を失ってしまって、さらに出血までしていたんですから。流石に僕も焦りました」 そうだ。俺はハルヒに蹴られた。で、その蹴りが俺のアソコにジャストミートしたんだ。 ったくあの馬鹿力が、意識失う程の金的攻撃を普通人の俺に食らわせるとはね。そうそうないぜ、こんな経験。しかも血まで…… ……血。ここに来てようやく俺の頭が正常に機能し始めた。 血が出たって事は、血尿か?生憎俺は医学知識に乏しい。アソコから血が出たってのはどれ程危険なんだ?いや、そんなに危なくもないのか? 全然わかんねぇや。こりゃさっさと賢そうなヤツに聞いた方がいい。やっと頭がハッキリしたが、元々の出来はたかが知れてる。 「なぁ古泉。俺の、その…ア、アソコなんだが…どうなったんだ?」 この部屋には女の子が二人もいる。ふと気付いて口ごもってしまった。 谷口じゃあるまいし、俺は異性の前で堂々と下ネタを言える程デリカシーにかけちゃいない。 別に下ネタを言ってるわけでもないんだが。 朝比奈さんが恥ずかしそうに顔を赤らめてうつ向いてしまった……なんて展開だったらいい感じに和めたのに。 室内の雰囲気が超ブルーだ。室温までも急降下してる気がする。 古泉の顔から笑みが消え、考え込むような仕草を数秒間とった後、真剣な眼差しを俺に向けた。 「僕がこれから言う事、落ち着いて聞いてください。恐らく、貴方にとって大変ショックな話でしょうが……」 「なんだ急に改まって。前置きはいいから早く言え。話が進まんだろ」 表面上、俺は楽観的に振る舞ったが内心すごくビビってた。末期癌患者が余命宣告を受けるのもこんな感じなんだろうか。 「……貴方の、その、性器…なんですが、損傷が激し過ぎて…その…これ以上の治療は困難らしいんです。ですので…もう切断しかない、そうです。担当医の方が、言ってました…」 俺は余命宣告ならぬ、男性ドロップアウト宣告を受けた。何故か古泉から。 「救急車の中で、恐縮ですが患部を拝見させて頂きましたが、かなり酷い様相でした。素人目で見ても、もう手遅れだ、と思います…」 古泉は申し訳なさそうな表情で、古泉らしくない歯切れの悪い説明を続けた。 「一度手術室に入ったんですが、医師も手の施しようがない状態だったそうで応急的な処置に止まったようです。ですがこのままでは感染症を起こすのも時間の問題らしく、準備が出来次第、再手術……切除…の予定、だそうです…」 目の前が真っ暗になったね。もう日が沈みきっていたので室内はかなり暗かったが、それ以上の闇が視界を覆っていた。 俺は天を仰ぎ、目を固く閉ざした。そうでもしなきゃ涙が出ちゃう。だって、男の子だもん。 「…ハルヒはどうした?俺をこんな目に遭わせといて、逃げたのかよ?」 古泉は溜め息を吐いた後、俺にハルヒの居場所を教えた。 「涼宮さんは病院の外にいます。貴方に合わせる顔がない……と。かなり落ち込んでましたよ」 「キョン君…涼宮さんはワザとやったわじゃないの。許してあげて…とは言えないけど、あまり涼宮さんを責めないであげて…ね?」 こんな状態の俺よりハルヒが心配ですか。そうですか。 「みんな、出てってくれ。ひとりになりたい」 「そうですね…恐らく、もうそろそろ手術室の準備が終わる頃ですし、それまでお一人で考える方が良いでしょう。僕らがどうこう言える問題ではありませんから……」 目を閉じたまま、古泉たちがドアから出ていく音を確認した。 その瞬間、不意に右目から一筋の涙が流れた。本当は大声で泣き叫びたいが、下半身を支配する激痛によって断念した。 これは古泉たちのタチの悪いドッキリか?手術室に運ばれて、無駄にデカイハサミを持った医者が俺に迫ってくるんだ。 もう駄目だーってところで古泉が派手な札を持って現れ、長門がカメラを回してて、朝比奈さんが申し訳なさそうにしてて。 いや、違う。ドッキリなんかじゃない。この痛みは本物だ。残念ながら。 しっかし、ハルヒがこの場に居なくて良かった。今、俺の頭の中ではハルヒに対する罵詈雑言が文章を成さずに乱れ飛んでいる。 アイツの面を見てしまえば、それらが憎むべき敵を破壊するために俺の口から一斉に放たれるだろう。 激痛が走ろうとも、その全てを思い付く限りの罵声に変換にしながら、俺は止まらない。自制できる自信などない。自制する気もない。 少しずつ落ち着いてきた。だが、落ち着く程に悲壮感が増す。 俺は今まで、自分の将来を真剣に考えた事はほとんどなかった。大学受験の準備に全く手をつけていないことからもそれは明白だ。 何故かって?決まってるだろ。今がとても楽しかったからだ。 宇宙人や未来人や超能力者と仲良くなって、たまにそれらの敵対勢力が攻撃を仕掛けてくるんだぜ? 昔誰かが記した何の役にも立たん戯言を覚えてる場合ではないんだ。 そう思いながらも、俺の頭の隅には人生計画があった。 普通に働いて普通に結婚して普通に子供つくって普通に老けて普通にあの世行き。 別にそれでいいと思えるほど、この一年間はとても楽しかった。俺なんかにはもったいないぐらいに。 でもそれもいつかは終わるのはわかってたさ。 でも、なんだよこのオチは。 アソコ切断だ?そんな状態で、どうやって男として生きていける?子供なんか作れないし、そもそも結婚なんてできやしない。 全てハルヒのせいだ。アイツには感謝してるさ。俺を非日常に巻き込んでくれたからな。退屈しなかったさ。 だが、そのハルヒの蹴り一発で俺のこれからの人生は暗く閉ざされた。 なんでだよ。ふざけんな。畜生。 「ち…く、しょう……」 食い縛った歯の隙間から言葉が漏れる。きっと酷く不細工な面になってんだろうなぁ、今の俺は。 …全て私の責任…」 ん? なんか今、声しなかったか? ずっと目閉じてたから気付かなかった。 無表情の少女が窓の横に立っていた。 出てってなかったのかよ…… 「長門。お前、なんでまだここにいんだ?さっき出てけって言ったろ」 「私は貴方に話す必要がある。それが私が此処にいる理由」 あぁそうかい。何だ、話す事って。 「今回の事象は私の責任。あの時間、あの場所に涼宮ハルヒが存在していたのは貴方がドアを開ける前から感知していた。でも私は何のアクションもとらなかった。とっていれば高確率で今回の事象を防げた。何もしなかったのは私の怠慢。だから、私の責任」 だから何だってんだよ。お前が俺に詫びたところで、何も変わりゃしな………いや、待てよ。 長門にはサイヤ人も倒せるインチキパワーが使えるんだ。もしかしたら……… 「お前の責任だとして、だ。ただそれを言いに来ただけか?」 期待と不安が俺の中で激しく攻めぎ合う。ここで長門の口から俺の望む答えが出なかったら、自害も視野に入れよう。そうしよう。 「情報統合思念体から許可が下りた。これから貴方の下半身の損傷部位の再構成を施す」 あぁ……神様仏様ご先祖様長門様!!本当ですか!?直してくれるんですか!?長門様以外の三名は特に何もしてくれてないけど、ついでに拝ませていただきます!! ……落ち着け俺。古泉説によると神様は俺のアソコをぶっ壊した元凶だ!除外! 「現在の貴方の男性器の状態は尿道、睾丸、陰茎表面の損傷と多岐に渡る。このままでは排尿機能、生殖機能ともに機能しない。それに損傷部位から悪性の細菌が侵入する可能性が高い。 感染症を引き起こし、貴方の生命活動に支障をきたす可能性は現在無視できる程度の数値。しかしこれ以上時間の経過は数値の上昇を加速させる。よってただちに再構成を開始する」 本当にヤバい状態なんだな、俺のアソコは。 長い専門用語で、ある程度の説明を終えた長門は俺が寝てるベットに寄って来て……って、長門!なぜに俺の服を脱がす!? 「貴方が今着ているのは、この施設の入院患者に着用させている指定衣服。再構成する際、損傷部位を露出させる必要がある。だから貴方の衣服を脱がしている」 言いながら長門はテキパキと俺から入院患者用の服を脱がしてゆく。まぁ長門がそう言ってるんだし、ここは大人しく従うべき……って、損傷部位の露出!?簡単に言えば、長門に俺の瀕死状態で虫の息になってる息子を見られるってことじゃねーか! 「大丈夫。私は気にしない」 いや俺が気にするよ。ってか俺のアソコは直視できる状態なのか?古泉によると明らかにヤバい状態らしいが。 いつの間にか俺はほぼ全裸にされていた。露出されたアソコにはガーゼやら透明なフィルムやら細いゴムチューブやらが一斉に集中してて、なんともいえない賑やかな様相だ。 「……長門。このガーゼやらシートやらチューブやらも、外さなきゃいかんのか?」 「この程度の障害物は問題ない。この上から再構成を行う。心配ない」 なら安心だ。自分の息子の無惨な姿を見ずに済むし、長門に見られずに済む。ついでに言うと俺はグロいのは苦手なんだ。 長門は俺のアソコに手をかざし、ゆっくりと目を閉じた。俺は全裸になるのを防ぐために脱がされた服を上半身に当てがりながら、長門の様子を観察していた。 長門は気功やらの先生がそうするような感じで、かざした手をゆらゆらと小さい円を描くように漂わせていた。 なんか心霊治療を受けてるみたいだ。これでロウソクや怪しい雰囲気の音楽がセットされてたら、いつぞやの長門式民間療法とそっくり。 こんなに冷静に、いや、他人事のようにしていられるのはどうしてだろう。 長門の横顔を眺めながらそんなことを考えてると、長門は揺らしていた手をピタリと止めた。 一息つくような仕草をとった後、あの超々高速早口を放った。 その瞬間、長門の掌と俺のアソコが光り出した。その間を光の粒が漂いながら往復を繰り返している。幻想的で見とれそうだが、一番光ってるのは俺のアソコだ。途端に凄まじく恥ずかしくなった。 「……終わった」 「…そ、そうか。色々すまん」 いつの間にか再構成とやらは終っていた。俺は途中で恥ずかしくなって、抱えこんだ服に顔を押し付けてたから治癒を見届ける事はできなかった。 自分のアソコがギンギンに光ってるんだぞ?しかもすぐ横に年頃の女の子がもうちょいで触れそうなところまで手を伸ばしてんだ。そんな異常な状況に耐えられるほど場慣れしちゃいない。 随分暗くなっていたんで、俺はベットに備え付けてある小型の蛍光灯のスイッチをオンにした。 目が闇に慣れていたせいか、眩しくて思わず光源から目を反らした。 長門も同じようにそっぽ向いた。意外だ。長門も眩しく感じることがあるのか。視力なんかアフリカのナントカ部族よりも良さそうだし、色んな機能が備わっていそうだがな。 だが、長門のそっぽ向いた理由が瞬時にわかった。いやこれは俺が思いついただけのことで、長門はそんな理由でそっぽ向いたんではないと思う。 俺、今、真っ裸。 俺はベットから飛び降り、速攻で抱えていた入院患者用の服を着た。気付くのが大分遅れたが、俺をベットに縛りつけていた激痛は全く感じなかった。 よっしゃ完全回復!俺は小さくガッツポーズをとり、長門に懇切丁寧に礼を言おうとして振り向いた。 「……全て私の責任。…だから、もし…」 まだ責任がどうとか言ってんのか。お前は俺を治してくれただろ。それに、そもそもお前に何の落ち度もない。お前がさっき言ってた責任の理由だって、無理矢理こじつけたようなもんだ。その理由が通るんなら、小泉も朝比奈さんも、俺も同罪だ。 あの時誰かがハルヒに声をかけていれば、黙っていなければ、俺が蹴られることはなかった。それは俺にも言えること。むしろ俺自身が一番、あのアクシデントを回避できる立場にいたんだ。ハルヒの目の前にいたんだからな。 はは、現金だな俺って。さっきまで全部ハルヒのせいにしてたってのに。治った途端に、俺が一番間抜けだってことに気付いた。どうかしてた。ハルヒの行動なんかある程度予測できたはずだ。 アイツがドアを蹴り開ける場面なんて、飽きるほど見た。なのに俺はその間合いに入っちまった。なんて馬鹿なんだ。 しかし、腑に落ちないことが一つある。何だってハルヒはドアの前であんなことしてたんだ? 深呼吸してた。目もガッチリ閉じてた。ありゃなんのまじないだ? 納得いく推論が全く浮かばん。 長門の聞き取りづらい発声で我に返った。そういや、責任の後にまだ何か言ってたな。 「すまん長門。ちょっと興奮気味で聞いてなかった。もう一度、最初から頼む」 長門は少し戸惑うように視線を漂わせた後、さらに音量を下げて続けた。まるで独り言を呟いているように。 「…全ての責任は私にある…だから…もし、再構成された生殖機能に貴方が不安を感じるなら……」 感じるなら? 「……私の体で性交渉を試行しても…構わない…」 ……………はぁ? 性交渉って、つまりその……アレのことか?何故それを長門としなきゃならんのだ。 「情報統合思念体の許可を経て行われる有機物質の再構成は必ずしも完璧とはいえない。もしも貴方に対して行った再構成に不備があったら、子孫繁栄に悪影響を及ぼす危険がある。今のうちに検査と確認を行う方が得策」 長門はいつもより小声で早口だった。しかも俺の目をみていない。 気のせいであってほしいが、蛍光灯の光に照らされて白く輝く長門の頬はやや赤みが差している気がしないでもない。なんかあの世界の長門とダブって見えちまう。 この状況にこの提案。もうね、この一言に尽きるよ。 それ、なんてエロゲ? そりゃ俺も健全な一男子高校生だ。ついさっきまで健全じゃなかったのは置いといて、そういう事柄には興味をそそられるさ。 本音を言っちゃえばさ、俺みたいな冴えないヤツが長門ほどの可愛い女の子とどうにかなっちゃうのなら、それはそれで嬉しい。 事実、俺は長門に対して少なからず好意を抱いているし。 だが、「試しにヤッてみる」となると話は別だ。ここはハッキリと長門に言うべきだ。俺自身が本能を抑え込み、理性を保つためにも。 「いや、遠慮しとくよ」 「…………そう」 何でだ!何でそんな悲しそうな目をするんだ長門! しかも俺、ちょっと後悔してるし! 駄目だ。煩悩を振り払え。俺はまだ長門に言わなくちゃならないことがあるんだ。 「…長門よ。性交渉ってどんなものか解ってるか?」 長門はようやく無表情に戻り、答えた。 「理解している。有性生殖の機能を持つ生物、特に哺乳類がそれに当たる。異性の生殖細胞と組み合わせて自らの遺伝情報を後世に残すための本能的行動」 そうじゃないんだ。俺が訊きたいのはそんなことじゃない……!っていうか文系の俺にはよく理解できない……! 「じゃあ長門。質問を少し変えるぞ。性交渉は、どういう相手とするんだ?」 「さき程述べた通り、自分とは異なる性を持つ者。つまり異性と」 「理論的な話じゃないんだ!お前の感情論で言ってくれ!」 つい声を荒げてしまった。しかしこのままではこの議論は堂々巡りになってしまう。うやむやにはしたくないんだ、俺は。 「…私の感情論?」 そうだよ。自分の感情を言葉にするんだ。本やデータの引用じゃない、お前が思うことを。 「……私は情報統合思念体によって造られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェイス。感情は対象の観察に不必要」 「いい加減にしろ!!」 俺の一喝に警戒したのか、長門は体はピクリと揺れた。 俺は完全にキレちまった。先程理性を保つためとかいっておいて、結局は本能を剥き出しにしてしまった。しかもこんな女の子に対して。最低だ。だが、長門に「結論」を出させるためなら、仕方ない。 「感情は必要ないだと?お前はそうやって俺の質問から逃げるのか!?だったら!俺たちと一緒にいたり、色んな本を読んだりしてきたお前の時間は何だったんだ!! そうしてる間、お前は何も感じなかったのか!?俺たちと一緒にいたのは親玉に報告する義務だったからか!?そんなもんだったのかよ!!違うだろ!!」 息継ぎナシで怒鳴り続けたせいか、頭がクラクラする。言ってることも滅茶苦茶だ。自分がなに言ってんのか、わからなくなってきてる。 「感情がないはずがない!お前は一人の人間なんだよ!俺たちの仲間の長門有希なんだよ!」 もう意味がわからん。どうにでもなれ。 「エラーなんかじゃない!それはストレスっていうんだ!人間なら生きてる上で誰でも感じるもんなんだ!」 はは……情報連結解除だっけ?あれ、今すぐ俺にやってくれ。 「……私…は…人間…?」 長門は声をほんの少し、震わせて言った。今、長門は黒い宝石のように輝く瞳を俺に向けている。潤っているんだろうか、それとも蛍光灯がすぐ近くだからだろうか、いつもよりキラキラと輝いていた。 俺はベットの向こうに佇む長門の呟きに答えた。 「そうだよ、長門。お前は人間なんだ。ちっとばかし複雑な事情があるだけの、な」 長門は泣いていた。泣きじゃくるわけでもなく、鼻をすするわけでもない。ただ涙腺が刺激されて分泌された体液が流れ出しただけ、そんな機械的な感じ。 ……いいや、違う。機械的なんかじゃない。何故かって?だって、その姿は、爆発していた俺の感情を優しく静めてくれたからさ。 女の子の涙を見て落ち着ける俺は不謹慎か?悪趣味か?違うね。その涙には悲しみなんて成分は含まれてないんだ。成分表示なんか記載されてないが俺にはハッキリ見える。嬉しい、っていう成分表示が。 「やっぱりあるじゃないか、感情」 俺は意識せず呟いた。脳のナントカ神経の仕組みなんか知らねぇ。だがな、涙腺を刺激するものぐらいは知ってる。感情だ。 俺は右手を目一杯伸ばし、長門の頬を伝う涙を人指し指でそっと拭った。普通だったらティッシュかハンカチで拭うが、俺はその涙に触れたかった。やっぱり俺って悪趣味? 長門は抵抗せず、目を閉じて俺が拭い終るのを待っていた。 長門の涙を拭い終えた俺は、深呼吸した。そしてベットに両の掌と頭の天辺を押し付けて一気に喋った。 「長門!本ッ当にすまんかった!怒鳴ったりして!俺どうかしてた!」 そして勢い良く頭を上げ、俺的に最高の笑顔を作って更に続けた。 「それと!俺の体直してくれて!本ッッ当にありがとう!」 俺はこんな体育系な事はしないが、仕方ないだろ?今の俺は嬉しさと恥ずかしさの相乗効果でハイになってんだ。 長門はいつもの無表情に戻り、 「………いい」 とだけ言った。一瞬、あの世界で一度だけ見た長門の微笑が俺の前に浮かんだのは気のせいだろうか。 「…一つ、教えて欲しい」 何だ?俺がわかる範囲なら何でも教えるぜ。平行宇宙がこの宇宙からどれぐらいの距離にあるのか、なんてのはパスな。 「さっき貴方が私にした質問の答え。私にはうまく言語化できない」 えーと……俺の質問って…なんだっけ? 「……性交渉はどのような相手と交すのか、という質問。私は、成熟した生殖機能を持つ異性、という答えしか導くことができない」 あぁ……それか。完全に忘れてた。 「そうだな…だが、それは俺の知ってる答えだ。お前がそれを鵜呑みにすることはないぞ。あくまで参考として、答えは長門自身が出すんだ」 「……承知した。努力する」 「えっとだな。その相手ってのはな、まぁ…なんだ、一番愛しいヤツの事だな」 「…愛しい?よく理解できない。別の言語に置き換えることは可能?」 まだ続けなきゃならんのか…俺、滅茶苦茶恥ずかしいんだが。仕方ない、腹をくくるか。そもそも長門との議論を今の流れにしたのは俺だし。 「そうだなぁ。簡単に言えば、自分の人生の中で、コイツとはずっと一緒にいたいって思える事、かな」 「……その答えでは、貴方は私とは一緒にいたくない、という結論が発生する」 なんでそうなるんだ?俺がそんなこと思うはずないだろ。絶対ない。一体どんな方程式を使った? 「……貴方は私との性交渉を断わった。つまり……私に『愛しい』という感情を抱いていない、ということになる」 あ~、そういう風に受け取っちゃったか… 「違う違う。そんな意味で断ったんじゃない。そういう行為はまだ早いってことだ。俺も、長門も」 「……早い?」 長門は数ミクロン首を傾げ、目でその意味を訊いてきた。 「つまりだな、そういう行為には順序ってもんがあるんだよ。仲良くなって、手を繋いだり、その…キスしたり…抱き、あったりしてだな、お互いの気持ちを確かめ合って、するんだ。俺は……そう思う」 間違ってないよな?なんか綺麗事言ってるかもしれんが、考えてみてほしい。 「好きです。ヤらせてください」 「是非。喜んで」 なーんてあるわけないだろ。あったとしてもだ、そんなの全然高校生らしくねぇ。全然甘酸っぱくねぇ。それとも俺が遅れてるのか? しかも長門はわざわざ俺の将来に配慮して、あんな事言ったんだ。感謝するべき事かも知れないが、簡単に言えばそれはバグチェック。さっきの例文に照らし合わせると「好きです」の部分がないってことにもなる。 「ヤらせてください」 「是非。喜んで」 行為にのみ重点を置いてるだろ?まさしく、それ何のエロゲ?ってわけだ。俺、嫌だよそんなの。 だが、ここで長門は俺の気持ちを無視したかのような、とんでもない発言をした。 「交流は図書館で深めた。手は世界改変の修正後、病室で繋いだ。朝倉涼子の襲撃後、教室で貴方は私を抱き寄せた」 なんだなんだ。何が言いたいんだ、長門。 「まだ消化していない順序は、キスのみ」 呆れた。そんな、流れ作業の手順みたいに言うとはな。お前はそんなにバグチェックがしたいのか? 「そうじゃないんだって。肝心なとこがわかってねぇ。全然わかってねぇ」 俺は首を振りながら長門に言った。 長門は意外にも反論した。 「わかっていないのは貴方」 長門は抗議するような口調で答えた。怒ってるのか…?こんな高圧的な口調で言われたのは初めて……いや違う。前にもあったな。確か……映画撮影の時、か? さっきの涙でふっきれたかのように長門は厳しい口調で続けた。 「貴方は言った。私という個体には感情があると。それは私も気付いていた。情報処理にエラーが頻繁に発生している。私に元々備えられていたソフトだけの動作ならエラーは発生しない。 つまり私の把握していないソフトが動作している。これが感情と呼称されるものかは不明。だから私は確かめたい。感情というものなのか、それとも単なるバグなのかを」 長門の長い独白は俺に大打撃を与えた。長門がこんなにまではっきりと自分の意思を表明したのは初めてかも知れない。 そして俺は驚いていた。長門が自分自身と向き合っている事に。俺はさっきあんなに偉そうな事言っておいて、いざ長門が自身の感情を探っていると知ると、意外だなって思った。長門はそんなことしないって思ってた。 それはつまり長門のうわべの属性ばかり見ていたってことだ。結局俺は長門の本心を全然わかってなかった。全然ダメじゃん。 「私はそれを確かめる手段として提案をした。貴方は提案を了承こそしなかったものの、私の知らないことを教授してくれた。感謝している。でも貴方はわかっていない。私は決して生半可な考えで提案したのではない」 あんな自分勝手で何でも解ってる風な戯言に感謝していると言われても嬉しくない。だが、言ってしまったことは取り消せない。ならどうすればいい? 決まっている。長門の提案に今度こそハッキリと答える。一度断わったが、それは自分のエゴで答えただけだ。 俺にとって長門の存在ってなんだ?命の恩人?頼れる仲間?俺が所属するグループの一人? 俺はSOS団の今の関係を壊したくない。今のままでいたい。だが、そろそろ変わらなきゃいけないのかもしれない。関係も、俺の保守的な気持ちも。 壊すのではなく、次のステップへ もう言いたいことは言ったのだろうか、長門は黙って俺を見ていた。 俺は息と思考を整える。覚悟を決めろ。言うんだ。 「長門。性交渉はダメだ。これは俺が真剣に考えた、お前の提案に対する答えだ」 「………そう」 「だが、キスは…いいぞ」 長門の瞼は数ミクロン持ち上がった。 「その…お前がいいのなら」 「………なぜ?」 「前に言ったよな。長門のためなら出来る限りの事はするって。今まで命を救われてきたお礼だって。だから、もしそれでお前が大切な何かを発見できるなら、俺は構わないよ」 この後に及んで、俺はまだ恩着せがましいことを言ってる。ずるいよな。フェアじゃない。 「長門だけじゃない、俺も何かを見付けられるかもしれないんだ。見付けられないかもしれない。五分五分だ。でもやってみなきゃ始まらない。いいか?」 「…いい」 長門はハッキリと頷いた。 俺と長門はベットを挟んだまま、ベットに手をつき体を支えながら少しずつお互いの顔を近づけてゆく。 くそ、覚悟してたけどやっぱり緊張するぜ。 長門が目を閉じたのに倣い、俺も目を閉じる。数センチずつ近付いていたのが数ミリずつになっていく。 俺は薄く瞼を開け、長門の唇の位置を確認して位置補正、再び瞼を下ろす。 長門は震えていた。目を閉じててもわかるほど。俺も震えてた。どちらも、無理な体勢からくる震えではない。 もうすぐ、くっつく。 俺は、変われるのか。どう転ぶかわからん。そんときはそんときだ。 ……いくぞ!「待って」 ………へ? 「涼宮ハルヒが情報封鎖空間に接近している。失念していた。かなり近い。あと43秒で接触する」 長門は一瞬でいつもの調子に戻った。 俺はワケが解らず、そのままの状態をキープ。 「今から貴方に説明しなければ矛盾が生じてしまう。貴方は早くベットに横になって」 俺は言われるがままにベットに潜り込んだ。一体何が起きたってんだ。わけわからん。 「貴方の損傷部位の再構成する際、他人の干渉を遮断するために情報封鎖を行った。ここでの会話が外部に漏れることはない。接触まで33秒」 確かに、俺は怒鳴りまくってたからな。あれが外にいるひとに聞かれるのは精神的にキツい。例え誰もそのことに触れなくても、だ。だがここで疑問が発生した。 「俺って再手術受ける予定だったんだよな。どうすんだ?治っちまってるぞ」 大丈夫。広範囲の人間にあの事故の該当記憶を消去し、擬似記憶を組み込んだ」 ってことはハルヒが蹴られた事実はなくなってるのか? 「涼宮ハルヒが貴方に危害を加えたことは事実。しかし原因を覆すのは困難。よって、結果を操作した」 ということは。何だ?途中で切ってもわからんぞ。全然わからん。 「貴方は涼宮ハルヒに蹴りを浴びたことで痛みを堪えようと異常な腹圧がかかり、軽度の腸捻転を引き起こした。貴方は救急車両でこの病院に運ばれ緊急手術を受けた。その手術は成功。今の貴方は術後管理下に置かれた状態」 「それが擬似記憶。貴方はその事を考慮してつじつまを合わせてほしい。接触まで17秒」 「さっき病室にいた朝比奈さんや古泉もか?」 「そう。本当の記憶を持っていると彼らとの人間関係に何らかの障害が発生する恐れがある」 確かに。アソコが潰れた、なんて知っていてほしくはないからな。変に気を使われるのはいたたまれない。 「接触まで09秒。この場に私がいるとさらなる問題を起こしかねない。緊急離脱する」 緊急離脱?どうやってだ?廊下には既にハルヒがいるんだろ?どこから脱出すんだ? ……窓がいつの間にか全開になってる。そこからか。 長門は窓枠に手をかけ、最後に俺に言った。 「……続きは、またの機会に」 長門の姿は消えた。外からトサッと小さい音が聞こえた。 無事に着地できただろうか。窓から見える景色だけではこの病室が何階なのか、俺には目測できん。まぁ大丈夫だよな。 俺は長門のカウントダウンを数えられるほど落ち着いてなかったので、ハルヒがいつ来るかはっきりとはわからん。 落ち着こう。短い深呼吸。目を閉じて、口の中で言葉を繰り返す。俺は腸捻転、アソコは潰れてなどいない。俺は腸捻転だ……腸捻転って何だ? ヤバい!そこんとこ突っ込まれたら、俺は何て言えばいいんだ!?畜生!メチャ焦ってるぞ俺!どうにでもなれ! コン、コンッ ……ノックする音が病室に響く。おいでなすった。 「……入っていいぞ」 ハルヒだってのはわかってるから、別にこの口調でいいよな。 ドアが随分ゆっくりと開く。変に緊張するからさっさとしろよ、ハルヒ。 思った通り、いや、長門が言った通りか。そこには今まで見たことのない、重苦しい表情をした涼宮ハルヒが立っていた。 ハルヒは後ろ手でドアを閉めた。それと同時に顔を下に向け、垂れた前髪で表情が隠れてしまった。 だが、俺には表情が見えなくてもハルヒが何を考えてるか、よくわかる。 ハルヒはひどく落ち込んでいた。 さて、それは何故か? 俺をこんな目に遭わせたのはハルヒであって、しかも俺は手術を受けるハメになった。金も結構かかっていることだろう。その請求はどこに向かう? 生憎うちは金持ちじゃない。当然ハルヒ側が払うことになるだろうな。それはハルヒが親に迷惑をかけることになる。ハルヒはそれで落ち込んでいるのかもしれない。 ……我ながら、なんて下品でひねくれた解釈だろう。いや、実際俺はそんな風には思ってない。俺が言いたいのは、ハルヒの落ち込みはそんなチャチな利益を含んだもんじゃないってことだ。 もっと、深いところからこみあげる、後悔と自責の念。 ハイなハルヒもローなハルヒも間近で見てきた俺が言うんだ。間違っちゃいない。多分な。 ハルヒは自分から訪ねてきたくせに、長い間黙り込んでいた。 俺には、その沈黙が嫌ではなかった。別に落ち込むハルヒを見て悦に入ってるわけではない。そもそもハルヒが黙ってるなんて、天変地異が起こる前触れと言っても過言ではなく、そうなる度に俺は慌てふためいたわけだが。 何ていうか、その沈黙には俺に対する気遣いが感じとれた。出稚扱いの俺に対する、だ。 だがこのままでは話が進まない。俺はハルヒに問いかけた。 「何だ?話があるから来たんだろ?黙ってないで言ってみろ」 「……あ、あの……その、本当に、ごめんなさい!」 ハルヒは深々と頭を下げて言った。 そう来ると思ってたが、こんなに深いお辞儀をされるとは思わなかった。 「もう良いよ。俺の不注意ってのもあったんだしさ。頭上げろよ。お前らしくない」 ちょっと前までハルヒにキレていた俺だが、長門に治してもらったのと長門の告白で怒りなんかどっか遠くに飛んでいっちまった。 「そう言ってくれるのは嬉しいんだけど……駄目なのよ!それじゃあ!」 ハルヒはほんの少し頭を上げて叫んだ。まだ表情はわからない。 「だって……あたしがあんなことしなけりゃアンタが手術するようなことにはならなかったのよ!前からキョンはあたしに注意してたじゃない!?『壊れるからドアを蹴るな』って…!それなのにあたしは止めなかった!結局アンタをこんな目に遭わせて!最低の馬鹿よあたしは!」 一気に巻くし立てたハルヒはまた黙り込んだ。呆然とした俺は、一瞬だけ、垂れて揺れる前髪の隙間からハルヒの瞳が見えた。一杯の涙を溜めた瞳が。 俺はゆっくりベットから起き上がった。一応「腸捻転」の手術を受けたことになっている。病名に「腸」がつくくらいなんだから開腹手術だろう、その術後の患者が動き回っちゃいけないんだが。まぁ完全回復してるんで見逃してくれ。 俺はハルヒに近付いて、肩に手を置いた。 ハルヒはビクリと反応した。 「ハルヒ。本当に俺に悪いと思ってるなら、俺の顔、俺の目を見て謝れ。ちっとばかし失礼じゃないのか?」 ハルヒはぎこちない動きで頭を上げた。 やはり泣いていた。両目を真っ赤にして、涙を溜めていた。 俺は満面の笑みでハルヒを迎え入れた。 「なんでよ…なんでそんな顔するのよ……」 「む、なんだ。それは俺の顔の出来が悪いって意味か?」 俺は笑い声で答える。 「なんなのよ…あたしのせい、なのに……」 「しつこいぞ。俺の忠告を聞かなかったお前も、お前の前にアホ面で立ってた俺もおあいこだろ。もう済んだことだ」 「うぅ……キョン、ごめんなさい……」 「心配かけて悪かったな、ハルヒ」 ハルヒは俺の服を掴んで顔を俺の胸に埋めて泣きじゃくった。長い間そうしてた。 全く、長門といいハルヒといい、今日に限って涙腺緩みすぎだぜ。そういや俺もちょっと泣いたっけ。 落ち着いたハルヒは、ベットに俺と並んで座り涙を拭いた。 「なんからしくないとこ見せちゃったわね。でもまぁ、とにかくゴメンね?」 「じゃあさ、謝るついでに一つ教えてくれないか?」 「なによ?あたしに答えられること?」 そうだ。ずっと引っ掛かってたことがあるんだ。あの時のハルヒの様子についてだ。 「あの時、お前が俺を蹴り飛ばす前にさ、何してたんだ?」 「何って……何のこと?」 「いや、お前さ、ドアの前で目閉じて深呼吸してただろ?あれだよ」 ハルヒは顔を赤らめてうつ向いた。 「笑わないで…聞いてくれる?」 「あぁ、誓う。絶対笑わない」 「えっとね、中学の話は前にしたよね。すっごく退屈だったって話」 俺は相槌を打ちながら「聞いた」と言う。 「それでさ、高校に入ってからSOS団を作ったじゃない。それからが全然退屈じゃないのよ」 「いや、結構退屈だって言いまくってた気がするが」 「それは…あたし自身の本当の気持ちがわかってなかったんだと思う。有希と、みくるちゃんと、古泉君、それに…キョンに会って、あたし変われた。あたしを理解してくれる仲間に会えたんだって。そう思えるようになってた」 ハルヒの独白は長い。いつか聞いた、野球場で何たらっつう話も長かったし。まだハルヒの話は続く。 「皆で旅行したり、パトロールしたりグダグタしたりしてて、思ったのよ。まるで夢の中にいるように楽しいな、って」 それは俺も同感だ。結構楽しいぜ。楽し過ぎて俺の財布は悲鳴を上げっぱなしだ。 「でもさ。時々不安になるのよ。もしかして本当に夢なんじゃないか、幻を見てるんじゃないか、って」 ……古泉説によると、そうなるんだよな。 この世界はハルヒが見ている夢の舞台、そんな内容だったはずだ。外れている事を願うばかりだね。夢なんてのは見たり見なかったりするものだが、どちらにせよいつか目が覚めてしまうのは当然なんだ。 「だから……部室のドアを開けたら、SOS団が全部消えてなくなっちゃってるんじゃないか、って思っちゃうの。そう思うとドアを開けるのが怖くなっちゃって……」 俺は何も言わずハルヒの話に耳を傾ける。ハルヒの焦点は遥か遠い何処かを結んでいた。 「変なこと言ってるって思うでしょ?あたしもそう思う。何でだろ。宇宙人も未来人も超能力者も、まだどれにも会ってないっていうのにね。団長のあたしがこんなんじゃ、示しがつかないわよ、全く」 ハルヒは勢い良くベッドに背中を預けた。スプリングの強い振動が俺に伝わってくる。俺が本当に手術受けた患者だったらどうする。傷に響くだろうが。戒めとしてちょっとからかってやろう。 俺は背中を丸め、両手で腹を押さえた状態で演技モードに入る。 「うっ…傷が…いてぇ……」 俺演技下手だな。人生をどう間違っても役者なんか目指さない。映画の続編はやっぱり雑用にしてくれ。 しかしハルヒは血相を変え、俺ににじり寄った。 「えっ…ちょ、キョン!?大丈夫!?まさか…あたしがベッド揺らしたせい!?ごめんなさい…今誰か呼んでくるから!!」 ドアに向かって走り出そうとしたハルヒの腕を掴み、俺は舌を出した。 「ウ・ソ、だよ。こんなに簡単に引っ掛かるとはな」 ハルヒは唖然とし、みるみるうちに顔を真っ赤にして怒った。 「もぉ!ビックリさせないでよ!今の悪フザケであたしの寿命が縮んだらどう責任とってくれんのよ!」 「どう取ればいいんだ?提示してくれりゃ検討してやっても良いぜ」 「そうねぇ……何がいいかしら?」 おいおいマジに考えるなよ。ハルヒの考える事は解りやすいようで解りにくいからな。 ハルヒは顔を真っ赤にしたまま、そっぽ向いて言った。 「……辞めないでよね!」 「何を?」 「SOS団を!辞めるな!って言ってんの!」 検討するまでもない。辞める気なんてさらさらないぞ。幕を下ろすには中途半端だし、何よりも俺はSOS団に居たいんだ。 「辞めるわけねーだろ。全く、何考えてんだよ」 「だって……今までキョンに迷惑かけてたしさ、今回は流石に嫌われたって思ったから……」 ホント、こいつは要らん心配ばかりしやがる。今まで散々、常識無視の猪突猛進だったくせによ。お前らしくねぇよ。 「確かに。俺は今までお前に散々振り回された。我儘にも付き合わされた。普通だったら『もうウンザリだ!辞めてやる!』ってなるだろうな」 「やっぱり……そう思ってたんだ…そうよね……普通はそうよ…」 「俺は普通じゃないようだ」 「え……?」 ハルヒは豆鉄砲を食らったハトのような顔で振り向いた。いつもならアヒルなんだがな。 「なーんだかんだ言って、俺もう慣れちまった。お前といるとさ、いつどんな面倒事持ち込むのか期待しちまうんだ。どうせ俺が一番苦労するってのはわかっててもな」 ハルヒは目をパチクリさせて俺の顔を見つめている。俺の発言がそんなに意外だったか?普段のハルヒなら『当然よ!あたしは団長なのよ!?団員は黙ってついて行くのが務めってもんよ!』とか言いそうなのに。 「それにだ、SOS団はお前にとってだけじゃなく、俺にとっても最高に楽しいって思える場所なんだ。でもそれは決して夢なんかじゃない。俺たちが息吸って生きてる現実だ。だから」 俺は一息つき、続く言葉を放つ。 「俺の事もSOS団の事も心配無用。だからハルヒは、ハルヒらしく在っていてくれ」 ハルヒはまた目を潤わせた、と思ったら制服の袖で勢い良くソレを拭い深呼吸した。 「キョン、これから一番あたしらしくない事をするわよ。こんな機会は滅多にないわ。希少価値よ!超がついちゃうぐらいの、ね!」 いつもの口調に戻ったと思ったら、今度はなんだ?一番ハルヒらしくないって言われても。さっきの泣いてたハルヒ以上に値打ちのある姿なんて想像できん。 まさかえっちい事……じゃないよな。長門の爆弾発言がまだ尾を引いてやがる。あれやこれやと思案を巡らせていた俺は、不意に肩、首の周りに重圧を感じて我に返った。 ハルヒが俺の首に手を回して抱きついていた。ハルヒの頭が俺の頭のすぐ横にある。 ハルヒの体温、鼓動、呼吸が俺に伝わってくる。意外に焦らないものだ。なんだか母親に抱かれた子供が感じるような、安心感が俺を包み込む。 「…キョン…今までありがとう……そして…これからも、ずっと……」 耳元で囁いたハルヒは俺の肩に手を置き、俺の目の前に顔を向き合わせた。オイオイハルヒさん、一体何をする気だい? 「目、瞑って……」 俺は言う通りに目を閉じ、息を飲んだ。これってアレだよな?アレじゃなかったらなんだ?アレってなんだ?アレってもしかして、キスですか!? 長門に続きハルヒもかよ!悩み事打ち明けた後にキスしたくなっちゃう病気でも流行ってんのか!?いや、長門にキスを持ちかけたのは俺だ。ってことは俺も感染してるのか!?どうすんの俺!? 駄目だ目開けられねぇ!くそ!覚悟を決めろ!俺! 覚悟を決めるため、また震えを堪えるため、俺は今座っているベッドのシーツを力一杯握り締めた。さぁさぁ、ドンと来ぉい! ガチャリ。 思いがけない音が響いた瞬間、急に肩にかかった重圧が消えた。『ガチャリ』って、まさか…… 「ゆゆゆゆ有希ぃぃぃ!?な、何で急に入ってくんのよ!?びびビックリするじゃないのぉ!」 開け放たれたドアの前に立っていたのは、先程この部屋の窓から華麗、かどうかわからんジャンプで脱出した長門有希だった。 「……そろそろ麻酔の効果が切れる時刻なので様子を見に来た……何をしてるの?」 「なな何でもないわよ!?キョンが起きて、じょ状況が解ってないようだったから、ああたしがせ、説明してたのよ!そ、そうよねキョン!?」 「あ?ああ、そう!ほら俺、き気絶してただろ!?全然状況が解ってなくてさぁ!ちょうどハルヒが来たから訊いてたんだよ!」 「…………………そう」 ヤヴァイよ…今だかつてない負のオーラが、長門の周囲を覆っている……!やっぱり、怒ってるの…か? 「あのぉ、長門さんどうしたんですかぁ?……って、あれぇ、涼宮さん来てたんですかぁ?」 「おや、団員の元にイの一番に駆け付けるとはさすが涼宮さん。一団のリーダーとしてとても立派な事だと思います」 古泉と朝比奈さんが廊下からヒョイと顔を出した。二人は最初に病室にいたはずだが……長門の疑似記憶だな。 「み、皆喉渇いてるんじゃない!?あたし売店でジジュース買ってくるから!それまでご、ごゆっくりぃぃ!!」 完全にバグったハルヒは全速力で病室から逃げ出した。ずるいぞ!俺も逃げたいのに! 「涼宮さぁん、廊下は走っちゃ駄目ですよぉ~」 朝比奈さんはハルヒの背中に小学校勤務の教師的な注意を投げ掛けたが、ハルヒは一目散に走って逃げた。 「どうしたんでしょうね?凄く慌ててましたよ?」 「本人の発言の通り、涼宮ハルヒは喉が渇いているため水分補給をしに行ったと思われる」 古泉の疑問に即座に答えた長門は、凄まじく恐ろしい目で俺を睨んでる。他の二人は気付いてないようだが俺にはわかる……!長門は滅茶苦茶怒ってる……! ちなみにこの日、ハルヒは結局戻って来なかった。あの勢いじゃ日本列島一周しに行ってもおかしくはない。耳から蒸気を噴き出しながら爆走する暴走特急ハルヒ。コックに扮した秘密捜査官にさえ停めることは不可能。取りあえず放っておこう。 その後、古泉は俺の症状、手術に至るまでの経過、注意事項etcetcを延々と語っていたが、俺の耳には全く入らなかった。 原因は長門だ。ずっとあの調子で俺を睨んでいる。俺の緊張状態は金縛りを起こす一歩手前なわけで、演説大好きエスパー野郎の声を俺の鼓膜が通過させる余裕など微塵もない。 唯一鼓膜が通過を許可した古泉の説明は『退院まで一週間半かかる』との事。 つまり予定通りにいけば、一学期の終業式までには出席でき、すぐに夏休みが始まるというわけだ。 だからそれまでゆっくりと入院生活を満喫、なんてそうは問屋が卸さない。早く倒産すれば良いものを、とんでもないブツを2つも売りつけやがった。 まず1つ。怒り狂う長門をどう鎮めるか。 そして2つ。ハルヒにどのツラ下げて会えば良いのか。 せっかく9割以上の学生が喜んで待つだろう夏休みが間近に迫っているというのに、俺はこの2つの難題に取り掛からなくてはならない。 こんな鬱な夏休み前は生まれて初めてだ。それどころか夏休み後半、いや二学期まで引きずりそうな予感さえするのだ。 俺に試練を与えたもうた何処かにいる神へ、ありったけの憎しみを込めて俺は呟く。 『やれやれ』 涼宮ハルヒの蹴撃・終劇。 ~エピローグ~ この後、俺はどうなったかを語ろう。言っとくがちゃんと生きてるぞ。容態が急変した、なんてこたない。俺はこれ以上ないくらい健康だ。精神面を除いてだが。 まずは苦悩の入院生活についてだ。 長門は毎日、学校をサボって朝から晩まで俺の病室で本を読んでいた。タイトルが凄まじく攻撃的な物ばかりだったのは俺への当て付けだろうか。ちなみに『あの時の続き』はしていない。何だか生殺しな気分。 ハルヒも何故か毎日来た。日本列島一周は諦めたか、一晩で終らせたかは知らんが。ハルヒも明らかにサボりだ。病室で携帯いじりやボードゲームをしている。つまり病院で団活してるわけだ。 だが、長門が席を外してる間にハルヒは俺の入院着の襟を捻り上げ、 「あの時の事は忘れなさい!誰かに言ったりしたら、本っ当に死刑だかんね!」 と、脅された。当然俺は頷き、なかった事にしました。権力に屈した感がするが、死にたくないからな。 朝比奈さんと古泉は放課後、病室に毎日来てる。見舞いって名目だが、やっぱりする事は団活と同じ。 あんまし気遣ってないだろ、俺のこと。 担任岡部も見舞いに来て果物詰め合わせをくれたが、全てハルヒと長門の胃袋に収容された。 谷口&国木田も来たが病室がSOS団支部局になってる事に気付き、早々に帰っていった。 名誉顧問の鶴屋さんもしょっちゅう来てくれた。俺の病室が個室で本当に良かったよ。このひと声でか過ぎ。大部屋だったら即刻退去を命じられていただろう。楽しかったからいいけどさ。 で、退院後。部室で退院祝い鍋パーティが行われた。鍋の具は主にモツ。ハルヒ曰く『あんな蹴りで腸壊すなんて弱すぎよ!モツ食って鍛えなさい!』だそうだ。さらに大量のヨーグルトを買ってきやがった。モツ+ヨーグルト。即座に腹下しそうな食い合わせだなオイ。 もし全員が『本当の記憶』のままだったら鍋の具は一体何になっていたのだろうか。考えたくない。吐気がするね。 「キョン~!さっさと食っちゃいなさいよ!これから夏休み計画の会議するんだから!」 ちっとは優しくなるかと思ったら、我らが団長様はエンジン全開、フライングしまくりなテンションを保ってる。 もう、なんつうか…… 「やれやれ」だな、やっぱり。
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コンコン 「どうぞ。」 ガチャ 「失礼します。どうしたんですか?喜緑さん。」 「今日はちょっと涼宮さんについて試してみたいことがございまして、あなたに協力していただけないかと。」 「なんでしょう?」 俺はこのとき、俺にできることならなんでもやるつもりだった。 「涼宮さんが今まで他の人にしてきた行為と同じ事を他の人に涼宮さん自身がされたらどういった反応を示すのか試して見たいのです。」 「えっと、具体的にはどういった事をするんですか?」 「こうするのです。」 喜緑さんはいきなり自分の服を乱暴に脱ぎ、半裸になった。 「何してるんですか喜緑さん!服着てくださいよ!」 「あなたが着させてください。それまでは私は服を着ません。」 俺は逃げればよかったんだろうけど、あまりの出来事に脳はショートしていた。 喜緑さんも宇宙人という先入観も手伝ってとりあえず服を着せてやろうとした。 その瞬間。 カシャ! なんと生徒会長が写真を撮った。 「え!!???」 「じゃあそういう事だ。詳しいことは喜緑くんに聞いてくれたまえ。」 そう言うと生徒会長はこの部屋を出て行った。 「どういう事なんです?とりあえず服着てください。」 「このままでいいじゃないですか。それに言ったはずですよ?『今まで他の人にしてきた行為と同じ事を他の人に涼宮さん自身がされたらどういった反応を示すのか試して見たい』と。 簡単に言いますと、朝比奈みくるさんとパソコンを奪った方法でSOS団から部室を取り上げようとしているのです。生徒会長はこれから現像してSOS団に乗り込みます。」 「何を言ってるんですか喜緑さん!そんなことして何になるんですか?」 このとき俺はハルヒが俺を切り捨てて終わるんじゃないかとか、長門が何とかしてくれるとか考えていた。古泉も、朝比奈さんもいる。 つまりSOS団自体には俺がいなくなる可能性があるだけで変わらないと思ってた。 思ってたから喜緑さんに説明すれば撤回してもらえると考えたんだ。だからこのとき俺はそこまで焦っていなかった。生徒会長を追わなかった。 「あなたの考えている事はわかります。しかし我々思念体の判断は、涼宮ハルヒはあなたの不祥事に対し閉鎖空間を発生させます。 この場合の閉鎖空間は相当な大きさになり、まず古泉一樹は自由に行動できないでしょう。」 「長門がいる。あいつは俺の事を信じてくれるハズだ。」 「長門さんは、そうですね。あなたの事を信じているから、今回は静観することに納得してくれました。 あなたと長門さんはこの問題が終わるまで連絡を取ることはできませんが伝言を承っております。」 「なんです?」 「誤解は解ける。あなたを信じている。」 そうだ、何故か俺が悪いことをした雰囲気に持ち込まれているが、俺は何もしてないんだ。 「そうですね、長門の言うことを信じて誤解を解こうと思いますよ。まだSOS団を脱退したくないんでね。」 「あなたならそうおっしゃると思いました。私もあなたなら誤解を解くと思っています。」 「なら何故こんなことをするんです?」 「長門さんと同様、私も穏健派なんです。自体の急変は望まない。なぜなら対応できない事態に陥ったときのリスクが大きいと判断しているからです。」 「じゃあやめてくださいよ。」 「しかし、長門さんの観察により、涼宮ハルヒはあなたを信頼しているため、誤解が解けると判断されました。 ならば、自体を急変させ、観察し、誤解を解かせる。平穏に事態は収拾されます。」 「リスクがないから異常事態を発生させるんですか?」 「平たく言えばそういうことになります。」 「ついでに、朝比奈みくるの異次元同位体からも伝言を承っております。」 「なんでしょう?」 「『この時間帯の私は事態を把握していません。邪魔にさえなりかねませんが、この誤解が生まれる事は決まった事なんです。』と。」 「なら誤解を解くしかないのでしょう。ところで、長門が俺のと連絡取れなくなるのは何故です?」 「うふふ、禁則事項です。」 そこでウィンクですか。似合ってはいるが、朝比奈さんほどではないなとか考えていると、 「そろそろですね。がんばってください。」 と言い、急に喜緑さんは泣き始めた。 「どうしたんですか?大丈夫ですか?」 俺は焦って近寄った、瞬間 ドーン!! 「ちょっとキョン!!!どういうこと!!?この写真は!!???」 泣く喜緑さん。喜緑さんに近づく焦った俺。そういえば喜緑さんの服は… 「えっ?キョン?何してんの?ウソでしょ?」 しまった!最悪のタイミングだ。 「ハルヒ、落ち着け!」 「落ち着ける訳ないじゃない!!なんなのよアンタいったい!!」 ハルヒがそう言い終わった直後に朝比奈さんと古泉が来た。 「キョンくん…」 朝比奈さんは泣いていて、今にも倒れそうなほどショックを受けてるのがわかる。 「キョン!!なんとか言いなさいよ!!」 「だから、落ち着け。俺は何にもしてない。全ては誤解だ。」 「喜緑さん泣いてるじゃない!!そんな風にしといてよく誤解だなんて言えるわね!!」 コイツは人の話を聞かないことを忘れていた。 「申し訳ありませんが、状況を把握できていないので説明してもらえませんか?」 まるで俺に弁解するチャンスをくれるように言ってきた。だが表情はいつもより硬い。 「古泉くん、さっき生徒会長が来たでしょ!??そんでこの写真渡されて、お宅の部員が生徒会の役員に卑猥な事を強要してるって言うのよ! 信じる訳ないじゃない??いくら写真に写ってても、偽造とか疑うでしょ??そしたらこの部屋に行ってみろって言われたの!!来たらこのありさまよ!!」 「あなたからも説明してもらいたいのですが?それと朝比奈さん、彼女を保健室まで連れて行ってくれませんか?」 「はい…。」 さて、誤解を解くか…。 っ!!しまった!ハルヒの前で説明できない!どうする?考えるんだ。落ち着け、俺。 「何も言わないの!??アンタそんな人間だったの??」 そうだ、襲われたのは喜緑さんだ。古泉ならわかってくれるかもしれない。 「少し古泉と二人で話したいんだが、ダメか?」 「ダメに決まってるじゃない!!アンタどうせ逃げるんでしょ?それとも男なら気持ちわかるだろとか言って古泉くんを仲間にするつもり?」 なんの仲間だ。 「そうか。古泉、良く聞け。お前は、本当に俺が、喜緑さんを襲ったと思うか?いや、襲えたと思うか?」 喜緑さん、という単語を強調してみた。女性が喜緑さんだとわかってか、古泉の顔がニヤケた。いつもはウザいが、今日は朝比奈さん並みの笑顔に見える。 「俺は何にもやっていない。」 「なるほど。あなたの言い分はわかりました。僕個人としてはあなたを信じているのですが、この状況では僕には何もできそうにありませんね。」 もしかしたら、古泉は宇宙人の思惑にまで気付いてくれているのかもしれない。だが、古泉まで『涼宮さんとあなたなら誤解は解けるでしょう』とか思ってたら最悪だ。 「古泉くんはこのバカキョンの事を信じるのね。」 「ハルヒは信じてくれないのか?」 「あいにく、あたしは自分の目で見たことしか信じないの。」 ハルヒらしいな。 「じゃあ、ハルヒは俺が襲ってる所を見たのか?」 「見てないわよ。だからアンタにも弁解の余地をあげる事にするわ。」 やれやれ。弁解のしようによっては誤解は解けるかもな。もしかしたら誤解は解ける事が未来では決まっていたのかも知れない。 そうだ、いい事を思いついた。朝比奈さんとお前がコンピュータ研のパソコンを奪ったときを例にあげて、朝比奈さんに害が及ばないようについでに注意しとくか。 どうせ誤解は解けるんだし。 「ハルヒ、今の俺の状況は、お前が朝比奈さんを使ってコンピュータ研のパソコンを奪ったように生徒会長が喜緑さんを使って俺をはめ、SOS団を解散させようとしたんだ。 もう一度言う。俺は何もやってない。」 「ウソよ!喜緑さん泣いてたじゃない!」 「朝比奈さんだって泣いてたじゃないか。朝比奈さんは翌日学校を休んだんだぞ?言い換えればお前は俺に怒ってることと同じ事を朝比奈さんにやってるんだ。」 「え…」 ハルヒはとまった。目には涙が浮かんでる。 携帯の着信音が聞こえる。すごい速さで遠ざかっている。 やはり古泉の姿は消えていた。 喜緑さんと朝比奈さんは保健室。古泉はおそらく閉鎖空間。長門はいない。つまり俺とハルヒは二人きりだ。 「なあハルヒ、俺を信じてくれないか?」 「違うわ!!あたしとあんたとじゃあやってること全然違う!だってあたしは女でアンタは男じゃない!!」 しまった。少し言い過ぎたか。こうなるとハルヒは人の言うことを聞かなくなる。 「そうだな、少し言い過ぎた。だけど、俺は何もしていない。」 「何よそれ。意味わかんない。こんな状況で何を信じろって言うの?」 「そうだな。俺と古泉が逆の立場だったら信じられないかもしれない。」 「…喜緑さんにも話を聞いてくる。あんたは部室にいなさい!逃げたら死刑だからね!!」 「わかった。」 はあ、本当に俺は何にもしてないんだけどな。ハルヒも落ち着けばきっと信じてくれるだろう。 それよりも喜緑さんが余計なこと言わなければいいが、あの人もこれ以上は危険だってことはわかるだろう。いくら穏健派でも。 そんな事を考えてたら部室に着いた。ノックしないで入るのは久しぶりだな。 ガチャ 「えっ?長門??なんで??」 なぜ長門がここに?この件が終わるまでは俺の前にでないんじゃなかったのか? 「あなたは未来を書き換えた。よって誤解が解けない可能性がでた。それが私がここにいる理由。」 「どこで俺は未来を書き換えたんだ?」 「おそらくあなたは未来を予想した。本来なら弁解しかしない所、涼宮ハルヒに反論してしまった。 これにより涼宮ハルヒはあなたに対する信頼を低下させた。低下した信頼とあなたの誤解が解ける可能性は共に未知数。」 「そうか、俺は余計な事をしたんだな。どうすりゃいいんだ?」 「どうにもならない。」 えっ? 「もう誤解は解けないのか?」 「そうではない。誤解が解ける可能性はあくまで未知数。わたしにもわからない。あなたに賭ける。」 まるでいつぞやの閉鎖空間のようだな。ただあの時は答えがでてた。今回は同じ解答をすると取り返しのつかない事になるのは目に見えている。 「そうか、なら俺は誠心誠意誤解を解く努力しますよ。」 やれやれだ。 「わたしも協力する。」 そうか、助かるよ。 ガチャ。 「あんたいったいどんな脅しをしたの?喜緑さんは『彼の言った通りです。』しか言わないわ。」 「だから俺の言った通りなんだって。」 さて、どんな弁解をしよう。一番簡単なのは古泉が生徒会長に暴露させることなんだけどな。居ないけど。 「あの~キョンくん、本当に何もやってないんですか?」 朝比奈さん、来てたんですね。平気そうで何よりです。ただ、信用してもらえないのはちょっと、いえ、結構傷つきます。 「彼は何もやっていない。」 長門、何故お前が言い切る。逆に不自然だぞ? 「ちょっと有希!あんた何か知ってるの?」 「何も。」 「なんで有希までキョンを庇うのよ!古泉くんも庇ってるみたいだったし!」 「あの~涼宮さん、やっぱり私もキョンくんはそんな事するとは思えないんですけど。」 そうか、長門の正体を知ってる朝比奈さんなら長門の言うことの信頼性がわかるのか。俺は信じてもらえなかったけど。 「みくるちゃんまで?決定的証拠まであるのよ?」 「でも、わたしも喜緑さんと同じ事させられたんですけど。でもコンピュータ研の部長は無実じゃないですか。だからやっぱりそれは証拠にはならないんじゃないのかなって。」 「そう。わたしは証拠がないなら彼を信じる。」 朝比奈さん、長門!ナイスコンビネーション!! 「でも…」 ハルヒがごもった。これは誤解が解けるかもしれない。 「私は彼を信頼している。彼がどのような人間か知っている。彼はやってない。 それにもし彼が襲うとしたら、より弱者である朝比奈みくるを狙う。」 「狙わん!」 「わたしは信じてます。キョンくんがそんなことしないって。それに、キョンくんって意外とモテるんですよ?」 「キョンがモテるって?そんなわけないじゃない!仮にモテたとしても、関係ないわ!」 「彼が本当に暴走する人間なら私と言う固体を使ってエラーを除去する。」 「ちょっと有希!それどういう意味よ!」 「そうですね、わたしもキョンくんが本当にそんなことする人間だったらわたしにすればいいのにってちょっとだけ思いますよ」 長門、朝比奈さん。そこまで俺を信用しないでくれ。俺だって一般的な高校生なんだ。普通の高校生なんだ。 「あんたたちそれはどういう意味?」 「そのままの意味。」 「でもね、本当は私たちよりもっとキョンくんの事を好きって人を知ってるんです。」 朝比奈さん達のさっきの言葉には『俺の事好き』って意味も含まれてたのか。それはとても感無量だ。説得するためとはいえ、そんなこと言ってもらえるなんて。 ところでもっと俺の事好きって人?いったい誰だ? 「誰よこいつのこと好きってヤツは!」 「その人は、キョンくんがそういう事しないって信じてるからこそ今回の事件で取り乱したの。 でも本当は何故自分にそういう事しないんだって憤りも感じてるの。それに気付いてないから怒ってるんだと思う。 それに、その人はキョンくんに好かれている事をわかってると思う。」 「そう。」 長門に朝比奈さんのコンビって意外と強力だな。ところで誰なんだ?ハルヒにはわかったのか? 「まあいいわ。今回は有希とみくるちゃんに免じて特別あんたを信用することにするわ。その代わり言ってることが違ったら、わかってるわね?」 「ああ。わかってる。俺は本当に何もしていないから問題はない。」 ところで問い詰めないところをみると俺の事好きな人ハルヒは誰だかわかってるんだな。 誤解もほとんど解けたし、後は古泉に任せよう。そして帰りに俺の事好きだなんていう奇特な人の名前も聞いておこう。 「じゃあキョン!帰るわよ!」 「おいおい、俺の事疑っといて謝罪の言葉もなしか?」 「関係ないわ!疑われるようなことするあんたが悪いのよ。」 やれられ。余計なこと言わなければもっと早く信じてもらえたのかな? 「ところで朝比奈さんに長門。俺の事好きだって人、誰だ?」 「有希!みくるちゃん!こんな強姦魔には何も言わなくていいからね!」 顔が赤いぞハルヒ。 「いい。彼に襲われる事に問題はない。」 顔が青いぞハルヒ。 「でもキョンくんはその人以外にはしませんよ、涼宮さん。 それより、その『好きな人』がキョンくんと付き合っちゃえばそんな事しなくなるし安全じゃないですか?」 また顔が赤くなったぞ、ハルヒ。 「それより朝比奈さん、俺はそんな事してないですししないですよ?」 「そうでしたねっ」 「キョン!帰るわよ!!」 やれやれ。もうちょっと信用あると思ってたんだけどな。 帰り道はハルヒと二人だった。 「なあハルヒ、そろそろ教えてくれよ。いったい誰なんだ?」 「みくるちゃん言ってたじゃない!アンタの事を好きな人は、アンタが好きな人よ!」 なるほど。 「そうか、ようやく理解したよ。」 「他にいう事はないの?」 「違ってたらすまん。…ハルヒ、好きだ。」 「バカ。」 「違ったのか?すまん。だがコレは俺の本当の気持ちだ。」 「バカ。」 「ごめん。」 「バカ。」 「泣いてるのか?」 「あんたが鈍感すぎるのがいけないのよ!」 「すまん。早とちりだった。」 「本当にアンタは早とちりしすぎよ!」 「だからすまんって。」 「いい加減気付きなさいよ!あたしだってアンタの事好きなのよ!」
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古泉「機関では色々とイベントも行っています。」 キョン「ヘーソウナンダー。」 古泉「明日は賞金付きのサバイバルゲームが開催されます。賞金は300万円となってm」 キョン「待て。それはマジな話か。」 古泉「大マジです。ただ個人戦のみで参加料として一人5000円が必要なのと…」 キョン「…なのと?」 古泉「新川さんが全9回中8回優勝しています。」 キョン「なんか納得…って後の1回は誰だ?」 古泉「森さんです。」 キョン「!?」 結局俺はそのイベントに参加することにした。 なにしろ300万だぜ? まかり間違って勝ってみろ、これからしばらく、SOS団集会での奢りが楽にn ……俺は心底奴隷根性が身についてしまったのか? ハルヒ「というわけで! 優勝はSOS団がもらうわよ!」 キョン「個人戦だっつってんだろ」 ハルヒ「SOS団のメンバーなら、誰が勝ってもSOS団の勝利なのよ!」 キョン「そうかよ」 長門「……?」 キョン「おい長門、銃口を覗き込むな。使い方がわからないのか? 朝比奈さんは?」 みくる「あっ、あたしは一応、映画のときに……」 キョン「そういやそうだったな。長門、これはな……」 ハルヒ(む……なによ有希の手取り足取りしちゃって。むかつくなぁ) ハルヒ「あたしもよくわかんないんだけど」 谷口「ああん? しょうがねーな、俺が」 パンパンパン! 谷口「ぎゃー!」 ハルヒ「ふーん。なるほどね。こうすればいいんだ」 谷口「がはああ……至近弾を顔面かよ……」 パンパンパン! 谷口「ぎゃーーーー!」 長門「理解した。原始的武器をモデルにした玩具」 国木田「谷口、大丈夫?」 谷口「はぁはぁ、チャックを全開にしてなきゃ危ないところだったぜ」 新川「……大佐、これはどういうことだ?」 大佐「どうやら涼宮ハルヒが手下を引き連れて参加しているようだ。 せいぜい閉鎖空間が出来ない程度に楽しませてやるんだな」 新川「了解……それと大佐」 大佐「なんだ、スネーク」 新川「誰がスネークだ。それで……勝ってしまってもいいのだろう?」 大佐「……許可する」 古泉「ではこれより、第10回メタルギア争奪戦を開始します」 キョン「なんだそのメタルギアっつーのは」 みくる「そっ、そんな! 機関がそんなものを手に入れていたなんて……」 キョン「知ってるのかライデ……朝比奈さん」 みくる「詳しくは禁則事項ですが、凄い兵器です。歴史で習いました」 キョン「そんなものを奪い合うのか」 古泉「あ、ハリボテですし単なる雰囲気アイテムですからご心配なく。 ストーリーは南米の……」 ハルヒ「早くルール説明しなさい!」 古泉「失礼。簡単に説明しますと、最後の一人になるまで殺しあってもらいます」 キョン「結局バトルロワイアルかよ」 第10回メタルギア争奪戦ルール ルールその1:機関のことは口にするな。 ルールその2:機関のことは絶対に口にするな。 ルールその3:個人戦だ。誰も信用するな。 ルールその4:銃弾や刃が胴体・頭部に命中したものはデッド。 ルールその5:戦場のあちこちに武器が落ちている。使え。 ルールその6:敗者のアナルに関しては当局は一切保障しない。 谷口「まずは生き残ることを考えないとな……」 国木田「最後の二人になるまでチームプレイに徹すればいいんだね」 谷口「その通りだ。一人より二人が有利なのは絶対だからな」 国木田「おーけー。まかせてよ谷口。ところでチャックは閉めないの?」 谷口「よせよ。まだ始まったばかりだぜ?」 国木田「意味がわからないよ」 ハルヒ「よーし! いい? 同じ団員だからって遠慮なく撃つからね!」 キョン「まて。最初は協力し合ったほうが……」 ハルヒ「それじゃ散会! 次にあったときは敵同士よ!」 みくる「えっ、えっ!?」 キョン「だから待てって……もういねぇ! 長門もいねぇ! 古泉もいねぇ!」 みくる「ふぇえええ」 キョン「……しょうがない。朝比奈さん、しばらく二人で行動しましょう」 みくる「は、はい……よろしくお願いします」 ハルヒ(むっ……なんでみくるちゃんと一緒なのよっ! なんかむかつく……) キョンの妹「あ、ハルにゃーん」 ハルヒ「あら。妹も参加してたの?」 シャミセン「にゃあ」 ハルヒ「ふーん。それじゃあしばらく共闘する?」 キョンの妹「うん!」 11 23 05 ジャングル 長門「……」 多丸兄「ふっ……来たな宇宙人」 多丸弟「我らの変幻自在の攻撃に耐えられるかな?」 長門「……!」 多丸兄「アナル!」 多丸弟「ブレイク!」 パンパンパン! 長門の銃口が火を噴くが、弾丸は木の葉を散らすだけ。 多丸兄弟は木の上を飛び回り、ひとところにとどまろうとはしない。 しかも兄弟ゆえのコンビネーション、兄が前にいたかと思えば次の瞬間上から弟が攻める。 これが谷口であったなら瞬殺ものだが、しかしそこは長門、二方向からの攻撃に冷静に対処だ。 木の陰岩の陰を利用し、攻撃の方向を意図的に一方からに制限しはじめたのだ。 多丸兄「ほう」 多丸弟「さすがだな宇宙人」 多丸兄「だが防御ばかりでは勝てんぞ」 多丸弟「くっくっく……」 長門「……」 言うとおり、長門の放つ弾丸は多丸兄弟にいまだかすりもしない。 キョンから最初にインチキ禁止を言い渡され、長門の運動能力はハルヒと互角程度に抑えられているのだ。 長門は空になったマガジンを捨て、新たに弾丸を装填した。 最後のマガジンだ。これ以上の無駄弾は撃てない。 精密射撃は長門の得意とするところだが、動き回っているものに当てるのは思ったほど簡単ではない。 止まっているものになら――妙案が浮かんだ。 だが、やはり2対1の差は厳しい。せめて隙をつくことが出来れば―― 多丸兄「くくく、ジリ貧だな宇宙人!」 多丸弟「さあ、とどめだ……なに!?」 多丸兄「どうした弟よ!」 多丸弟「貴様はっ――ぐわあああああああ!」 木の上から落下する多丸弟。さきほどまで弟が立っていた枝には、長い髪を揺らす美少女が―― 多丸兄「仲間か――!」 好機。狙うならば今しかない。 多丸兄の声は、長門からは死角になっている木の陰から発せられている。 多丸兄が隠れているであろう場所から、空中に目視で線を引き、角度を計算し、狙いを定める。この間1.2秒。 長門「……!」 ぱん! かん! びしっ! 多丸兄「がっ!」 くぐもった呻き声を上げ、多丸兄も落ちていった。 側面の幹に当てた弾丸が跳ね返り、樹の陰に立っていた多丸兄のこめかみを打ち抜いたのだ。 長門「跳弾。わたしの勝ち」 長門が銃をおろす。そこへ先ほど多丸弟をナイフ(スポンジ製)で刺し倒した美少女――朝倉が駆け寄ってきた。 朝倉「やったわ、さすがわたしのリボルバーナガット!」 長門「……オートマチック」 谷口「なんか悲鳴が聞こえたな」 国木田「そうだね。誰か戦ってるのかも」 谷口「迂回しようぜ。少しでも生き延びて、チャンスを待つのが賢い戦い方だからな」 国木田「そうだね。ところでチャック……」 谷口「ちっ、川だ。向こう岸に渡るべきか、引き返すべきか……」 古泉「まさかあなたと鉢合わせするとは。『陰謀』に出てきた敵組織の少女さん」 誘拐少女「へえ……古泉さん、でしたっけ。はじめまして、でしょうか」 古泉「お互い写真では見たことがあるはずですがね。機関に敵対する組織の貴方がなぜこの大会に?」 誘拐少女「……組織の運営費が……その……零細なもので……」 古泉「……大変ですね」 誘拐少女「なので勝たせて欲しいのです」 古泉「アナルしだいですね」 誘拐少女「は?」 古泉「しかし、実は女性のアナルにはあまり興味がありませんでしたよ。そういうことで、さようなら」 誘拐少女「あ、ちょ」 パンパン。 古泉「さて、僕のキョンタンはどこにいったんでしょうねぇ……ふふふ」 キョン「ぞわー!」 みくる「キョンくん!? どうしたんですか?」 キョン「いや、なんだか……凄い寒気が」 みくる「だ、大丈夫ですか?」 キョン「まあ、気のせいですよ。しかし、ハルヒのやつどこにいったんだ。まったく……」 みくる(キョンくん、さっきから涼宮さんのことばっかり気にしてる……) 新川「こちらスネ……新川。市街地に侵入した」 大佐「よし。そこには喜緑とかいう宇宙人が既に待機しているはずだ。慎重に進め」 新川「了解。ダンボールのふりをする」 喜緑「なんだか長門さん達に変な大会に参加させられてしまいましたが……生徒会長?」 会長「まったくだな。古泉もわけのわからんことばかり……む?」 喜緑「どうかしましたか?」 会長「いや……あんなところにさっきまでダンボールなんかあったか?」 喜緑「さあ……」 ダンボール「……」 喜緑「ちょっと中を開けて見ましょうか」 ダンボール「……!」 喜緑「それ、がばっ」 パンパンパン! 喜緑「……無念」 会長「なっ、貴様は!」 ダンボール「ふっ……ネイキッド(全裸)新川参上」 会長「ま、まて! いったいなんの……」 新川(全裸)「正体を見られたからには仕方が無い。アナルをもらう」 会長「よ、よせっ、うわあああ! アナルだけは!! アナルだけは!!」 大佐「首尾はどうだスネーク」 新川「一名射殺、一名アナルショックだ大佐」 大佐「よし。アナルはビデオには収めたな? 後で見せてもらう」 新川「あんたも好きだな……」 大佐「ふっ」 12時。現在の脱落者がアナウンスされる。 新川「む……多丸兄弟が負けたのか」 大佐「長門有希だ。それともう一人、朝倉涼子……やはり強敵だな」 長門「……」 朝倉「まさか喜緑さんがやられるなんて」 長門「能力を制限すればありうる。気をつけて」 朝倉「まかせて。わたしは長門さんを勝たせるためだけにここにいるのだから」 古泉「……まさか会長のアナルを先に奪われるとは。僕も狙っていたのに……許せない! 会長のアナルを責められるのはそうはいない。きっと新川さんでしょう。……どうやら、 僕も本気で戦わないといけないようですね……」 みくる「誘拐少女って、もしかして……」 キョン「朝比奈さんを誘拐したヤツか。なんでそんなのまで参加してるんだよ」 みくる「ひょっとしてあの、怖い未来の人も……」 キョン「大丈夫ですよ朝比奈さん。どんなヤツが相手だろうと、俺が守ります」 みくる「キョンくん……」 ハルヒ(ぬあーーー!! なんでキョンとみくるちゃんがいい感じに見詰め合ってんのよ! 本当だったらそこにいるのはあたしでしょおっ!) 妹「どうしたのハルにゃん」 シャミセン「にゃあ」 ハルヒ「……なんでも。いきましょ」 妹「キョンくん撃たなくていーの? 撃ったら勝ちのゲームだよね?」 ハルヒ「……後でいいわよ、あんなやつ」 妹「?? はーい」 谷口「昼飯にしようぜ。うまいこと川で魚が釣れたからな」 国木田「まったく、チャック全開のおかげだね」 それは影としか表現できなかった。 密林の中を失踪する一塊の影。 漆黒のメイド服に身を包んだお下げの美女。 森園生―― 12 17 22 山岳地帯 ハルヒ「つり橋か……」 妹「ちょっと怖いねー」 ハルヒ「手をつないでわたりましょ」 妹「うん――」 ハルヒ「――!」 気配を感じてハルヒが銃を構えるよりも早く、 妹「――ハルにゃんっ!」 森の手にした刀が妹の首筋に触れていた。 ハルヒ「ちょ、そんな物騒なもの……!」 森「ご安心を。スポンジ製です」 妹「ハルにゃーん……」 ハルヒ「人質ってわけね……」 森「まさか。わたしが人質を取らなければあなたに勝てないとでも?」 妹「えっ――?」 森が刃を引き、妹はあっさりと脱落した。 ハルヒ「くっ――この!」 パンパンパンパン! 夢中で銃を撃つが、弾丸は全て宙へと消える。すでに森の姿はつり橋の上に無い。 ハルヒ「どこに――」 森「ここです」 ハルヒ「――!」 足元――! 反射的にハルヒは飛びのいた。 木製の橋を貫通し、下から刀が飛び出してくる。 ハルヒ「ちょ、ちょっと! スポンジじゃないの!?」 森「刀はスポンジ――切れるかどうかは、わたしの技術しだいでございましょう――」 ハルヒ「んなっ!?」 無茶苦茶な話だが、事実スポンジにしか見えない刃が分厚い木の板をぶち破って飛び出してくるのだから信じないわけには行かない。 一方ハルヒの弾丸は全て木の板に阻まれ、その裏にいる森には届きそうも無い。 ハルヒ「くっ、なんのゲームよこれっ!」 ザク! ザク! ザク! 橋の下から飛び出す刃を反射神経だけで回避しながら、ハルヒは毒づいた。 ハルヒ「あたしはドムが好きなの!」 ドムっ! ハルヒ「じゃあケンプファー!」 ゲスっ、ブっ、バァン! ハルヒ「無理があるわよっ!」 森「しかも音がアナルっぽいですね」 ハルヒ「し、しるかーーー! こうなったら一か八かよ! シャミセン、あたしの足を掴んで!」 シャミセン「にゃ、にゃあ!?」 ハルヒ「とりゃあああああ!」 シャミセンに脚をつかませ、つり橋から身を投げるハルヒ。 上下逆になったハルヒと、橋の下にしがみついている森の視線がぶつかる―― パンパンパン! 森「ちっ――!」 カンカンカン! 全ての銃弾を刀で弾き飛ばす森。 ハルヒ「くっ――シャミセン、引き上げて!」 シャミセン「にゃあ(無理)」 ハルヒ「ひゃああああああああああああああああああああ!」 シャミセンとハルヒは落ちていった。 森「……まあいいでしょう。次にあったときこそ、あなたの最後です」 谷口「なんだかアチコチでぶつかりあってるみたいだな」 国木田「そーだねー」 谷口「お。なんだこのキノコ。うまそうだな」 国木田「ちょっと、ダメだよ谷口。なんでもかんでも口に入れちゃ」 谷口「うめー。うめーよこれ。お前もくってみろって」 国木田「しょうがないなぁ……あ、うまい」 12 14 09 ジャングル それはまるで死神のように。 ジャングルを歩いていた古泉の後ろから、音も無く細い女の腕が伸び、 古泉「……!」 気がつけば首筋にナイフの刃が押し当てられていた。 朝倉「ふふ……ジ・エンドね古泉君」 妖艶に微笑む朝倉。 だが、古泉も不敵な笑みを崩さない。 ほんのちょっと朝倉が手に力を込めるだけでゲームオーバーだというのに、まだ何か策があるのだろうか? 古泉「朝倉さん……ちょっと僕の話を聞いてもらえませんか?」 朝倉「命乞い? 無駄だと思うけど」 古泉「機関が長門さんに注目していることはご存知で?」 朝倉「……まあ、知っているわ」 古泉「長門さんの私生活盗撮写真――」 朝倉「見せて」 朝倉はあっさりとナイフを収めた。 古泉「まずヌルいところから。寝姿」 朝倉「きゃー! 長門さんの寝顔っ!!! こ、これでヌルいのっ!?」 古泉「もちろん。入浴シーン、トイレシーン、そしてなんと……もあります」 朝倉「ぶばーーーーー(鼻血)! はやく、はやく!」 古泉「じゃあ後ろを向いてもらえますか?」 朝倉「こう?」 古泉「はい、ありがとうございました」 ぱん。 朝倉「……卑怯者ぉ」 長門「役立たず」 朝倉「なっ、長門さぁん! 違うの、これは……」 長門「古泉一樹。一騎打ちを申し込む」 古泉「いいでしょう。いずれはぶつかりあわねばならない相手ですし……不足はありませんよ」 朝倉「あ、あのね、わたし、あの……」 ぱんぱんぱん! 朝倉「ぎゃーーーー!」 長門「邪魔」 古泉「いきますよ――!」 長門「!」 古泉の姿が消えた。 古泉「これこそ機関が開発した光学迷彩! ふふふ、長門さんに僕の姿が見えますか?」 足音に向かって銃を撃つ長門。 古泉「あいてっ。や、やりますね」 長門「あたったら脱落」 古泉「脚ですから。まだ続行で」 長門「そんなルール聞いてない」 古泉「えー。あとでキョンタンのアナル写真あげますからー」 長門「……了解した」 朝倉「ちょっと! 卑怯よ!」 パンパンパン。 朝倉「ぎゃーーーーー!」 長門「邪魔。死んだら黙ってる」 朝倉「ふえーん」 古泉「それでは……ふふふ、見えない恐怖を味わってください長門さん」 長門「――」 今度は足音を立てないように動き始める古泉。 こうなっては、古泉が攻撃してきたときしか、位置を特定することは出来ない。 長門は大きな木を背にし、古泉の攻撃が正面から来るように誘導する。 古泉(やりますね長門さん。これではうかつに攻撃できない。狙うなら頭上からですが、 かといって僕の実力では、樹に登ろうとしたときに気づかれて撃たれてしまう。さて――) だが長門も、そして古泉も気づいていなかった。頭上に潜んだ伏兵の存在に。 ハルヒ「うひゃああああああああああああ!」 シャミセン「にゃああああああああああああああ!」 長門「!?」 古泉「!?」 ぐしゃ。 哀れ、長門はつり橋から落下してきたハルヒとシャミセンの下敷きになってしまった。 ハルヒ「あいててて……」 長門「きゅー」 ハルヒ「あ。有希みっけ」 パン。 長門「……無念」 朝倉「な、長門さぁーん!」 ハルヒ「あ。朝倉もみっけ」 パンパンパン。 朝倉「ぎゃーーー! あたしもう死んでるってばーーー!」 古泉(好機! いまなら涼宮さんは僕の存在自体に気づいてない! ふふふ……強敵を一度に始末できるなんて僕はついている! さあ、覚悟してください涼宮ハルヒ! そして僕のキョンタンから 永遠に忘れ去られるがいい!) シャミセン「にゃー(俺には匂いで分かるんだぜ、ボウヤ)。がぶ」 古泉「ぎゃあああああああああああああ!」 ハルヒ「あ。古泉君もみっけ」 ぱんぱんぱん。 古泉「あ、アナルむねーーーーーーん!」 ハルヒ「シャミセン、お手柄!」 シャミセン「にゃあ」 13時。新たに脱落したメンバーが発表される。 新川「古泉……ビッグアナルのアナルクローンであるお前が破れるとはな」 大佐「リキッドアナル古泉のことは忘れろ。ヤツのアナルは柔らかすぎた」 新川「ああ……」 キョン「おいおい、なんで妹が……何時の間に紛れ込んでたんだ?」 みくる「知らなかったんですか?」 キョン「まったく。怪我してなきゃいいけどな」 みくる「大丈夫ですよ」 誘拐少女「ケーキだそうですよ。妹さん、どうぞ」 妹「わーい」 喜緑「おいしい紅茶ですね」 多丸兄「脱落組みはすることないからねー。くつろいでてよ」 喜緑「そういえば会長の姿が見えませんが?」 多丸弟「あー……彼は、そう、ちょっとトレイじゃないかな? しかも大のほう! ははは」 多丸兄「はははは」 会長「やめろ! よせ! アナルだけは!! アナルだけは!!」 大佐「ふははははは!」 谷口「ヘビうめー。ワニもうめー」 国木田「なんだか僕たち、さっきから一回も戦ってないね」 谷口「漁夫の利を狙うのよ。知将だな、俺は」 国木田「池沼? 言いえて妙だね谷口」 谷口「わはははは。おまえも食え、ワニうめーぞ」 国木田「ほんとだ、これイケるね」 谷口「これでチャックはあと10年は全開のままだな!」 国木田「よかったね谷口」 陰謀未来人「半数近くが脱落か……ふん。そろそろ僕の出番のようだな。これも規定事項か」 キョン「あ、陰謀の未来人」 みくる「あんな目立つ崖の上で仁王立ちになってなにしてるんでしょうね」 キョン「だよなぁ。狙い撃ちだぜあれじゃあ」 みくる「あ、撃たれた」 キョン「あ、落ちた」 みくる「……」 キョン「……」 新川「大佐。陰謀の未来人をドラグノフで狙撃した」 大佐「よくやったぞスネーク。だが気をつけろ、森がそちらに向かっている」 新川「森か……ヤツには日ごろこき使われているからな」 大佐「くれぐれも……バレるなよ」 新川「ああ。まかせておいてくれ」 ハルヒ「よーし。これで残ってるのはあたしとシャミセン、キョンにみくるちゃん、 それに森さんと新川さんだけね」 古泉「残念です。もう少しでキョンタンのアナルが僕のものになったのに」 ハルヒ「あんたそんなこと考えてたの?」 古泉「ですが新川さんは強敵ですよ。彼のダンボールは見抜けません」 ハルヒ「なにそれ」 古泉「ふふふ。いずれ貴方も新川さんの恐怖を知ることになるでしょう」 ハルヒ「いいわ。どんなヤツが相手でも、あたしは負けない! ううん、SOS団は負けないんだから!」 長門「……」 古泉「まっさきに分散して、自分で団員を各個撃破してる気がしますが、まあいいでしょう」 朝倉「長門さーん、喜緑さんがお茶にしませんかって」 長門「行く」 ハルヒ「ま、ゆっくり観戦してなさい。あたしが勝つから!」 長門「……頑張って」 森「……出てきなさい新川。ダンボールの中に隠れているのは分かっています」 新川「ちっ……」 森「相変わらずネイキッド(全裸)のようですね」 新川「女のアナルに興味は無い。失せろ」 森「不思議なことがあります」 新川「なんだ?」 森「あなたはまるで、この戦場のどこに誰がいて、どこにどんな武器や道具が隠されているか 知っているような動きをとっている」 新川「……兵士の感だ。長年戦場で暮らしていると、そういうものが身に付く」 森「ではその裸体にベルトで括り付けている小型通信機は?」 新川「――バレたからには死んでもらう」 森「新川ァ!」 新川「もりいいいいいいいいいいいい!」 新川の構えたマシンガンが火を噴く。 だが森はその銃弾全てを刀ではじきながら、距離を詰めた。 森「銃などに頼っているうちはわたしには勝てません!」 新川「ぬぅ!」 森「覚悟――!」 ばしぃん! 振り下ろした森の刀を、眼前、新川は両の手で挟み止めていた。 森「真剣白羽取り! 実践でこれを使いこなすとは――新川、腕をあげましたね!」 新川「ふんっ!」 ぱきぃん! 森「刀を――!」 折られた刀をすばやく放棄し、森はメイド服の裾から細長い剣を数本、指に挟んで抜き出した。 新川「黒鍵か!」 森「とあっ!」 森の投げた黒鍵が新川を貫いた――ように見えた。が。 森「これは金ケシ!? 身代わりの術!」 新川「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!!!!」 横合いから放たれた新川のペガサス流星拳が森を打つ。 吹っ飛ばされる森。ダメージは深刻、勝ち目は薄い―― 森「……く」 新川「あきらめろ。俺には勝てん」 森「ふふふ……なるほど。この装備では殺しきれませんね」 新川「!」 森「また会いましょう新川」 脱兎のごとく逃げ出す森。 逃がすわけには行かない、冷静になられたら負ける、この熱が引かないうちに勝負を決しなくては――! 新川は慌ててドラグノフを構えたが、森の姿はジャングルの闇に隠れ、すぐに見えなくなってしまった。 一方その頃、キョンとみくるは物陰から二人の戦いを眺めていた。 キョン「……あいつら人間じゃねえ」 みくる「どどどど、どうしましょうキョンくんっ」 キョン「どうするもこうするも……スナイパーライフルでもあれば、狙撃のひとつもするんですけどね」 みくる「どどどど、どうしましょう、ドラグノフ拾っちゃいました、あたし!」 キョン「なんで早くそのことを言わないんですか」 みくる「だ、だって、やっぱり人を撃ったらいけませんよ!」 キョン「いまはそんなことを言ってる場合じゃないでしょ! 早くドラグノフをかしてください!」 みくる「は、はいっ!」 キョン「よし、照準を――あれ?」 こつん、とキョンの頭に銃口があたる。 みくる「ひっ……き、キョンくん、よ、横に……」 新川「戦場で大声を立てるとはな。とんだ素人だ」 キョン「ははは……じょ、冗談だろう新川さん」 新川「ここは戦場だ。油断した兵士に与えられるものは、死しかない」 みくる「ひいいいっ!」 ??「まつっさ!」 みくる「!?」 新川「……現れたな」 キョン「そ、その声はまさか……!」 みくる「つ……」 ちゅるや「ちゅるや参上!」 「「「エーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」」」 ちゅるや「スモークチーズはどこだいキョンくん?」 キョン「さっき食べたでしょ」 ちゅるや「にょろーん」 パン! キョン「ちゅるやさぁーーーーん!」 ちゅるや「にょろろーーーん!」 新川「邪魔が入ったが、次は小僧、貴様の番だ……む?」 みくる「う、動かないでください!」 震える手で銃を構えるみくる。 上下にゆれる銃口は、キョンの頭に銃を押し付けている新川を狙っている。 新川「やめておけ。そんな細腕では銃の反動は抑えられん。どこに飛ぶかわからんぞ。 自分の手でこの小僧の頭を吹き飛ばしたくなければ、銃を捨てろ」 みくる「あああ、あたしだって、こんなときのために銃器の練習はしてきてるんです! が、ガン=カタの餌食になりたくなかったら、キョンくんを離してっ!」 ガン=カタは拳銃を総合的に 使用する格闘技である (゚д゚ ) (| y |) この格闘技を極めることにより… ( ゚д゚) ;y=‐ ;y=‐ (\/\/ 攻撃効果は120%上昇 ( ゚д゚) ;y=‐ (\/\ \ ;y=‐ 防御面では63%上昇 ー=y;― | (゚д゚ ) ー=y;_/| y | ガン=カタを極めたものは無敵になる! ー=y; ( ゚д゚) ;y=‐ \/| y |\/ うそだった。はったりだ。 未来からのエージェントとはいえ、みくるはそんな戦闘訓練など積んでいない。 それでも、少しでもキョンが逃げられる隙を作れれば―― 新川「嘘だな。ならなぜセーフティを外さない? それでは弾は出ない」 みくる「え?」 みくるが自分の銃に目をおろす。 セーフティは――外れている! それこそブラフだ! 新川「ふっ――!」 みくる「ひぇ――」 ハルヒ「うらああああああああああああ!」 ハルヒのドロップキックが新川の側頭部を打ち抜いた。 スローモーションで倒れる新川。 ハルヒ「全裸でなにやってんのよあんた! うちのみくるちゃんにセクハラするつもり!?」 みくる「はっ」 そういえば新川は全裸だった! いまさら思い出したようにみくるが両手で顔を隠す。 だが手遅れだ。みくるの脳裏には、すっかり新川のスーパーサイズドライが焼きついてしまっている。 キョン「ハルヒ……来てくれたのか」 ハルヒ「あ、あたりまえでしょ! あたしは団員がピンチだったらいつでもどこでも、すぐに駆けつけるわよ!」 新川「……ふ。やってくれる」 ハルヒ「まだ生きてたのアンタ。とっとと死になさい!」 ぱんぱんぱん! ハルヒ「あたった――って、ウソ……」 キョン「あ、アナルで全ての銃弾を受け止めやがった……」 みくる「いやーーーーー!」 新川「俺のアナルは大佐によって鍛えられ、あらゆる弾丸を止めることが出来る。BB弾ごときでは貫通せん」 ハルヒ「そんな……! キョン、あんたもアナルで対抗するのよ!」 キョン「アナルだけは! アナルだけは!!」 みくる「お、落ち着いてください二人とも!」 新川「ふふふ、やはりお前たち相手にエアガン一丁だけでは分が悪いな。アレを使わせてもらう」 キョン「あれ?」 新川「カモン! ダンボール!」 ゴゴゴゴゴ。 ハルヒ「なっ! 全長10メートルはある巨大ダンボール!?」 新川「合体!」 みくる「新川さんがダンボールの中に収納されましたっ!?」 新川「これこそ! わが機関が開発した究極の兵器・メタルギアだ!」 ハルヒ「……ダンボールが?」 新川「ふはははは! 強化ダンボール製の装甲はBB弾ごときでは貫通せん!」 キョン「なんだと!」 パンパンパン! カンカンカン! はじかれる銃弾! ハルヒ「ちょ、ちょっと! 卑怯よ!」 新川「さあSOS団よ! 怯えろ! 竦め! 何も出来ぬまま死んで行けぇ!」 きゅらきゅらきゅら…… ダンボールの中にキャタピラがついているのだろう、不気味な音を立てて迫る巨大ダンボール。 ハルヒ「こいつはピンチね……」 キョン「くそっ!」 キョンがドラグノフを構えるが、やはり弾丸は厚い装甲に阻まれてしまう。 ハルヒ「あーもう、ランチャーとかミサイルとか無いわけ?」 キョン「そんなもんあるかっ! これはゲームだぞ!」 ハルヒ「そんなこといったら、あっちだってゲームにこんなバカ兵器持ち込んでるのよ!」 みくる「け、けんかはダメですー!」 新川「ふはははは! アナルキャノン発射!」 ちゅどーん。 みくる「きゃーーーーー!」 キョン「朝比奈さん!」 ハルヒ「みくるちゃん!」 みくる「あはは……や、やられちゃいました……涼宮さん、キョンくん、この時代でお二人にあえて、あたしは……」 ハルヒ「喋っちゃダメ! 安静に……」 みくる「あ、あたしはもうダメです……それよりこれを……」 キョン「これは……水鉄砲?」 みくる「さっきドラグノフと一緒に拾ったんです……それを使って……がく」 キョン「あ、朝比奈さぁーーーーん!」 ハルヒ「くっ……キョン、みくるちゃんのカタキを討つのよ!」 キョン「しかしどうやって……」 ハルヒ「それよ! その水鉄砲! いくら強化されてるからって、ダンボールなんだったら水でふにゃふにゃになるでしょ!」 キョン「そうか、よし!」 ぴゅー。 新川「ぐわあああ! 装甲が溶ける!」 ハルヒ「いけるわ!」 新川「く……こうなったら!」 ハルヒ「えっ?」 ばんっ! がしっ! 突如ダンボールからマジックハンドが伸び、ハルヒの身体を掴み上げた! ハルヒ「あうっ!」 新川「くくく……このお嬢さんを真っ二つにされたくなかったら、銃を捨てろ小僧」 キョン「なっ!」 ハルヒ「キョン! 言うこと聞くことないわよ!」 キョン「く……ハルヒ……」 新川「バカめ。いくら装甲を溶かしたところで、俺に直撃を当てなければ勝ちにはならん。 水鉄砲ごときでどうにかなるとでも思っているのか?」 新川の言うとおりだ。 あの森園生をも退けた男に、キョンが水鉄砲で勝てるわけがない。 ハルヒ「だったら今は逃げて、武器を探すのよ! こいつを倒せる強力な武器がきっとどこかに落ちてるわ!」 新川「ふははは。健気なことだな。どうする小僧、このお嬢さんを見捨てて逃げるかね?」 マジックハンドがぎりぎりとハルヒの細い身体を締め上げる。 ハルヒ「きゃああああああ!」 キョン「やめろっ! ……わかった、銃は捨てる。だからハルヒを離せ」 ハルヒ「あ、こら、バカキョン! なにやってんのよアホーーー!」 キョン「アホでも構わん。勘違いするなよ。俺の知ってるハルヒは、どんな状況でも逃げろなんて命令は出さないはずだからな」 ハルヒ「えっ……」 キョン「涼宮ハルヒはいつだって前進征圧のバカ女だ。自分は帝王の星の元に生まれてきたと勘違いしてる大バカ野郎だ」 ハルヒ「キョン、ちょっとあんた、何言って……」 キョン「引かぬ、媚びぬ、省みぬ! それが涼宮ハルヒだ! 俺が死んでも、ハルヒが生き延びればSOS団は勝つ! だから――」 ガガガガガガ! ハルヒ「あ……」 アナルマシンガンに蜂の巣にされ、キョンがゆっくりと倒れる。 ハルヒ「うそ……いや、いやぁ! キョン、バカキョン! なにやってんのよぉ! あんたが死んだら、SOS団なんてっ……!」 新川「ふっはははは。愚かなりキョン。お前のアナルは後でゆっくりといただこう……だが、まずは涼宮ハルヒ。貴様もそろそろ脱落だ!」 ハルヒ「くっ……どのみちあたしもこれまでなの……? いいえ、違うわ。キョンが命をかけてまで時間を稼いでくれたんだもの、 こんなんで負けられない!」 新川「無駄な足掻きを――」 ハルヒ「しゃみせーーーーーん!」 シャミセン「にゃあ(まかせろ)」 シャミセンがマジックハンドにかじりつく。 新川「ぬっ! 猫ごときが、アナルアームを破壊できると……」 シャミセン「にゃあ(勘違いするなよオッサン。こいつを見な)」 新川「それはプラスチック爆弾!」 ハルヒ「シャミセン!」 シャミセン「にゃあ~(あばよハルヒ)」 カッ―― 閃光と爆音、強烈な振動と共にハルヒの身体が宙に放り投げられる。 ハルヒ「――っ!」 地面を転がり、身体にまとわりついたアームの残骸を振りほどいて、ハルヒはきつくメタルギアを睨み上げた。 ハルヒ「みくるちゃん、キョン、シャミセン……あたしは……勝つわ!」 新川「くっ……アームは破壊されたがな、どのみち貴様に勝ち目は無い!」 森「それはどうでしょう」 新川「なに!」 ハルヒ「森さん!?」 森「あなたの粘りがちです涼宮さん。これをお使いなさい」 ハルヒ「これは……この剣は、まさかエクスカリバー!」 森「ええ。これならメタルギアの装甲も貫通できます」 ハルヒ「で、でも……森さんはいいの? これがあれば、森さんが優勝できるのに」 森「わたしは自主的に脱落しました。新川はこの大会で不正を働いていたのです」 ハルヒ「え?」 森「新川は大会の主催者の一人である大佐と組み、戦場の情報を逐一通信機で受け取っていたのです。 彼らはそうやって優勝賞金を稼ぎ、アナルグッズにつぎ込んでいたんですよ」 ハルヒ「そんな! 卑怯だわ!」 森「ええ。ですがそのことに気づかなかったわたしにも責任はあります。ですから、今回はわたしも自主敗退ということで」 ハルヒ「そうなの……じゃあ、遠慮はいらないわ。使わせてもらうわね、この武器を!」 森「やってしまいなさい、涼宮さん。あなたは一人じゃない――」 ハルヒ「そうよ。あたしは一人じゃない。みくるちゃんが、キョンが、シャミセンがいてくれたからここまでこれた」 新川「おのれえええええええ! エクスカリバーごときに負けるメタルギアではないわ! 踏み潰してくれる!」 ごごごごご……大地を揺らし、メタルギアがハルヒに迫る……! 新川「ふははははははは! 怖かろう!」 ハルヒ「戦場で散った人たち! あたしの身体を貸してあげるわ!」 新川「な、なにぃ! ヤツの身体に光が集まっていく……な、なんなのだこれは!?」 ハルヒ「戦争をアナルとしか思えないあんたには分からないでしょうね! あたしの身体を通して出る力が! 人の心の光が!」 新川「人の心の光だと!? それが愚民どもにその才能を利用されているものの言葉かっ! 恥丘がもたん時が来ているのだ! それを分かるんだよアナルっ!」 ハルヒ「知るかヴォケ!」 新川「ええい、アナルのすばらしさを理解できんものと話す舌などもたん! 死ね――な、なんだ? 動かん!? どうしたのだメタルギア、動け、なぜ動かん!」 ハルヒ「エクス――――――」 新川「ハルヒィィィィィィィィィィィィ!」 ハルヒ「――カリバァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーー!」 ―― 轟音と共に白く染まる戦場。 閃光が収まった後には、真っ二つになったメタルギアと、 orzのポーズでうずくまっている新川の、真っ二つになった尻があった。 ハルヒ「……最初から尻は割れてるでしょ。あたしの勝ち、ね?」 新川「ああ――そして、私の敗北だ」 エピローグ みくる「涼宮さぁーん!」 ハルヒ「みくるちゃん! あーもう、泣かないの! あたしが勝つって言ったでしょ」 みくる「うええええん!」 キョン「まったく、ひやひやしたぜ」 ハルヒ「ふん。なによバカキョン。勝手にカッコつけて脱落しちゃってさ」 キョン「うるせーな。どうしようもないだろ、あれじゃ」 みくる「わわわ、けんかはダメですよっ! せっかく優勝したんですから!」 キョン「まあな。よくやったぜ、ハルヒ」 ハルヒ「……ふん。……あんたもね、ほんとはちょーっとかっこよかったかもね」 キョン「朝比奈さんが庇ってくれなかったら危なかったけどな」 みくる「そ、そんなぁー。あたしは別に……」 ハルヒ「……む」 キョン「ん? なんか言ったか?」 ハルヒ「ふんっ、バカキョンは罰ゲーム決定!」 キョン「んなぁっ!? なんだそりゃ、おい――」 ハルヒ「ふーんだ。今度のSOS団ミーティングまでたっぷり考えておくからね、覚悟してるがいいわっ」 長門「約束のものを」 古泉「はいはい。キョンタンのアナルですね……」 長門「満足」 朝倉「あ、あの、あたしの長門さんは?」 古泉「ああ、すみません。長門さんはガードが固くて、実はあの寝顔も偽造です」 朝倉「じゃあ、死んで」 古泉「アナルだけは!! アナルだけは!!」 シャミセン「にゃー」 妹「あ、シャミー帰ってきた。おつかれー」 ちゅるや「やぁ、シャミーくん、スモークチーズはどこだい?」 シャミセン「にゃあ(さっき食べたでしょ)」 ちゅるや「にょろーん」 多丸兄「おめでとう涼宮さん。これが賞金の300万だよ」 ハルヒ「ありがとうございます、多丸さん。今度また面白いイベントがあったら呼んでくださいね」 多丸弟「ははは、もちろんだよ」 キョン「あれ? 森さんや新川さんは?」 多丸兄弟「ははははは……」 森「はい、二人とも覚悟はできてますね?」 新川「アナルだけは!! アナルだけは!!」 大佐「アナルだけは!! アナルだけは!!」 森「懲罰!!!!!」 喜緑「大丈夫ですか会長」 会長「うう……俺はいったい何のために……」 誘拐少女「はぁ……」 陰謀未来人「つまらないな。こうもあっさり負けるとは。ふん。だがこれも規定事項だ」 誘拐少女「……アホですよね、あなた」 陰謀未来人「褒めるな」 ハルヒ「凱旋!」 キョン「おーう」 長門「……」 みくる「うーん」 古泉「どうかしましたか?」 みくる「なにか忘れてるような気がするんですけど……」 ハルヒ「なにいってんの! 優勝したし、賞金ももらったし、何も忘れ物なんてないわよ!」 みくる「うーん……それもそうですね。心配しすぎでした」 ハルヒ「さー、帰ったらぱーっと騒ぐわよ! なにしろ300万だからね! あーもう、使い切れない! ともかく! SOS団! 勝利っ、おめでとーーー!」 「「「「おおおおおおーー!」」」」 …… ………… ……………… 谷口「おーい国木田、カエルうまいぞー」 国木田「ねえ谷口。僕たちなんか忘れてない?」 谷口「ああん? チャックはちゃんと全開だし……あ!」 国木田「なんか思い出した?」 谷口「WAWAWAわすれもの~これ!」 国木田「あ、それってRPG-7だよね。どこで拾ったの?」 谷口「ついさっきそこで。こいつがあれば優勝はいただきだよな」 国木田「そうだね。ところでさっきの白い閃光ってなんだったのかなぁ」 谷口「さぁな。どっかで爆弾でも爆発したんだろ。なぁに、俺のチャックが開いてればヘでもないぜ」 国木田「さすが頼りになるなぁ。谷口についてきてほんとによかったよ」 谷口「さぁーて、もう少し潜伏して、ころあいを見て漁夫の利だぜ。まずはSOS団だな。 あいつらには積年の恨みがあるし、徹底的に叩いてやるぜ」 国木田「うーん、そういえば、さっきから脱落者の放送がないような気がするけど……」 谷口「おら行くぞ国木田!」 国木田「気のせいだよね。待ってよ谷口ー」 <エンディングテーマ 谷口グッマイラブ> チャック全開? WAO! ワスレモノ! チャック満開? HUU! ワスレモノ! マイラバー谷口 アナルミステリー グッドラブ谷口 アナルヒストリー フォーエバー ザッツライク 涙を拭いてあげる 想いは風に乗って グッマイラブ……
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暖かいまどろみの中 聞き慣れない目覚ましの音が鳴り響く キョン「ん・・・う、うるせ・・・」 ジリリリリリリ キョン「・・・・ん?クソ・・・この」 毎朝の習慣。右手を軽く伸ばす。しかし、いつもあるはずの場所に目覚まし時計がない キョン 「な、なんだ?・・・」 軽く目を開ける。目覚まし時計は、枕元の見慣れない小棚の上にあった カチッ キョン「んー?・・・・・・ぁ?」 違和感。おかしい。あきらかに。ベッドがデカいし・・・部屋も見慣れない・・・枕も2つある キョン「ここどこだ・・・」 少なくとも俺の部屋ではないことはわかる。いや、俺はいま起きるまでは何をしてたんだっけか いや、いま起きたんだから寝たんだよな・・・どこで?たしかに俺の部屋で寝たよな・・・キャトルミューティレーション? ガチャ キョン「・・・!」 ハルヒ「あ、起きた?キョン」 キョン「・・・誰ですかあなたは・・・」 いや、みりゃわかる。ハルヒだ。どう見てもハルヒ。・・・しかし、ハルヒではない。 ハルヒは・・・こんなに胸もないし・・・エプロンなんて・・・ キョン「おわわわ・・・近づくな」 ハルヒ「?」 俺の知ってるハルヒの目だ。ちょっと吊り目がちな目で見つめてくる・・・て、おい、こいつはハルヒだぞ。 ちょっとドキドキしてしまう キョン「なにを俺は」 ハルヒ「なーにぶつぶつ言ってんのよ。仕事遅れるでしょーが」 キョン「ほあ?」 ハルヒ「ほあ?じゃないでしょ。さっさと朝ごはん食べて会社行きなさい!」 か・・・かいしゃ?・・・学校じゃねーのか・・・てか、・・・これは ハルヒ「・・・・・・」 キョン「な・・・んだよ」 ハルヒ「・・・・・んー」 んんーーーーーーーーーー??これは!これはあああ!見たことあるぞ!漫画で!ドラマで!映画で!そう!キスのおねだりだ!! キョン「お、おい・・・!おまえな・・・悪ふざけも大概に」 ハルヒ「あ!パン焦げちゃう!」 ドタドタドタ ハルヒ似の人妻は、ハルヒそっくりな騒音を立てながら階段を降りていった いや、わかった。あれは、ハルヒ似でも人妻でもない。いや・・・現実を見ようか・・・あれはたしかに『人妻』のハルヒだ 暑苦しい部室だ・・・もうこれが高校時代最後の夏か・・・ キョン「・・・ふー」 古泉「キョンさん。いままで僕たちは防戦一方でした」 キョン「なんだいきなり。俺は疲れてるんだ・・・そっとしておいて・・・許可なく隣に座るな」 古泉「ははは、キョンさんの隣は涼宮さん専用でしたね失敬」 キョン「もうなにもいわん」 古泉「そうですか、助かります。では、本題に入ります」 思えば三年間。こいつはずっとこうゆう話の展開の仕方だったな 古泉「話は簡単です。キョンさんに涼宮さんの『願望』の中に入ってもらうんです」 キョン「・・・大丈夫。驚かない。」 古泉「もう、慣れたものですね。ははは」 キョン「まず、言おう。俺をハルヒの願望の中。つまり宇宙人や未来人、超能力者。いや、それだけじゃないだろ。恐竜や怪獣。スーパーヒーローにスーパーロボット はたまた・・・・とにかく、そんな中に俺をぶちこんで」 古泉「ええ・・・・それなんですがね。どうやら、最近の涼宮さんの願望に大きな変化があるようなのです」 キョン「変化・・・それ3年前も言ってただろ・・・悪い風に変化してるって」 古泉「違うみたいなんですよ、それが。涼宮さんを変えた決定的なのが」 キョン「おまえがなんでそれを知っている」 古泉「やだなぁ。僕はまだなにも言ってませんよ」 俺とハルヒが去年の冬に・・・あの日からハルヒが俺にあまり突っかかってこなくなった 古泉「で、ですね。その変化を見に行ってもらいたいんです。あ、キョンさんは、いつもどおり夜に自室で寝てるだけでいいんです 私たちが飛ばしますから」 キョン「超能力も便利になったものだな」 古泉「ははは。ええ、我々も進化してますからね」 キョン「進化じゃなくて、進歩といえ。おまえに進化されるとなんか怖い」 古泉「ははは」 ハルヒ「はい、それじゃ鞄持ったわね」 キョン「ん、ああ」 ハルヒの作った朝食は、ごく一般的とはいえ、俺には十分満足できるものだった 鞄を持ち、玄関まで行く。ハルヒは・・・マンションより一軒家がいいのか・・・それに結構大きめだな。ハルヒらしといえばハルヒらしいか 俺は心の中で笑ってしまう ハルヒ「はい、お弁当」 キョン「おう、あんがとな」 靴を履き終え、玄関のドアに手をかける ハルヒ「・・・・・」 例といえば例のごとくだが・・・ キョン「・・・・・・」 ハルヒが軽く俺のスーツを掴む キョン「・・・・・・ん」 ハルヒ「・・・ん・・あ」 長いキスだ。こんな長いキスを毎朝すんのか ハルヒ「・・・・ん・・・ん」 いや、まあ・・・決して悪い気分では・・・ キョン「・・・・んあ・・・・ん」 俺はやっぱハルヒが好きなのか ハルヒ「はい!終わりね!いつまでキスしてんの!」 キョン「う・・・」 いきなり口を離され、なんだか不憫な気持ちになってしまう ハルヒ「本当にキョンはスケベな 結婚したら少しは落ち着くかと思ったんだけどね」 キョン「あ・・・あのなぁ」 俺は玄関のドアを開け、外に足を出す ここどこなんだろうなぁ・・・ 玄関の外も見慣れない景色だ キョン「じゃ、行って来る」 ハルヒ「さっさと行きなさい!」 いってらっしゃいませご主人様とか言え・・・いや、普通はないか キョン「・・・ふー、これがハルヒの『願望』なのか」 しばらく歩くと後ろからタタタタと足音が聞こえる キョン「あ・・・弁当」 キスして忘れたよ・・・ ハルヒが弁当片手に駆けてくる 右手の人差し指を下まぶたにつけて 舌を出して・・・ベーっとしながら ハルヒ「キョン!あんたってほんとーにあたしがいなきゃダメね!アハハハ」 それは本当に楽しそうなハルヒの笑顔。無垢な子供のような、それでいて女性の優しさが溢れている この笑顔を俺は・・・叶えたい。いや、叶えられる・・・俺は、そう確信を持ったんだ 暑い・・・寝苦しい・・・ ジリリリリリリリリリリリジリリリリリリリリリリリ キョン「・・・あ・・つい・・・う、うるせ」 カチッ 俺はいつもどおりの部屋で、いつもどおりの位置の目覚ましを止めた キョン「・・・今日から夏休みだ」 プルルルルルルルルルル ピッ キョン「んあ」 ハルヒ「キョン!おきてるー!?SOS団発進よ!すぐに学校に来るように!以上」 おわり
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ぬいぐるみを持った女の子が可愛いのは常識だが、 SOS団の女子団員にそれをやらせると絵になるどころの騒ぎではない。 何の話かというと、俺達はさきほどまで ゲームセンターでUFOキャッチャーをやっていたのである。 女子団員3人は大きな可愛い 白いアザラシのぬいぐるみが入ったUFOキャッチャーにチャレンジしたのだ。 長門は言うまでもなく一回目で完璧に獲物をとらえ、 朝比奈さんは不器用ながらも5回目で成功し、 ハルヒはと言うと、意外にも10回目にやっと成功した。 そして今帰り道なのだが、 三人ともおそろいのぬいぐるみを抱き締めて談笑している。 長門は器用に読書もしているがな。 しかしあれだ、微笑ましいとはこのことだ、なぁ古泉? 「そうですね、美少女達が可愛らしいぬいぐるみを抱えているというのは 実に素晴らしい光景です。 特に涼宮さんはいつもとのギャップに心惹かれてしまいます。」 うむ。まさにその通りだ。長門や朝比奈さんも可愛いが、 ハルヒは特別に可愛い。 大きなもこもこしたぬいぐるみに時折顔を埋める姿を見ると抱き締めたくなる。 ふと横を見ると古泉がこちらを見てニヤニヤしていた。何だよ気色悪い。 「ふふっ、失礼。涼宮さんに見惚れているばかりでは進歩しませんよ?」 何が言いたい。 「おわかりでしょう。後ろから抱き締めてアイラブユーと囁くのですよ」 ったく、またそれか。悪いが俺にそんなことする余裕はないね。 「そうですか。では僕がお手伝いしましょう」 と言うと古泉はあろうことか前を歩くハルヒを呼び止めた。 古泉、おまえは地獄行きだ。 「なに?古泉くん」 「彼が涼宮さんにお話があるそうです」 と言って古泉は俺にウィンクして長門達の方に向かった。 まったく、どこまでもキザな野郎だ。 「話ってなによキョン」 そう言ってハルヒは抱き締めているぬいぐるみの上に 顔をのせて小首を傾げて上目遣いで俺を見つめた。 すまん、それ反則だ。 「いや、そのだな……」 言葉がでない。 「なによ」 「そのぬいぐるみ可愛いな」 あー、俺はバカだ。チキンとでも何とでも言うがいいさ。 「それだけ?」 ハルヒが不満そうに言う。 「いや…まだある」 「なによ」 俺の頭はもはやなぜだかパンク寸前だ。勇気をだせ俺! 「その…お、おまえはもっと可愛い」 誰か俺を狙撃しろ。真っ赤な顔を血でごまかそうじゃないか。 「…………」 ハルヒは相変わらずの上目遣いで俺を見つめていた。恥ずかしくて目をそらそうとした時、 「キョン」 「な、なんだ?」 上ずった声を出す俺の情けなさには谷口もびっくりだろう。 「あたし、あんたのこと待ってるから」 そう言うとハルヒは長門達の方へ走っていった。 入れ替わりにこっちに戻ってきた古泉は普段より20% 増量のニヤケ面を俺に向けた。 「余計なことしてくれたなこの野郎」 「ふふっ、で、どうでしたか?」 「おまえの言ってたことを実行する日は近いかもな」 そうですか、と古泉は嬉しそうに言った。 ハルヒ、ありがとう。俺は決心したさ。もう曖昧になどしない。 前を歩くぬいぐるみを抱き締めたハルヒの笑顔は夕日に照らされていた。 待たせるのはもうやめよう……… FIN.
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/6009.html
涼宮ハルヒの遡及ⅩⅠ 終った……のか……? 俺は茫然と呟いていた。なぜならとても凌ぎきれそうにないと想像せざる得なかったあの怪鳥の集団が完全に消滅したのだから。 それも長門とアクリルさんが二人で放った、たった二発の融合魔法――フュージョンマジックによって。 「終わり? 何言ってんの?」 が、俺をあっという間に現実に引き戻したのは、肩越しに振り返ったアクリルさんの不敵な笑みである。 ……その頬には嫌な汗を一滴浮かばせていたからな。 ついでに言うなら隣に肩を並べて佇んでいる長門は振り返ることすらしていない。 そうだな。おそらくそれはその視線の先に在る者のためだろう。 ああそうだ。さっきと同じくらいの大群がまた、俺たちに迫って来てやがるんだよ。悪いか。 「嘘よ……」 ん? 「こんなの嘘よ……」 心細く呟いているのは俺の腕の中にいるハルヒじゃないか。それも前髪で瞳を隠して全身が震えてやがる。 どうしたんだ? 「だって……この世界は、あたしの想像が現実化している世界なんでしょ……?」 まあな。俺と古泉がそれを教えたもんな。 「だったら!」 ハルヒがどこか涙を浮かべた瞳で睨みつけてきた。 「何でみんなを危ない目に遭わせなきゃいけないのよ! あたしはみんなで面白おかしく過ごせることを望んでいるわ! なのに何でみんなを苦しませてるの!?」 ハルヒが慟哭の叫びをあげている。 確かにそうだな。お前は無理難題を吹っ掛けることは多いが、それでも俺たちを苦しめてやろう、などと思ったことは一度もなかったよな。 「蒼葉さんの時もそうだった……あたしは、ただ面白い世界であってほしいだけなのに何で……」 その通りだ。お前は誰も不幸にしたいと思っちゃいない。少し方向性はズレているがそれは間違いないだろうぜ。 だからさ、 「誰もあなたと一緒に居て不幸だと思ったことはない」 え? 俺のセリフを取ったのは長門。お前なのか? 「その通りです。僕も涼宮さんに出会って不幸だなんて感じたことはありません」 「あたしもです。あ、でもあんまり恥ずかしい格好させられるのは……」 「みんな……」 「だとよハルヒ。てことは今、この状況でさえもお前のことを恨んでる奴なんかいないってことだ。SOS団にはな」 俺はこの場に似つかわしくないであろうとびっきりの笑顔を浮かべている。 「キョン……」 「だからさ気にするな。必ずこの世界から脱出できるさ」 「で、でも……あの怪鳥の数とか世界の異常気象とかは……」 「何か勘違いしているようだけど、あたしたちに襲ってくるこの世界はハルヒさんの意思じゃないわよ」 割ってきたのは唯一SOS団とは無関係の異世界人さんである。 「だって、もうこの世界は『一つの世界』として定着してしまっている。それは異世界という意味。つまり、ハルヒさんの力はもうこの世界に及んでいない。なぜならハルヒさんも元の世界の一部だから。世界を越えてまでその力が作用されることはないの。 要するに今、この世界はあたしたちを完全に敵とみなしたってことよ。当然よね。だって、あたしたちはこの世界を滅亡させようとしているんだから」 ……なんつう説明だ……いいのか……? 「ついでに言うなら、アサヒナさんの……えっと、ミクルミサイルだっけ? アレが確実にこの世界を滅亡できるってことを意味していることでもあるわ。だからこそあたしたちを、正確にはアサヒナさんを排斥しようと躍起になってるわけだしね」 「え? じゃあ世界を滅亡させよう、なんて考えなければ攻撃されないってこと?」 「……元の世界に戻るにはこの世界を崩壊させるしかない、って言ったはずだけど」 戸惑いながら問うハルヒに、苦笑を浮かべて応えるアクリルさん。 が、次の句は再び襲いかかって来た怪鳥の大群によって阻まれてしまったのである。 再び、大激闘が始まる。長門とアクリルさんと古泉の。 長門とアクリルさんは怪鳥の群れに突っ込み、なんとヒットアンドアウェイ作戦で一羽一羽を各個撃破していくんだ! 確かに作戦としては間違いじゃない。 集団に突っ込んでしまえば向こうの同士討ちも誘発できる。ただし、それは長門とアクリルさんが相手よりも素早く動き回れる、ってことが絶対条件だ。 空を飛ぶ怪鳥相手に、魔法で飛ぶ二人が動きで負けないのだからとんでもない話だ。 んでもって、古泉は古泉で、俺たちを守るこの赤い球を消すわけにはいかず、笑みが消えた必死の形相で現状維持を図っているんだ。 くそ……また見ているだけなのかよ……俺にも何かできることはないのか…… 「キョン見て……」 俺にどこか愕然とした声をかけてきたのはハルヒだ。 「何だ?」 「よく見てよ……さくらさんと有希を……」 ん~~~正直言って、あまりに動きが早いんでなかなか細かく見ることが難儀なんだが…… 目を細めてみる。 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!?! 俺もまた驚嘆した。 「嘘だろ……まさか……」 「そうよ……これじゃあの時とまったく同じよ……」 俺とハルヒの震える声が響く。 そう……長門とアクリルさんが肩で息をし始めているんだ……しかも動き回っているわけだからその度に小さな光が点々と反射してやがる…… つまりそれは疲労が蓄積し始めてるってことだ。 無理もない。さっきから怪鳥の大群を相手しているだけじゃなく、大地がもうないわけだからずっと『飛んだ』まま戦い続けているってことになるからな。 それは魔力とやらを放出し続けているって意味だ。 体力と同じで魔力だって器量を越えれば必ず尽きるときがくる。 そしてそれが意味することは―― 「じょ……冗談じゃねえぞ……今、ここにいる古泉も含めてこのままじゃ……」 「分かってるわよ! だから、あたしたちにも何かできないことはないの!?」 ハルヒが叫ぶ。 その気持ちは痛いほど解るさ。俺だってあんなことは二度とごめんだ。 だが俺たちに何ができるというのか。 確かに今の俺は、ゲーム作りした時に創り上げた数多くの中の一つのゲームの時の妙な力は使えるが空を飛べるわけじゃないんで役には立てない。 さっきも言ったが、ハルヒの大技は朝比奈さんが戦列に加わることができない以上、使えない。 いったいどうしろと……って、いや待てよ! 「ハルヒ、お前だ! お前が呼ぶんだよ!」 それは俺の思いつき。しかし、確実に来るだろうと予感できるもの。 「って、何をよ!?」 「前にゲーム作りした時にお前が宇宙戦艦を呼べたじゃないか! アレを呼べ! おそらく、いや絶対に来る! だって、俺にだって妙な力があったんだ! だったら!」 「そっか!」 ハルヒが満面に勝気な笑みを浮かべて、しかし、即座に瞳を伏せてマジ顔に変化! 「来なさい――」 静かに呟き、そして『かっ』という効果音が聞こえてきそうな勢いで瞳を開き、 「ザ・デイオブサジタリアス!」 ハルヒが吠えると同時に空が割れ、その暗闇の空間から、深紅に輝く、とあるトレーディングカードをテーマにした物語に出てきた天空を大いなる翼で羽ばたく神の竜を彷彿とさせるデザインの、一機だけではあったが、戦艦が現れたのである。 「行くわよ! キョン!」 「もちろんだ!」 戦艦に乗り込むべく、ハルヒは俺に手を差し出し、迷わず俺はその手を取った。 「あ、あの?」 古泉が戸惑いの声を漏らして、 「古泉! お前は朝比奈さんを守っていろ! 俺とハルヒが抜ければその赤玉も小さくより強固にできるだろ! なんせ守る人数が減る訳だからな!」 俺は勝気っぱいの笑顔で吠える。 もっとも俺がこう言っている時でもハルヒと俺は深紅の戦艦にトラストされている。 完全に中に入ったとき、俺が最後に見ていたのは古泉と朝比奈さんの戸惑っている表情だった。 が、それでいい。 頼むぜ古泉。 そう心の中で呟き、俺とハルヒはコクピットへと駆ける。ま、入った順番の関係で俺が後ろ、ハルヒが前ではあったがな。 …… …… …… …… …… …… 古泉一樹は感慨深げに上空を眺めていた。 深紅の戦艦がゆったりと動き始めた様を、今、自身は親友という念を抱いている少年を見送るが如く眺めていた。 もし、自分自身が創り出した赤い結界球の中にいなければ、その風圧で古泉一樹の柔らかな髪は揺れていたかもしれない。 「まったく、あなたという人は……」 ひとつ、ため息交じりの呟き。しかし、その表情には自嘲気味ではあったが笑顔が浮かんでいる。 おそらくは彼の親友は見たことがない笑顔。 そこには仮面ではない本当の本物の素直な古泉一樹の笑顔があった。 もっとも、たった一人だけ、その笑顔を見止めた者もいる。 「くすっ、古泉くんってそんな風に笑うこともできるんですね」 「朝比奈さん……」 無邪気な笑顔を向ける朝比奈みくるに、古泉一樹が苦笑を浮かべる。 どことなく照れくさかったから。 「しかしまあ」 が、もう一度、上空へと視線を移し、 「確かに、彼の言うとおり、これで僕は結界球を縮小させ、強化することができます。あなただけを守ることに専念できるということです」 「よろしくお願いしますよ。もう少しですから」 「はい」 などと会話しつつ、しかし、古泉一樹はとある提案を思いつく。 むろん、それは嘘ではないのだが、受け入れてもらえる提案かどうかが判らなかったので、 「ところで僕があなたに近づけば近づくほど、もっとより強固にできるのですが? なぜなら、結界球は範囲が小さければ小さいほどより強固になるものですから」 「どういう意味でしょう?」 もちろん、朝比奈みくるはキョトンと問う。もっともみくるミサイル発射態勢のままではあるが。 「つまり、僕があなたを抱きしめられるくらい近づけば、という意味ですよ。そうすれば、ほとんど一人分の範囲しか必要ありませんし、今、僕が創りだせる一番強固な状態にできることでしょう」 しかし、朝比奈みくるの反応は顔を赤らめるわけでもなく、また慌てふためくわけでもなく、 「ふふっ、ゴメンだけどそれはいいです。だって意識してしまってミサイル充電に支障を来たしそうですから。そうなってしまえば、キョンくん、涼宮さん、長門さん、さくらさん、そして古泉くんに迷惑かけちゃいますから」 それだけを笑顔で言うと、再び瞳を伏せ、精神を集中させる。 ふぅ……やっぱりですか…… そんな彼女を見たあと、古泉一樹は再び視線を上空へと、正確には涼宮ハルヒが呼び、今は自分たちのやや前にある深紅の戦艦を、どこか残念な諦観の笑顔を浮かべて眺めていた。 古泉一樹には解っていた。 朝比奈みくるが一番最初に呟いた名前、正確にはあだ名を聞いて、それを確信させられてしまったから。 彼女にとって誰が一番大切なのかを。 なんとなく辛いことでもあったのだが、古泉一樹はそれをどういう訳かすんなり受け入れている自分に気がつき、どこか吹き出したくなってしまったのである。 …… …… …… …… …… …… 「キョン、あんたが操縦して! あたしは砲撃するからちゃんと当たるように動かすのよ! あと、絶対に有希とさくらさんを巻き込まないようにね!」 「言われんでも分かっている!」 ハルヒが一段高い、コントロールパネルに、ブラインドタッチでいうホームポジションで指を置き、俺はその下で四つに分かれたレバーを軽やかな手つきでさばいていた。 もちろん、二人とも勝気な笑顔を浮かべたままだ。 そりゃそうだろう。 前回と違い、今度は見ているだけじゃない。俺たちだって長門やアクリルさんのために、朝比奈さんや古泉のために戦うことができるんだ。 以前の蒼葉さんのことを思い出せば、どんなに危険なことだろうと、このやる気全開の高揚感がそれを地平線の彼方へと追いやれるってもんさ。 「行くわよ! 連続発射! 撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て!」 おいおい本当に楽しそうな声だな、つか撃つのはお前だ。 などと心の中でツッコミを入れる俺の表情も笑顔が途切れていない。 眼前では、ハルヒの狙撃が怪鳥を確実にヒットする光景が映し出されている。 まあ数は半端なく多い訳で、しかも、この怪鳥もその嘴の奥から怪光線を発射できるんだ。当然、戦艦を衝撃が襲うことだってある、というか襲いまくってきている。 俺の目の前のパネルには、戦艦の破損情報が逐一送られてきており、いくらこの船が強固なものだろうと、相手の数が数である。 当然受け続ければいずれは沈むことだろう。 もっとも、俺とハルヒにとってはそんなことはどうでもよかった。 「こらキョン! ちゃんと操縦しなさい! 一匹外しちゃったじゃない!」 叱咤してくるハルヒの声は妙に明るいしな。 などと、どこか場違いなくらい無邪気な俺たちの耳が軽い金属音を二つ捉えた。幻聴じゃない。確実に聞こえたんだ。 何だ? ――外部回線ONを申請する。互いの声が聞こえるように。可能なはず―― 「んな!?」 「ちょっと! 今の声、有希!?」 ――そう。わたしは今、精神感応魔法、テレパシーであなたたち二人に声を届けている。彼女の使用する魔法をプログラム化しインプットした今の私はこれが可能。しかし彼女はこの戦艦の機能を知らない。だから声をかけるのわたしの役割―― きちんと説明してくれた長門に、ハルヒがやや戸惑いながら外部回線をONに切り替える。 「聞こえる? 有希」 『聞こえる。そちらは』 「こっちも大丈夫よ」 『あなたの方は?』 ん? 俺に聞いているのか? というか、ハルヒが聞こえているなら俺にも当然聞こえていることくらい長門にも解かっているはずだが? 『ええ、あたしの方も大丈夫よ。これで、もっと連携しやすくなるわね』 って、何だアクリルさんに確認していたのか。 俺は思わず苦笑を浮かべてしまったね。 『それにしても助かったわ。空飛ぶ魔法を使いながら攻撃をしてたからちょっと疲れてきてたのよ。でも、この艦隊のおかげで足場ができたわけだし、かなり楽に魔法を使えるようになるわ。あたしも、んで勿論、ナガトさんもね』 外部モニターに映るアクリルさんが俺たちの方を、正確にはコクピットに向けてウインクをしてくれている。 どうやら本当に俺たちは役に立っているようだ。こんな嬉しいことはない。 『そう。そしてこれで大技を使いやすくなる』 長門? などという疑問はアクリルさんが放った魔法によって、驚嘆と供に解明された。 『スターダストエクスプロージョン!』 そう! あの銀河を駆ける数多の流星群を彷彿とさせる魔法が放たれたんだ! 撃ったのは勿論アクリルさんだ! 怪鳥群の一角に確実に大きな風穴を空ける! って、どうして今の今までこの魔法を使わなかったんですか!? 『簡単に言わないでよ。この魔法って三つの魔法を同時に使うようなものなんだから。空を飛んで、防御魔法を使って、コイズミくんの防御結界の威力を高める魔法を使ってたらこの魔法は使えないの。だって、あたしは複数魔法同時使用は五つだから』 『わたしにとってはあなたが五つの魔法を同時使用できることの方が信じられない。どうやっても、わたしは三つまでしか使えなかった』 『それも凄いわね。あたしたちの世界で複数魔法を同時使用できるのは、あたしを含めてたった四人よ。しかも三つ以上となるとあたしと蒼葉の二人だけね。魔法を使い始めてすぐのナガトさんが三つ使えることが驚き。ひょっとして魔法使いの才能あるんじゃない?』 『そう』 ううむ。思いっきり雲の上の会話だな。見ろよ。ハルヒだって目が点になってるぜ。 『それはともかく、じゃあナガトさんも当然いけるわよね?』 『もちろん』 どういう意味だ? 『スターダストエクスプロージョン』 んな! 長門が棒読みに呟くのが聞こえてきたと思ったら、またもや流星が放たれたんだ! もちろん、怪鳥群の一角が完全に吹き飛ぶ! って、凄すぎるから! 『キョンくんとハルヒさんのおかげよ。この戦艦が足場になってくれているおかげで、あたしたちは空飛ぶ魔法を使うことなく、攻撃に専念できるから』 『そう』 二人の満足げな声が聞こえて、 「よぉし! なら、あたしたちも負けてらんないわよ!」 「ああ!」 ハルヒと俺もまた、いつまでも傍観者でいるつもりはなく、長門とアクリルさんを乗せたまま、再び怪鳥の群へと攻撃を再開する。 そうだな、こう表現しても間違いないだろう。 俺たちの快進撃が始まった、と。 涼宮ハルヒの遡及ⅩⅡ
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ハルヒは死んだ。何もかも大切な物が無くなった… あれから、俺は大人になった… あの日の記憶忘れやしない… 「閃光のハルヒ」 ――25年前 俺は、今、高校3年である。 SOS団設立してから2年後か? 今は、春…暖かい空気で眠気を誘う日が続く… そして、俺は今いるのは… 「皆!おっまたせーっ!」 相変わらず声がデカい困った団長…涼宮ハルヒが来た。 みくる「お帰りなさい、涼宮さん」 俺の気持ちを癒してくれる、我らアイドル…朝比奈みくる ん?何で卒業したのにいるんか?って? あー、それはな…放課後だけ遊びに来るんだよ…大学から近いらしい。 俺は、部屋の隅っこへ向く… 「……」 そこに座ってるのは、長門有希…相変わらず無感情で本を読むのが好きみたいだな… 「キョンさん、あなたの番ですよ」 「ん、おぉ…そうか」 先ほど声掛けられた主は、古泉一樹…ハンサムでカッコいいと言う理由で女子達の間で人気らしい…気に入らん! そんな、相変わらず活動してるか… まさか、あの日が来るとは思わなかった… 「…ゲホッ…ゲホッ…ゴホン…」 咳をしてたのは、ハルヒだった。 「大丈夫か?ハルヒ?」 「う、うん…おっかしぃーなぁ…今日まで咳する事は無かったんだけどね」 「そうか…ま、気を付けろ…最近、インフルエンザやら流行ってるみたいからな」 「うん…気を付ける」 あの時、俺は気付いてやれなかった… 俺は、激しく後悔してる… 帰り道… 「キョン」 「ん?何だ?ハルヒ」 「明日、デー…!…ゲホッゲホッ!…ゴホッゴホン!」 「お、おぃ…ハルヒ!大丈夫か?」 「う、うん…だいじ…ゲホッ…ゴホン!」 と、ハルヒの口から出たのは… 血だった… 「!?ハルヒ!」 「だ…大丈夫よ!」 俺から見ても、大丈夫じゃない… 「ハルヒ…」 「大丈夫だから…」 あの時、強制に病院へ連れとけばよかった… 一週間後、ハルヒは元気に活動していたが… 「さぁ、皆!ミー…!ゲホッ、ゲホッ…ゴホン!」 「ハ、ハルヒ!」 「だ…大丈夫よ…平気だ…か…ら…」 と、ハルヒはその場で倒れた… 「ハルヒ!」 俺は、ハルヒがスローで倒れているように見えた… 「涼宮さん!」 「…!長門さん!救急車を!」 「うん」 「ハルヒ!ハルヒ!ハルヒ…ハルヒーーーーっ!」 俺は、いつの間にかにハルヒの事を呼んでた… ピーポー、ピーポー、ピーポー… ―病院 「…キョンさん…覚悟はいいですか?」 「あぁ…何だ…」 「…重い病気ですよ…えぇ、死ぬ可能性もある病気…」 「!?…え?」 「キョン君…その病気は…」 「癌」 と長門が答えた… 癌!?癌だと!?そんな…ハルヒは今まで元気してたのに!?そんな! 「…仕方ない事ですよ…」 「あぁ…ぁ…ぁ…うわあぁぁぁぁぁぁぁ…」 俺は、虚しくも叫んでた… ハルヒ…前から知ってたんだろ?…何で…何でなんだよ… ハルヒの病室 「…ハルヒ…」 俺は、ハルヒの寝顔をずっと見てた… 「……」 可愛い寝顔だ… 「ハルヒ…お前は、どうしたいんだ?」 「……」 「俺とデートしたかったんだろ?」 と、言ってても…ハルヒは返事しない…息を吸ってる音が少し聞こえるだけだった… 「ハルヒ…ハ…ル…ヒ…うっ、ううっ…」 俺、泣いてるのか?辛いのか?何故だ…こんな思いは… 「…あぁ、俺は…ハルヒの事が好きだったんだな…好きだったんだな…」 次の日の朝 俺は、病室で寝てた。 あぁ、俺…泣いて、このまま寝たっけ… 「おは…よう、キョ…ン」 今のは、ハルヒの声だった。 「ハルヒ!起きたのか!?」 「う…ん、昨日は…ゴ…メンね…」 「いいんだ!そんな事はいいんだよ…」 「キョン…」 「ん?」 「泣いて…たの?」 「…あぁ」 俺は、無理矢理に笑顔を作った… そして、毎日… SOS団員や妹…クラスメイト達も見舞い来てくれた。 色々、喋り…笑い…そういう生活を過ごして行った… あの日が訪れるまでに… 一ヵ月後… 「じゃ、俺…帰るわ」 「待って…」 と、ハルヒに呼び止められた。 「何だ?」 「あたしの事…どう思ってるの?」 「ハルヒ…」 弱弱しくなったハルヒ…見てるだけで辛い… そんなハルヒを守りたい… 「…俺は、今までハルヒが居ない学校生活して来た…俺は、学校生活してて、やっと分かった。 ハルヒがいないと、俺はダメなんだよ…元気なハルヒを見たい、見たくでも見れない…俺は、寂しかった! 家で泣く日が多かった、ハルヒのいない学校生活を送るなんで嫌なんだよ!俺は、ハルヒの事好きなんだよ、好きなんだよ!」 俺は、まだ泣いた…情けなかった。 その時、ハルヒは、自分の手で、ゆっくりと俺の手と重なった。 「!?」 ハルヒ… 「あたしも、寂しかったよ…先生から聞いたよ…癌だってね?」 「…あ…」 俺は、言おうと思ったけど…息苦しくで言えなかった。 「あたしは、あの時…凄く泣いたよ…」 「ハ、ハルヒ…」 「あたしは、キョンが好きなのに、もう会えないなんで嫌だった…」 「……」 「それでも、キョンの側に居たい気持ちあったのよ…」 「…俺も!俺も、ハルヒの側に居たかった!」 「あたしは死ぬのが怖い…それでも仕方ない事…だ…よね?」 ハルヒは、泣いてる…俺も泣いてる 「…キョン、キスしてくれる?」 「あ、あぁ…するよ…」 と、ハルヒの唇と重なってキスした…暖かいキスだった… そして…その時が訪れた… 「!?ゲホッゲホッ!ゲホッゴホンッ!」 「!?ハ、ハルヒ!」 「血が出た…あたし、死ぬのね…」 「ハルヒ!今、先生に呼んだからな!手、握ってるから安心しろ!」 「あたし…疲れたよ…ありがとう…キョン…」 「ハルヒ!」 「好きだよ…さ…よう…な…ら…」 ハルヒは、ゆっくりと目閉じた… 「ハルヒ!ハルヒ!」 ハルヒの手は力無くなり、落ちた… 「ハ、ハルヒ…ハルヒーー……」 その時、ハルヒは死んだ… ハルヒといた生活は幕閉じた… そして、葬式が行われた みくる「涼宮さん!涼宮さぁん!…うぅっ…」 長門「……」 古泉「涼宮さん、天国で会いましょう…」 SOS団もクラスメイトも参加してた…皆、泣いてるのは物凄く辛い事だった… 「キョン君ですか?」 「あ、はい」 「ハルヒの母です…あの子を最後まで見守ってありがとうございます…うっ…」 「キョン君、ありがとう…父親である私が…最後までに…うっ…ううっ…」 「御父さん、御母さん、ハルヒは幸せな子です…ですから、ハルヒを悲しませないように頑張って生きてください…」 「あ、ありがとうございます…」 「それから、ハルヒの部屋はどこです?」 俺は、ハルヒの部屋へ行って見た。 「…何だ、シンプルな部屋だな…」 本棚、机、時計、ベッド…色々あるな… 「ん?」 机の上に1冊のノートとビデオが置いてあった。 「これは…ビデオと…日記だ…」 ○月○日 明日は、バレンタインデーだ! 張り切ってキョンに渡そう! あたしの作ったチョコは美味いよ! ○月○日 今日は、楽しいデートだったよ。 色々トラブルあったけど、本当に楽しかったよ! ○月○日 明日は、あたしの誕生日 キョンはその事気付いてるかな? プレゼントが楽しみだな! 俺は、読みながら思い出してしまった…楽しかった事…悲しかった事… 色々あった… 「あぁ…ハルヒ…ハルヒ…」 次へ次へ読む事に手が震えて来た。 そして… 手は止まった。 「!…これは…」 ○月○日 あたしは、病院へ行った… そして、先生から、こう告げた… 「あなたは、重い病気持ってます」と… あたしは、世界が止まったような気がした。 それは、癌だった。 あたしは混乱したよ… あたし死ぬのかな?死にたくないよ…まだ生きる命あるよ! お願い!癌を治して!そうじゃないと、皆に会えなくなる!キョンに会えなくなる! 嫌だよ…あたしは、死にたくないよ… その事を、皆に言ったらどうなるのかな…怖いよ… だから、あたしは黙っとく事にしたの… 静かに死んで、皆に悲しませないように死ぬ事にしよう… 今まで、ありがとう そして、さようなら…皆…キョン… ハルヒ…そんな事思ってたのか… 「…っ!」 すまない…ハルヒ、本当にすまない…すまない! 俺は、泣いた後の疲労感が溜まり 家に着いた… 「……」 俺は、一本のビデオをずっと見てた。 「…今、何時だ?」 と、確認すると…既に0時になってた。 「…見るか」 ビデオを持ってリビングへ行った。 暗闇の中でテレビを付けてビデオを再生した… そして、画面に写された映像… その中に、一人の少女がいた… それが、涼宮ハルヒだった。 ハルヒ!…これは、生前の頃の映像だった。 「こら!バカキョン!今、見てるのは、あたしが死んだ後かな? 元気の無いあんたは見たくも無いわ!あたしが死んでも、キョンはキョンらしく 生きなさいよ! あたしは、死ぬのは怖いけど…仕方ないよね…あたしは、元々、気が弱かったの… それでも、めけずに生きてくれたのは…あんたのお陰よ!」 そりゃ、そうだな…ハルヒを支えたのは、この俺なのだからな… 「…キョン、あたしは今から…告白するわ…あたしは、あんたの事が好きよ!世界で一番好きなのよ! だから、毎日…あんたと会えるのを楽しみに通ってたんだから!それでも、気付かないあんたは… かなりの鈍感ねぇ…ま、それは仕方ないと思うわ!…愛してるよ!キョン!」 ハルヒ…ありがとう… 「…あたしが、死んでも…あたしの事忘れないでね!忘れたら死刑よ! …キョン…今までありがとう、あたしは嬉しかったよ…そして、さようなら…あたしの愛した人…」 ここで、砂嵐に変わって、終わった… 「ハルヒ…俺も、忘れない!何があろうと忘れない!忘れないからな!ハルヒっ!」 時間はもう戻らない…ただ前に進むだけ… …あれから、25年後… 俺は、43歳になった… 古泉は、15年前に俺の知らない女と結婚し、幸せな生活を送っていた。 朝比奈さんは、24年前に…未来へ帰った。もう会えないだろう… 長門は…22年前に俺と結婚し、俺の妻となり…子供も出来た… 俺は、今…重い病気を持ってた… それは、ハルヒと同じ病気だった。 もう、しばらくは持たないだろう… 側に居る、美しい女性…姿は昔とは少し変わらない… それは、長門だった。 俺は、有希に言ってみた。 「…有希、お前は今、幸せか?」 「うん…」 「俺も幸せだ…でもな、俺の命は長く持たない…」 「…うん」 「泣くな…有希…今まで、一緒に歩いて来たんだろ?」 「…嫌だ、あなたと別れるのは辛い…」 「…あぁ、俺もだ…長門、俺が死んだら…ハルヒの側に置いてくれないか?」 「…分かった」 長門…今までありがとな… 「…じゃあ、俺は眠るよ…じゃあな…な…がと…」 「…あなたは、天で無事に、ハルヒに会えますように…」 その時、俺は死んだ… 【*****(本名) 二×××年○月○日死去 原因 胃癌】 …暗い… …ここは、どこだろうか… 周りは、闇に染まってる。 俺は、闇の向こうへ歩いてみた… 闇の向こうから光が溢れて来た… 段々と光は大きくなり、光に包まれた… 「…ここは…」 周りを見ると、あの懐かしき北高校である。 俺は、身に着けてる物を確認した。 「…これは、北高校の制服…」 ふと、隣にあるガラスを見てみると… 「あれ?高校時代の俺じゃねぇか…」 取りあえず、あの懐かしきSOS団室へ向かった。 懐かしい木の香り、風景などを楽しみながら歩いてると… SOS団室に着いた。 そして、俺は、扉を開けた… 「久しぶりね」 扉の向こうにいたのは…俺が今まで会いたかった、愛しい女性…涼宮ハルヒだった。 俺は、動揺してしまい、言葉を探してた。 「キョン、25年ぶりに…やっと会えたね…」 「あ、あぁ…」 「25年間、寂しく過ごしてたよ?」 「…スマン」 と俺は、謝った。 「あははは、いいのいいの!あんたが最後まで生きてくれたし、あたしの事忘れてなかったみたいね」 「あぁ…」 「キョン、改めて言うわ…あたし、あなたの事が好きです! 」 「…ふっ、俺もだよ…ハルヒ!」 「ぶっ、あはははは…真面目に言うなんでおかしいわね!」 「ぶ、ふははははは…確かに、確かにそうだよな!」 俺たちは、やっと笑った…お互いに笑った。 「…ねぇ、キョン」 「ん?」 「久しぶりに、キスして…」 「分かったよ…」 と言って、キスした… ハルヒ、いつまでも一緒にいるからな… キョン、やっと会えて本当に良かったわ… 次、転生した時は…ハルヒとキョンみたいな子が生まれるだろう… そして、会えた時は…まだSOS団やるのだろう… 完
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Ⅴ 「‥‥‥誰、ってどういう意味かしら」 「そのまんまの意味だ。お前は誰だ。本物のハルヒはどこやった?」 そのハルヒはこちらにニヤリと笑った口下だけが見えるよう少しだけ振り返り、またもハルヒとおんなじ声色で俺へと返事をした。 「なあに、キョン。本物のハルヒ、なんて意味ありげな言葉言って。まるであたしが偽物みたいじゃない」 その通りだよ偽ハルヒめ。 「だって忘れちゃったんだから仕方ないじゃない。それとも何、そんなに大事な思い出だったのかしら?」 白々しいことを。どういう過程でこいつが全くハルヒと同じ容姿と声と性格を得たかは不明だが、本当のハルヒではないということが確かになった。となると、こいつが閉鎖空間を発生させたということか。畜生、よりによってハルヒの姿になりやがって。 「じゃあ教えてよ。もしかしたら思い出すかもしれないわ。どうやってあたし達はここから出たんだっけ? キョン、言いなさい」 誰が言うか。 「じゃああたしが本物か偽物かは分からないわね」 ウフフ、と小悪魔みたいな笑い方をした後、また偽ハルヒは窓へと視線を向け直した。後ろ姿からでも俺には分かる。きっとこいつは今、笑っているに違いない。 もうバレているのに、まだハルヒの真似をするのか。じゃあいい、とっておきの質問をしてやるよ。 「3年前の七夕、お前は何をした」 「何、って‥‥‥そう、東中のグラウンドに絵を描いたわ」 「ほう、一人でか」 「あたし一人じゃないわよ。女の人を背負った北高のお兄さんも手伝ってくれたわ」 「そいつの名前は?」 「ジョンよ。ジョン・スミス」 妙なとこまで知ってやがるな。となれば‥‥‥。 「ね? あたしは涼宮ハルヒよ」 「いやまだだ。お前、グラウンドで北高生に絵を描かせたのは覚えてるんだよな」 「絵の模様までは覚えてないわよ」 「それは別にいい。だがそこまで覚えてるんだったら分かるよな? その絵の意味を」 「‥‥‥‥意味?」 ここで偽ハルヒの言葉がとうとう詰まった。しめた。 「ハルヒが描いた絵はとある宇宙語なんだよ。お前が本物のハルヒなら、その日本語訳を絶対に知ってるはずだぞ!!」 後半怒鳴るような声でそう問いただすと、さっきまで余裕で答えていた偽ハルヒからはわたしのわの字も出なかった。ざまあみろ。これでこいつが本物のハルヒではないことが完全に証明されたぜ。 「‥‥‥フフ、そうね。確かにあたしはその言葉の意味を知らないわ。どういう形なのかもね」 そこまで言って、ようやく偽ハルヒはこちらへと振り返った。 「でもね、キョン」 「それでも、あたしが本物のハルヒよ」 「いい加減にしろ。お前がハルヒじゃないとはもう分かりきってるんだよ」 そう言う俺の言葉にも段々覇気がなくなっていた。振り返った偽ハルヒは、朝倉の顔をしていた! なんてこともなく、誰がどう見ようと涼宮ハルヒだったのだ。今の表情は俺にとってはいやぁな計画を思いついたハルヒのそれだった。 「キョン、あんたにとって‘涼宮ハルヒ’って何かしら?」 「‥‥どういう意味だ」 「あんたの言う‘涼宮ハルヒ’は、この顔をしていること? それとも声かしら? 自分勝手な性格? 身長、体重、趣味が完全一致している人物を指すの?」 偽ハルヒはそこで一旦言葉を区切り、団長と書かれた三角錐の乗った机の引き出しから腕章を取り出して 「それかこの‘団長’の腕章を身につけてる人のことを言うのかしら?」 と口にしながら腕章を右腕にはめた。 「違う」 「どう違うのかしら」 「お前はハルヒじゃない! だからいくらハルヒの真似をしたところでハルヒじゃない!!」 「ウフ、いいわよ。あたしはハルヒじゃない。あんただけにはそう認めてもいいわ」 だが偽ハルヒは勝ち誇った顔を浮かべ 「だけど他の人にはどうかしら?」 「何‥‥?」 「谷口や国木田、担任の岡部や鶴屋さんの目にはいつもどおりの‘涼宮ハルヒ’が写っているんじゃない? あんたがそうだったようにね」 「‥‥‥‥」 確かに反論は出来ない。 「だとしたら俺がお前が涼宮ハルヒじゃないと言いふらしてやるよ」 「どうやってかしら。あんたと‘涼宮ハルヒ’‥‥‥あと宇宙人の有希しか知らない事実でなんとかしようっていうの。笑えるわよ、キョン。頭おかしいと疑われるのがオチよ」 長門を宇宙人だと知ってるのか? いや、そもそも長門に攻撃不許可にしたのがこの偽ハルヒだったんだから、何もおかしくはないか。しかしあの見た目がハルヒの口から「宇宙人の有希」なんて言葉が出てくると妙な気分になるぜ。 「どうして長門が宇宙人だと知ってる」 「有希だけじゃないわよ。みくるちゃんは未来人で、古泉君は超能力者でしょ」 まさかこいつが新たな異世界人なのか? と一瞬疑問がよぎったが、その考えはものの見事に粉砕された。 「何故知ってるのか? って顔をしてるわね。ウフ、キョンは忘れちゃったのかしら?」 俺が忘れてる? 「そうよ。だって、長門有希が宇宙人っていうのも、朝比奈みくるが未来人というのも、古泉一樹が超能力者であることも‥‥‥あんたが教えてくれたんじゃない」 なんだと。 「俺はお前なんかに教えたつもりは‥‥‥」 「5月29日、日曜日」 偽ハルヒは俺の顔を見ず天井見上げてそう声を上げ、団長席の回りをゆっくりとした足取りで歩み始めた。なんだなんだ。 「今日はSOS団の活動の日。みくるちゃんと有希と古泉君は用事があるみたいで、よりによってキョンと二人きりだったけど仕方ないから同行してあげた。喫茶店でキョンにどうやって奢らせようか考えていたら、あいつ、妙なことを話し始めたわ。有希が宇宙人でみくるちゃんが未来人、古泉君が超能力者なんて言い始めたの。一生懸命考えたジョークなんだろうけど、全然面白くなかったわ。選んできた人材が偶然みんな宇宙人未来人超能力者なわけないじゃない。全く、聞いてて呆れたわ」 床の上に落ちた壊れたパソコンの液晶画面をさらにバリバリと砕くように足を乗せて、ハルヒは机の回りを一周し終えた。また横目だけで俺の顔を伺う。 「それに、」 「もし有希が宇宙人で、みくるちゃんが未来人で、古泉君が超能力者なら、あんたは何なのよ」 「‥‥‥‥」 それは逆に俺が聞きたいぐらいだ。まさか俺が異世界人でした、とかないよな。 「‥‥‥キョンは、何なのかしら?」 「さあな」 だんだんと麻酔銃を向けている腕も疲れてきたが、まだ下ろすわけにはいかない。聞かなきゃいけないことがまだ山ほどあるからな。とりあえず一つずつ疑問を解消させよう。 「今のはハルヒの日記か」 「‥‥‥‥」 偽ハルヒは黙っていたが、間違いない。 黒魔術の練習か、小さい頃から親に強いられてきたのか、あるいは日々の出来事に不思議が紛れこんでいるかもしれないと思ったのかどうかは知らないが、ハルヒはこまめにも日記を書いているようだ。どうりで妙に深いところまで知っているわけだ。ジョン・スミスとかさ。だがさすがのハルヒも、運動上に描いた絵のイラストや例の閉鎖空間での出来事を書かなかった。そりゃそうだ。俺が日記をつけていたとしても、あの出来事だけは絶対に書かない。 しかし日記を自由自在に見れるということは、本物のハルヒと完全に入れ替わったということだ。となるとハルヒはどこへ? 「‥‥お前は一体何者なんだ。何故ハルヒの姿をしている?」 「あたしが‘涼宮ハルヒ’だからよ」 くそ、話が進まん。多少の強引さが必要か。 「いい加減にしろ。正直に全てを話せ。じゃないと撃つぞ」 人を脅したことのない俺が声にたっぷりと威厳をこめてそう言ったものの、何せ腕がプルプルして重心が定まらない上に、何故か人差し指に力が入らないせいで様になっていない。人に向けてエアーガンの類のものを撃ったことがないのも関係があるが、姿がハルヒということが何より大きいだろう。 「ウフフ、言葉が足りなかったかもね」 麻酔銃を五百円くらいで売っているおもちゃを見るような目でハルヒは見つめた。もうちょっと怖がれよ。 「あたしは‘涼宮ハルヒ’。でもただの‘涼宮ハルヒ’じゃないわ」 「‘涼宮ハルヒ’のみが持っている全宇宙の中で一つだけ存在する能力。それを自在に使えるのがあたしよ」 ハルヒがゆっくりと右手を上げ人差し指を立てた後、勢いよくそれを振りおろした。 一体何やって――――――ぬわっ!? ダイナマイト爆弾が爆発したような音を立て、校舎が破壊されるのと俺が体制を崩したのはほぼ同時だった。窓の外を見れば、神人が元コンピ研があった部室を上から下まで腕を振り下ろし二分割にしていた。散々だなコンピ研も。 「無様な格好してるわね、キョン」 俺を見下ろしながら一人笑う偽ハルヒの笑顔は、やはりハルヒの笑顔とシンクロ率400%だった。 なんとか立ち上がり、また麻酔銃を向ける。 「‥‥‥何をした」 「命令しただけよ」 命令? 「神人にか?」 「‥‥‥‥‥」 偽ハルヒはそれぐらいの答えは言わなくても分かるでしょう? と教師がよくするような笑みをした。窓の外では相変わらず古泉が頑張っているのがチラリと見える。 しかしどういうことだ。神人ってのは、いわばハルヒのストレスの塊なんだろ。それを自由自在に操るとは一体‥‥‥。 「‘涼宮ハルヒ’本人から生まれた存在」 パソコンが踏み潰されているのをお構いなしに偽ハルヒはこちらに向き直し、ニヤッとグレたハルヒのような笑い方をした。 「だからあたしは本物の‘涼宮ハルヒ’なのよ」 涼宮ハルヒから生まれた存在? 何ワケの分からな――――― ‥‥ 「‥‥‥‥‥!」 その時、俺の中の記憶が走馬灯のごとくフラッシュバックした。ハルヒが楽しそうにしおりを作っているところから俺が告白しようとした時までの期間がわずか二秒で頭を駆け巡る感覚。その中に、ハルヒが妙なことを言っていたことがあったはずだ。そう、あれはハルヒが睡眠不足で苦しみながらも寝ずに放課後まで過ごしたあの日だ。俺が朝登校し、珍しくも心配してやった後、あいつは何て言った? ハルヒは俺に何を伝えようとしていた? 『ねぇ‥‥‥キョン。‥‥前に、自分がいかにちっぽけな存在かを話したじゃない?人ってさ、自分の中にさらに他の自分がいるとしたら、人の数なんていうのは、本当はもっと多いのよね‥‥‥そのたくさんある中の1つがさ‥‥‥その人物の人柄と見なされて表に出てくるのよね‥‥‥。でも、せっかく出てこれたその1人も‥‥本当は世界と比べたらちっぽけな存在で‥‥‥』 ‥‥‥‥。 「お前、」 ハルヒは眉だけをクイッと器用上げ、俺の反応を伺った。表情は相変わらずのダークハルヒ。 「もう一つの、ハルヒの人格か」 そう言った途端だ。ハルヒは、いや偽ハルヒは、ようやくにしてニヒルな表情を取っ払い300ワットの笑みを浮かべた。SOS団を立ち上げた時のような、身体全身から表現する喜びの感覚。今、目の前にいる偽ハルヒは完全に本物のハルヒだった。 「その通りよ!」 ‥‥にしてもなんてこった。俺はてっきり、名も知らぬ異能力者が完璧にハルヒに化けたものばかりだと思っていたのに、そのハルヒ本人から生まれたとは。オリジナルでありながらも、オリジナルよりタチが悪いハルヒ。 だがそんなのは関係ない。今この世界を閉鎖空間で丸呑みしようとしているのがこいつには違いないのだから、なんとかして危機を回避しなければならん。それにいくらハルヒ自身とは言え俺にとってのフル迷惑なハルヒはあのハルヒ一人だけで、こっちは偽ハルヒに変わりない。 「あたし自身、最初は気づかなかったわ。どうしてここに生まれてきたのか。何のために存在するのか。後から分かったの。何のために、という意味は無かったけど、いつ生まれたかはね」 ‥‥‥そう。そうよ。あたしのハッピーバースデーは‘涼宮ハルヒ’が夕食を食べながらテレビを見ていたあの時間帯。自由どころか感覚も無かったけれど、意識だけはあった。そんな意識も最初の内はぼんやりにしか働いていなくて、あたしはただただ真っ暗な空間の中で‘涼宮ハルヒ’の声が反響するのを聞いているだけだった。 反響する声の中で一番多かったキーワードが「キョン」。でもこの言葉が出る度にあたし自身も口では表せない楽しさが浮きあがっていた気がするわ。結果論だけどね。 ほの暗い場所で、あたしはただただ膝を抱えて‘涼宮ハルヒ’の会話というラジオを聞くしかなかった。何もしないで一日中ぼけーっとしてるだけ。本当に意味のない存在だったわ。 「でも、ある日を境にあたし自身が変わってきた」 反響する声の中で、‘涼宮ハルヒ’がこう叫んだわ。 『SOS団主催、読者大会を開きます!』 まさにこの日の夜、あたしという存在は確立された。『人格と精神』という本に‘涼宮ハルヒ’が読み始め、あたしの意識が段々と強くなっていったのよ‥‥。 「ってことはなんだ。医学の本をハルヒが読み始めたのは、本当に偶然だったのか?」 「‘涼宮ハルヒ’は多重人格には興味を持っていたけど、特段医学関連の本を読もうとは思っていなかったようね。テレビ番組のような難しい内容を、キョンに読ましたら面白そうだなとは思っていたけどね」 ‘涼宮ハルヒ’自身はくじ引きでどの本に当たろうと良かった。偶然医学の本を引き、たまたま多重人格に関心があったから『人格と精神』を手にした。 ‘涼宮ハルヒ’が『人格と精神』を読めば読むほど、あたしには力が湧いてきた。暗闇から立ち上がって歩くことも出来たし、さらには‘涼宮ハルヒ’が寝ている時に限り身体を借りることが出来たの。その時思ったわ。 ああ、 「この本を読み続ければ、乗っ取ることが出来る」 ってね。 「‥‥‥ハルヒを睡眠不足に追い込んだのはお前か」 「さすがに本人もおかしいと思い始めたわ。起きれば机の前に座って本を読んでるんだし、疲れも全く取れてないんだから」 次第に本を読むのを止めようとした。さすがに不思議事が好きでも、これは不気味だったようね。 でもあたしはそうはさせなかった。ここまで来て、中途半端な意識だけを持って終わりたくはなかった。だから、無理に読ましたわ。キョンならもう分かるんじゃない? 「‥‥‥深層心理を利用したのか」 よく出来ました。あれだけ哲学の本を読んでれば、いくらキョンでも分かるわよね。 ‘涼宮ハルヒ’の意識が及ばないところであたしはひたすら本を読むように命令していた。拒否も出来ずもがきながら本を読む‘涼宮ハルヒ’を見て、さすがにあたしも罰が悪かったわ。でも仕方ないわよね? あたしが生まれた以上、あたしだって身体を動かしたいわよ。 そんなことを無理矢理させていた日の夜、口では言い表せない何かがあたしの中に流れこんできたわ。あたしは戸惑ったし、対処の仕方も分からなかったからなすがままにそれを蓄えたわ。後から分かったけど、これが‘涼宮ハルヒ’の持つ情報爆発能力だったのよね。ありったけのストレスで作られたパワーは、あたしをより確実なものへと成長させた‥‥‥。 「閉鎖空間が発生しなかったのはお前が内側で貯めてからか」 「そうよ」 寝てようが起きてようが本を読まされる。あたしにとって、‘涼宮ハルヒ’を乗っ取るのも時間の問題だったわけよ。 でも、思いもよらない行動を彼女はとったわ。 寝ずに読み始めたのよ。本を自らね。読破する気だったのかしら。読み終わればなんとかなるとでも思っていたのかも。 でもあたし自身、‘涼宮ハルヒ’がこれを読み終わった後どうなるか分からなかった。彼女の多重人格の興味は消えて、別の本に手をつけるかも。そしたらあたしの力はきっと消えていく。あともう少しで身体があたしのものになるのに。 「焦ったわよ。でも、あたしはギリギリ逃げ切った」 「‥‥‥‥‥」 「さすがの‘涼宮ハルヒ’も仲間の前で安心しちゃったのかしら。とうとう疲れに疲れを溜めて、寝たのよ。そしてそんな弱り切った‘涼宮ハルヒ’を多大なるストレスで力を得ていたあたしが乗っ取るのはいとも容易かった‥‥‥‥」 「‥‥‥つまり、お前は、」 ‥‥ハルヒの奴、一人でそんな悩みを抱えてたのか。古泉の野郎、一体何してんだ。いつも通りなわけないじゃないか。朝比奈さんも長門も、どうしてあのハルヒに異常があると察しなかったんだ。なんですぐに集まって対策を練らなかった。 ‥‥‥‥‥、分かってる。一番悪いのは古泉でも、、朝比奈さんでも、長門でもない。一番身近にいながら、様子がおかしいと思いながらも何も出来なかった無力な俺だ。俺の知らないところで皆手を尽くしていたのかもしれない。でも俺は何も出来なかった。しなかった。せいぜい声をかけたぐらいだ。過去の俺を殴り倒してやりたいぜ。最悪だ、本当に。 なんたって、 こいつは、 「俺たちの目の前でハルヒと入れ替わった、ってことか‥‥‥‥!!!」 肯定の返事はなかったが、顔見れば分かる。朝比奈さんが感じた時空震とやらはおそらくこいつが入れ替わった時起こったものだろう。そういやあの日は長門の様子もほんの少しだけ違ったし、何よりもハルヒの様子がおかしかった。あいつの機嫌が良くて俺に礼まで言ったのは、テンションが最高にハイってやつになっていたからか。ハルヒじゃなく、こいつの。 「あたしはいつも‘涼宮ハルヒ’の目と声を通していたからね‥‥誰にどう接して、どういう仕草を取ればいいかも分かっていたわ」 そうかい。完全に騙されてた。お前の演技も主演女優並だな 。 「ということは、今度はハルヒが内側にいるのか?」 「そのことなんだけどねー」 偽ハルヒは喋りすぎて肩でもこったのか、首をゆっくりと回した。右回り、左回りとした後に俺を見て、その後掃除箱の方へ見やる。 「あたし家に帰ったあと、思ったのよ。もしかしたら‘涼宮ハルヒ’が身体を取り返してくるかも、って」 「だから思ったわ。あたしだけの身体があればいいのに、って。そしたら‥‥‥」 偽ハルヒは高々と右手を上げ、指をパチンと鳴らした。一体何をしたのか。俺の左側にある掃除箱がガタンッと音を立てた。中のほうきが倒れたにしては音がでかすぎる。ビクッと身体を仰け反らすと、掃除箱のドアがひとりでに開き‥‥ 「‥‥‥‥‥ハ、」 見知った人物が重力に導かれるまま倒れこんできた。 「ハルヒ!!!」 何故掃除箱から、などという疑問をよそにハルヒは前のめりに床に激突しようとしていた。危ない! 麻酔銃を投げ捨てハルヒをギリギリで抱きかかえる。だが顔から打たなくて良かったと安堵する前に、俺はハルヒの軽さに驚いた。いくら女とはいえ軽すぎだろ。 急いでハルヒを仰向けにし、顔色を確かめる。思っていたほど頬がガリガリと言うわけではなく、少しだけ俺は安堵した。 「ハルヒ。おいハルヒ! 起きろ!」 「‥‥‥‥‥」 肌は健康色。だがその割には反応に生気を感じられない。冗談は止めろマジで。 「‥‥あたしがあたし自身の身体を手に入れた時、不意に分かったの」 「ああ、あたしには‘願望を実現させるチカラ’があるんだ‥‥ってね」 「それで結果ハルヒは二人になったわけか。まるで分身の術だな」 もちろん分身はお前の方だがな、という皮肉を言ってやろうと思ったが、偽ハルヒが手も触れずに俺の麻酔銃を手にした瞬間にそれは喉の奥へと引っ込んだ。強力なサイクロン掃除機を使ったみたいに手の平に吸い込まれやがった。唯一の武器が‥‥‥。 「あたしはこの能力が、一体どこまで出来るのか知りたくなったわ。で、思いついたワケ。キョン、分かるかしら?」 そんなもん俺が知るわけないだろ。 「じゃあ教えてあげるわね! あんたがあたしに告白してくるかどうかを試したのよ!」 ‥‥‥‥なっ‥、 「なんでだ‥‥?」 何故あえてそれにしたんだ。 「んー、なんでかしら。強いて言うならあんたに興味があったから」 俺に興味? 「だって、あんただけ何もないじゃない。宇宙人でも、未来人でも、超能力者でもないし、あたしみたいな万物の創造みたいな能力もない。だけどあんたはSOS団にいて、‘涼宮ハルヒ’と仲が良いわ。日記見てたら分かるもの。‘涼宮ハルヒ’があんたにどれだけ信頼を置いてるのかが」 映画の時にも古泉に言われたな。ハルヒは俺だけは絶対に味方だと信じてる、ってことを。 「だがそれと、お前に俺が告白するのになんの関係がある?」 「‘涼宮ハルヒ’が気に入ってたものは、あたしも欲しくなるに決まってるじゃない」 物扱いかよ。俺は非売品だぞ。 「自分から言うんじゃ、‘涼宮ハルヒ’らしくないからね。だからあんたから言うように、状況を作ったの!」 わざわざご苦労なこった。だから哲学書十冊も読ませようとしたのか。 「放課後あたしみたいな子と二人きり。あとはあたしが願ってさえいればすぐに告白してくるだろうと思ったの」 でもしなかった、と。 「そうよ。あんたがチキンだから告白をしてこなかったわ。まだまだムードが足りないからかしらとその時は思うことにしといたわ」 悪かったなチキンで。 「だから、あたしはあたしとキョンの間に噂が広がればいいのにと願ったの。そしたらキョンもその気になるかなってね」 ‥‥‥残念だったな、俺がチキンの上に超がつくような人間で。 「そうよ! それでもあんたはあたしに告白しなかった。さすがに少しは意識してたみたいだけど」 フフン、と得意気に笑う偽ハルヒの顔を見ていると、俺が抱えているハルヒが偽物であそこで立ってる偽ハルヒが本物に思えてくる。姿が似てるってのも厄介だな。 「あともう一押しって感じだった。だから、あたしは古泉君達に賭けたの」 「それは長門や朝比奈さんを含めてという意味か?」 「そうよ。あんたがあたしに告白せざるをえない状況をあの三人なら作れると思ったの」 『真相が違ったのです』 ‥‥‥‥。 なるほどね。 「だがお前の考えも当てが外れたな。朝比奈さんは途中で気づいたぞ。お前が能力を使えるようになったことをな」 「みくるちゃんがあんたに手紙を渡したのを見た時、まさかとは思ったわ」 見てたのかお前。 「あんたとみくるちゃんが話してた内容まで聞いたわ。みくるちゃんがそのことに気づいちゃうとは思わなかったけれど、それをキョンに話そうとまでするなんてね‥‥‥ひたすら祈ったわ。誰かが邪魔するようにって」 「誰かって、誰‥‥‥」 ‥‥! 谷口か。 「あたしが作り出した‘谷口’だけどね。あんたとみくるちゃんの会話を邪魔するためだけに生まれた」 ‥‥‥こいつの話で大体の真相が見えてきた。つまりこいつは色々なことに能力を使いまくってたというわけか。 見事に遮ることに成功した偽ハルヒは、これ以上邪魔が出ない内に強行手段に出た。それが今日の放課後だ。俺が偽ハルヒに告白までしそうになったことは全て偽ハルヒの計算通りであり、まんまと俺は餌に釣られて釣針を口に含んでしまった魚よろしく、事を進めてしまった。俺が偽ハルヒの肩を掴み、耳を真っ赤にしながら口を開いた瞬間、偽ハルヒを勝利を確信したのだろう。俺は見ず知らずの相手に愛を伝えてしまうところだった。そう、あと少し、ゼロコンマ2秒遅かったら。遅かったらって何が? それはわかるだろう? 「長門に感謝しなくちゃな‥‥‥」 今度集まりで奢る時は、食べきれないほどのパフェを奢ってやるよ。おかわり自由だ。 「本当に‥‥本当にあと少しだった。でもあの宇宙人が邪魔をした」 「長門はSOS団の影のトップなんだよ。途中でお前が別人だと気づいたんだろう」 これまで多くのことで長門に助けられてきた。それなのにあいつは、不平不満言わずにちゃーんと見守っていてくれていたんだ。夏休みの時なんざ、人間ならとっくに死んでてもおかしくないくらいの年月を過ごしてきたんだぜ。 「でもそんなあんたたちの唯一の頼りである有希には制限をかけておいたわ。あたしに害のある行動は行わないようにね。だからこの状況は、もうどうにもならないわよ!!!」 再び耳をつんざくような破壊音が鳴り響き、校舎が振動で震えた。無意識にもハルヒに覆い被さり守ろうとしたのは、男としての性ってやつか? 「ウフフ、キョン。ゲームオーバーよ」 そうニヤリと笑いながら口にし、こちらに歩み寄ってくる。来るなよ。 「あんたがどうやってあたしだけの世界に来たかは知らないけど、あんたにこうして全部話したのも、結果が決まってるからよ」 「一つ聞きたい。この空間はお前が意図的に起こしたものか?」 麻酔銃をこちらに向け、ニコニコという笑みに変えた後 「そうよ」 とだけ偽ハルヒが言った。そんなことまで出来るとはね。 「‘涼宮ハルヒ’の内側にいた頃、自分の中に流れ込んでくるパワーを爆発させてみたくなったのよ。そしたらこんな面白い空間が出来ていたなんてね。古泉君はその処理担当かしら? 日に日にやつれていくのを見てて、とっても面白かった」 姿形はハルヒでも、やはりお前は根本からハルヒと異なるな。カマドウマ以下だ。 「そんな口、聞いていいのかしら?」 「‥‥‥‥っ」 偽ハルヒは俺の眉間に麻酔銃を向け、引き金に指をかけていた。麻酔銃なのだから死ぬことはないだろうが、それでもやはり怖いという感情は隠せない。やばい、冷や汗出てきた。 「キョンなんて、何も出来ない無力な人間じゃない。どう? いっそのこと、あたしと同じような能力を持って一緒にここの空間で生きていく? 半分は上げるわよ」 まるで魔王みたいな取引をしてきやがった。なんだっけ。昔したゲームでは、確かここで『はい』の選択肢を選ぶとゲームオーバーになるんだっけか。 「もし、俺がうなずいたならどうする?」 虚を突かれた表情に一瞬変わったが、すぐに聖母マリアのような微笑みに戻し、 「あんたとなら、二人で生きていくのも悪くないわね」 とだけ言った。 お前、今もの凄く恥ずかしいセリフ吐いたんだぞ。そのこと分かってるのか。 しかし偽ハルヒは恥ずかしがる様子をちっとも見せず、相変わらず麻酔銃を向けたままだった。 「本当に、うなずいたら俺のことを助けてくれるんだな?」 「ちゃんと肯定したらの話よ?」 そうかい。助けてくれるんだな。 本物のハルヒを静かに床に寝かせた後、言ってやった。 「だが断る」 思いっきり偽ハルヒの右手を叩きつけ、麻酔銃を弾け飛ばした。偽ハルヒが不意を突かれている内に、西部劇のワンシーンのように掃除箱の側に落ちた麻酔銃をすぐに拾い上げる。俺が銃口を向ければ、はたかれた右手を見つめる偽ハルヒがそこにいた。なんだこれ。半端ない罪悪感がこみ上げてくる。 「‥‥‥‥悪いな」 本当にそう思ってるから言葉にした。 「だが、俺はまだ本当の世界に未練があるんだ」 「‥‥‥‥‥」 偽ハルヒはただただ右手だけを見ていた。俺が叩いたその手の甲は赤くなっている。 「‥‥‥‥お前に恨みはない。だが、ハルヒのためにもここで眠ってもらう」 俺が引き金を引こうとした時だ。偽ハルヒはボソボソと何か言った。 「‥‥‥‥‥‥」 「え、なん‥‥‥」 俺が言い終わらない内に偽ハルヒはこちらに飛び込み、あろうことか今度は俺の右手を思いっきり蹴飛ばした。よくそんなに足が上がるな、と感心する前に鋭い痛みが右手に走る。 「いっ‥‥‥!!」 たい、という前にまたもや高速で蹴りが腹に入れられる。言葉より先に嗚咽が出た。 「あぐぁっ!!!」 スレンダーな足のくせして破壊力満点の蹴りだ。サッカー選手だってもう少し躊躇するぞ。 俺は偽ハルヒにキックで吹っ飛ばされ、壁に背中を強打した。またその反動でひざを床につけてしまい、腹を抱えながら恐る恐る上を見上げれば、無情にも俺を見下ろす偽ハルヒがそこにはいた。視線の先が俺から、横たわっている本物ハルヒへと移る。 「そんなにこっちの‘ハルヒ’が大事かしら?」 いかん。矛先がハルヒの方に向いている。 おそらく注意をこちらに向けないと、この偽ハルヒはハルヒに攻撃するだろう。女の子を攻撃するなんて男のすることするじゃねえ! っ叫ぼうとしたが、困ったね、こいつ女だった。 というより論点はそこじゃない。こいつがハルヒに攻撃して、本物が起きちまったらどう説明しても後々とりつかない事態になることは明確だ。なんとかしなければ。 「‥‥ふ、はは。なんだよ今の蹴り。それがお前のマックスか?」 腹を猛烈に庇っている男の吐くセリフじゃないな。 「何よ、キョン。もっと蹴られたいのかしら? マゾ?」 でもこっちの偽ハルヒも単純で良かった。 俺はずりずりと壁伝いになんとか立ち上がり、一方で腹を押さえながらもう一方の片手は偽ハルヒへと差し出した。 「‘本物’のハルヒならこんなもんじゃないぞ。一度だけ思いっきり蹴られたことがあるが、あの時はホント、この世に医者がいなかったら死んでたかもしれん痛みだった。にしてお前の蹴りはどうだ。不慣れな格好で蹴ったにしては威力は高かったが、‘本物’なら同じ格好で俺をまた瀕死状態まで追い込むぞ。背丈姿形性格一致で黄色いカチューシャと腕章つければ‘本物’のハルヒになったつもりか? だとしたらお笑いだぜ」 もちろんデタラメだ。だがそこまで言ったところで、偽ハルヒが強烈な回し蹴りを繰り出して、俺はなんとか右手でガードした。相変わらず超ド級クラスの痛みが右手から体全体へと響き渡り、音だけ聞いていれば折れたかもしれんと思えるようなものだった。蹴りの達人かお前は。 「ぐぅっ!!」 「‥‥‥‥どうかしら?」 どうって何がだよ。気持ちいいです、って言えばいいのか? 悪いが言えない。マジで痛い。 だがやめてくださいとは言えん。俺が実はマゾで、本当は気持ちいいのを体験しているからではない。 「‥‥‥むちゃくちゃ痛いさ。でも所詮はそんなもん。痛い程度だ。入院までしない」 逆に蹴りで入院した奴を見てみたい気もするが。 「‥‥‥‘涼宮ハルヒ’はあんたに随分手荒だったようね。日記にも書いてないというのは反省の色も見られないわ。なんでそこまでして‘涼宮ハルヒ’を守るの?」 守る、か。嘘がバレてるなこりゃ。じゃなきゃこんな言葉出ねーよ。そりゃバレるだろう。うん。一応こいつも偽ハルヒだしな。 「‥‥‥お前の知らない世界での話さ。日記にも綴られていないとある空間の出来事で、俺はハルヒと共にそこを脱出した。その時気づいたのさ。出会って二ヶ月だったがな、人間いつどこでそんな感情が芽生えるか分からん。たまたま俺はそれが早かっただけさ」 ハルヒが起きてないことをひたすら祈る。 「その脱出以来、決めた。例えどんなことがあっても、それこそ重傷ものの蹴りを喰らっても、ハルヒと共にまたここに来た時には、絶対に二人で元の世界に戻るってな」 「‥‥‥‥‥」 神人の青光が強くなってきている。とうとう校舎全破壊する気か? だが、その前に。 「‥‥返せよ」 俺は精一杯怒気を効かせて、偽ハルヒに言ってやった。 「その腕章は、」 蹴りを喰らっていない左手を偽ハルヒへと差し出す。 「ハルヒのものだ」 偽ハルヒは右腕にはめてある腕章を見つめた後、不意にニヤッと笑った。 「まだ分からないの?」 顔に集中している間に右足に痛みが走る。ローキックがかまされていた。 痛みに耐えかねて俺は床へと倒れ、ひたすら歯を食いしばりながら右足に手をやった。そして偽ハルヒはゆっくりと上履きのつま先を俺の顎へとくっつけ、蹴ろうと思えば蹴れるのよと言ったような顔をした。 「あたしが本物の涼宮ハルヒよ」 顎にあった足を引き、まるで顎下にサッカーボールがあるかのように思いっきり蹴りを俺に喰らわせようとする。さすがにこれ受けたら脳震盪を起こすに違いない。北高初の蹴りで入院した高校生第一号になってしまう! 偽ハルヒの足が消えるような速さでこちらに向かってきた時、俺は現実逃避するがごとく目を閉じた。 痛みを覚悟した瞬間、また何かが壊れる音を聞いた。とうとう俺の顎が砕けたか? だがそんなことはなかった。物理的破壊の音は確かに聞こえたが、それでも俺に痛みはなかった。何がどうなってるのか。まぶたが暗闇しか写さないので、おそるおそる開けてみると‥‥‥‥ 「‥‥また邪魔するのね」 「‥‥‥‥‥」 いつぞやの光景がフラッシュバックする。あの時もそう。もう駄目だ、と思った時に突然俺の前に現れた。そして必死に守ってくれた。そんな彼女はSOS団の最後の切り札と言ってもいい。 長門は偽ハルヒのつま先を片手で受け止めていた。 「‥‥‥‥‥‥」 ふと隣を見れば壁に穴が開いている。隣のコンピ研の部屋から力ずくで入ってきたらしい。しかしよくここに渡ってこれたな。コンピ研の部屋はもう床も天井もないんだぜ。 「あんたはあたしに攻撃にできないはずよ」 「攻撃は許可が下りていない。しかし彼を守る許可は取り消されていない」 偽ハルヒの足の筋肉はどうなっているのか、ひとっ飛びし一瞬にして団長机前まで下がる。あいつ本当は朝倉の親戚かなんかじゃないのか。 「涼宮ハルヒを連れて遠くへ」 「いや、しかし、」 「大丈夫」 大丈夫、か。今日で二度目だなその言葉。 長門の登場と言葉に安堵する刹那、文芸部の天井が砕け散り、瓦礫が俺たちを襲った。 「あぶねっ!」 我が身を横たわっているハルヒの上に被せ、瓦礫による痛みを覚悟する。‥‥、二秒経過。痛くない。 「早く‥‥」 長門がバリアみたいなものを作り上げ、瓦礫から俺たちの身を守っていた。何から何まですまない。 「やるわね有希。じゃあこれはどうかしら」 「‥‥‥‥」 偽ハルヒがまた何かする気だ。これ以上俺たちがいれば長門に今以上の負担をかけることになる。ハルヒを抱き上げて俺はドアノブを握った。よもや映画以外でハルヒをお姫様だっこすることになるとはな‥‥‥。 「‥‥‥って、」 ガチャガチャとドアノブを捻りながら押したり引いたりを試みる。だがドアはまるで意志を持ったかのように開かない。どういうことだよ‥‥カギはかかってないぞ! 「‥‥‥‥!」 人間には聞き取れない速さの言葉で長門が何かを呟くのが聞こえた。嫌な予感しかしない。 「吹っ飛びなさい!」 長門の半球の形をしているバリアがなければ死んでいた。それぐらい強烈な死が空から降ってきたのだ。 荒々しい轟音を鳴り響かせコンピ研を完膚なきまでに粉砕した、見覚えのある拳が今まさに俺たちを叩きつけようとしていたのだ。障壁がなんとかそれを喰い止め、俺たち三人は事なきを得た。しかしバリアを通じて伝わる衝撃は並々ならぬもので、それは長門の膝がガクンと一段階下がるほどのものでもあった。 「早く‥‥‥‥」 無機質な声なんだが、俺にはわかる。かなり切迫詰まっている長門の声だ。神人のパンチは朝倉の比ではないらしい。 急がなければ。しかしドアは相変わらずボンドを隙間に流し込んだみたいには開かなかった。 舌打ちをしながら一度思い切り蹴ってみる。音だけは威勢がいいが、破れる気配が全くない。 神人は圧力をかけ続けており、またさらに長門の膝がガクンと下がった。それに順じてバリアも小さくなる。長門は何も言わなかったが、相当やばそうだ。なんとかここを突破しなければ長門がもたない。だがドアが以前として開く様子がゼロだ。 焦りだけが心内で広がっていく。 「くそ‥‥‥開けよ!!」 中段蹴りを何度も何度も喰らわせるが、それがどうしたと言わんばかりにドアは立ちふさがる。長門の膝がとうとう床についた。 「キョンったら、無様ね」 偽ハルヒの余裕綽々な声が聞こえた。今どんな格好しているかは分からないが、おそらく団長机の上に座って事の成り行きでもせせら笑いながら傍観しているんだろう。悪趣味め。 「‥‥‥‥‥っ」 まさか長門が来てからよりピンチになろうだなんて誰が思った? 誰も思いやしなかったさ。少なくとも俺は、長門がやられかけてるとこなんて信じられなかったからな。タイマンなら絶対に負けないだろう。だが俺たちを守りながらほとんどの技術が規制されれば話が別だ。条件は長門側がずっと悪くなる。 それでも長門は何とかしようとしている。俺は‥‥俺は、無力だ。‥‥‥ ‥‥ ‥‥‥嘆いている暇はない。ドアが無理なら一つだけ方法がある。バリアを抜け、長門がぶち破ってきた穴から出るのだ。出ても一階の床に落ちるだけだ。ちゃんと足からつけば死なないだろう。 覚悟を決め、ハルヒを抱えたままバリアの外へと飛び出そうとした。 バリアを抜けたまさにその時だ。意固地に開かなかったそのドアが爆発音と吹き飛ばされた。一体なんだと戸惑っている内に、小さな赤い球体が長門の首横を電光石火のスピードで通り偽ハルヒへと飛んでいく。偽ハルヒはそれを目を見張るような瞬発力で避け、床へと突っ伏した。やっぱり団長机に座ってたか。 「こっちです!」 グワシャーンと窓ガラスを盛大に粉々にする音が聞こえたが、それでも奴の声は聞こえた。ナイスタイミングだな。 バリアをくぐり抜けてドアへと走り寄る。案の定そこにはSOS団副団長こと、超能力者古泉がいた。 「朝比奈みくるから事情を聞きました。急いで逃げてください」 「朝比奈さんからだと?」 「詳しい話は彼女から。‥‥長門さん!」 古泉は長門そばまで詰め寄り、対神人に躍り出た。赤い球体を何個か神人の拳にぶつけ、ダメージを与える。宇宙人のバリアにはびくともしなかった神人の手は、まるで腫れ物に触ったかのように手を引っ込めていった。やっぱり古泉の能力は閉鎖空間内では強いんだな。 「キョン君、こっちです!」 ドアの向こう側に朝比奈さんが待機していた。俺は長門と古泉を後にして、ようやく廊下へと出た。 「ハルヒのことを?」 「はい。長門さんが、情報規制が一部緩和されたと言われて話を聞きました」 緩和ね‥‥。偽ハルヒが俺に正体を打ち明けたからか? 「キョン君、行きましょう」 ボロボロに崩れてきている校舎の中を、俺はハルヒを抱えて朝比奈さんの後についていった。 ハルヒがいくら軽いと言っても、お米十キログラム四個分くらいはあるだろう。おまけに体のあちこちが偽ハルヒのせいで痛む。そんなだから、俺は朝比奈さんの同じペースで逃げることが出来るというものだ。むしろ朝比奈さんより遅い。 だがハルヒを出来る限りあの偽ハルヒから遠ざけなければ。もはや朝倉同様、こちらを殺す気にかかってきているのだ。そんな奴のそばにハルヒを置いておけるか。 「キョン君、こっちです」 いたるところが崩れボロボロの校舎の中で朝比奈さんの柔らかいボイスは見事なまでに対になっていた。ちょこちょこと道を先回りして朝比奈さんはナビゲートをしてくれる。何を根拠に道を選んでいるのかは不明だが、とりあえず偽ハルヒからは離れているだろう。それでいい。 「ハルヒを安全な場所に置いた後、俺はもう一度あいつのところへ戻ります。朝比奈さんはハルヒと一緒に‥‥‥」 「ダメです! ケガがひどいんですから、無理をしちゃいけません」 無理というより無謀に近い。行ったところで何の役にも立たないだろう。というより邪魔だろうな。 だがもう一度だけあのハルヒの方に合わなきゃならない気がした。長門と古泉相手に、あの偽ハルヒが大人しく座談会開いて平和解決しようなんて言うとは思えないのだ。 どうにかこうにか、俺と朝比奈さんは東館の端っこまでやってこれた。とりあえず一安心だ。ここならば偽ハルヒも何も出来ない。 「では、朝比奈さん‥‥」 「‥‥‥‥‥」 朝比奈さんは目をショボショボさせてうつむいた。そんな顔されたら行きたくなくなる。ここらで一言 「必ず戻ってきます」 と言うのもいいんだが、なにやらそれが良くない方向へと事を運びそうなので控えておいた。 「無理しちゃ‥‥駄目ですからね」 俺は黙ってうなずき、身体に鞭打って部屋を出た。もう一頑張りしなきゃな。 ‥‥‥‥しかし部屋を出た直後、急遽朝比奈さんの下へ身を翻した。お別れのキスを忘れてたよ、とかそんな御伽噺チックじゃない。窓から差し込む光に、嫌と言うほど見覚えがあるからだ。 「あれ、キョン君‥‥‥?」 「部屋を出てください!!」 ハルヒの両脇を乱暴に掴み、ズルズルと引き摺るようにして部屋の外へと運ぶ。朝比奈さんも続いて部屋を出て、窓の外と俺の態度を見てようやく事態を理解したらしい。池に落とされる時の朝比奈さんでさえ、こんな青ざめた顔色してなかったぞ。色的な意味で。 グワシャッ、と3階と粉砕される音が耳に届いた。まずいまずいまずい。 朝比奈さんは 「きゃああああああ」 といかにもお化け屋敷を駆け巡る少女のような悲鳴を上げ走って行ったが、俺はハルヒを運ばなければならない。もう腕の上に任せる時間はない。悪いがこのまま引き摺るぞ。 一階の天井にとうとうヒビが行き渡り、そして瓦礫の山と共に神人の手の平が降ってきた。懸命に引き摺ったおかげか神人の手とは距離のある位置には俺たちは来ることが出来ていた。だが一度どこか崩れると、連鎖反応のように崩れてしまう天井の破片が俺たちを襲ってくる。ひたすらハルヒに当たらないことを祈りながら全力で逃げる。 なんとか逃げ切り瓦礫の山の一部とならずに済んだ俺は、ハルヒを抱え上げ次はどこに行こうかと思惑した。まさか神人がもう一体出てくるとはな。西館に逃げるのが良いのだが、しかしそれではあっちの方の神人に‥‥。 「キョン君っ!!」 先に行ってしまわれていた朝比奈さんが小走りでこちらで戻ってきていた。無事で良かった。 だが朝比奈さんの背後を見る限り、無事とはほど通そうな状況になっていることに俺は気づいてしまった。 なんと、瓦礫が崩れこちらにまで被害を及ぼそうとしているではないか。ハルヒを抱えて、ちょうど今俺のいる位置と朝比奈さんのいる位置の中間地点にある階段の方へ走り、朝比奈さんにもこちらへ来るよう呼びかけた。岩なだれのように降ってくる天井を見ながら早く早くと俺は心の中で朝比奈さんを急かした。遅いなりにも―――あれが朝比奈さんの全速なんだろう―――ギリギリのとこで角を曲がり切ることに成功し、三者ともなんとか今は無事だということが確認出来た。階段だってもうほとんど瓦礫に成り代わっていたおかげで足元が不安定極まりないのだが、ここにいればひとまず瓦礫に怯えなくても済むというのがありがたい。上を見上げれば見えるは夜空のムコウ。 「‥‥う、運動場に‥‥‥」 もうどこにいようと危険地帯だと思いますよ。 「そ‥ぅ、ですよね‥‥‥」 息は荒いし涙は出るしで、おそらく未来にいた頃よりもよっぽど恐ろしい体験をしているのだろう。周りを見れば神人だらけだしな。 「‥‥‥あのハルヒの方へ戻りましょう」 「でも‥‥‥」 その先の言葉が朝比奈さんの口からは出なかった。俺が同じ立場でも出ない。 こうなったらもう偽ハルヒを羽交い締めしてでも動きを拘束して、偽ハルヒから能力を取り返すしかない。二人より三人。三人より四人だ。 神人に気づかれないよう‥‥‥というよりあいつら目が無いのだが、俺たちの位置分かって攻撃しているのか‥‥‥? まあさておき、再び旧館に戻ることにした。長門と古泉の二人が相手ならば、いくら反則みたいな能力でも多少は苦戦を強いられるだろう。というよりやられておいてくれないと困る。 瓦礫の道はやはり進みにくく、俺はハルヒをおんぶに変更し先を行き始めたのだが、‥‥‥やめときゃ良かった。背負ってから後悔したものだ。集中出来ん。 神人はと言えば東館の校舎をミニチュアハウスをいじる三歳児のごとく乱暴に壊しており、しばらくはこちらに来る様子がない。それはいいことだ。俺たちは無事に旧館へと着いた。 長門達はおそらく二階にいるはずだ。だからハルヒは文芸部の部室真下の部屋に置いておこう。俺としても、これ以上背負っていると罪悪感が膨れ上がりそうだったしな。 「朝比奈さんはここにいてもらえますか?」 「‥‥‥はい」 不安そうな返事をした。ただでさえ落ち着かない心境なのに、ハルヒのことを守らなければならない立場となってしまったからな。俺としても本当は二人で行きたい。しかしハルヒをここに置いてきぼりとなると‥‥‥‥にしても、さっきまで耳をつんざくような音を体験したせいか、こちらがえらい静かに思える。荒々しい戦闘を繰り広げているのではないのか? 背中に冷たいものを感じた。これは何か始まる予兆にしか思えない。 俺は朝比奈さんに背を向け、開けっ放しにしておいたドアへと進んでいった。がすぐに足を止めた。 さっきは行く途中で取り止めとなったが、今度は行く前に取り止めとなった。何故かって? ご丁寧にもあちらから来てくれたからな。 ドアがひとりでに閉まったかと思えば、誰かが暗闇の中からこちらに歩いてくる。長門なら忍者のように音もなく歩くはずだし、古泉ならばまず声をかけてくるだろう。となれば一人しかいない。 「お前か」 背後の窓からまた盛大に青い閃光が広がり、そいつの姿を映し出した。やっぱりね。 「長門や古泉をどうした」 「さあ? 帰ったんじゃない?」 まるで放課後の会話みたいな口調で偽ハルヒは答えた。朝比奈さんは 「あわわわわわ」 と小声だが、驚いているようだった。偽ハルヒとしてこのハルヒを見るのは初めてのようだ。 「有希が言ってたわ。そっちの涼宮ハルヒがいれば、あたしから能力を奪ってこの閉鎖空間を消すことが出来るって」 「そうかい。そりゃ良かった」 でも偽ハルヒから能力を取って本物のハルヒにかえすなんてこと、長門以外出来ないぞ。そもそも長門もそんなこと出来るのかどうか知らないんだが、今は信じるしかない。でもハルヒの能力を一時的にしろ場所移動が出来るということは、長門ならその力を応用して自分の思い通りに世界を造り変え‥‥‥何を馬鹿なこと言ってんだ。長門がそんなことするわけないだろ。 ともかく、長門達が来るまで時間稼ぎをしなければ。神人をそばで待機させているだけなのを見ると、すぐに攻撃をしてくるなんてのはなさそうだ。 ハルヒとその傍に寄り添っている朝比奈さんを庇うように、一歩前に進み出る。ということは偽ハルヒに少し近づいたことになるのだが、そのハルヒにはこっちのハルヒみたいに服に汚れやほこりが被さっているなんてことはなく、本当に長門と古泉を相手にしていたのか疑問せざるをえないほどいつも通りのハルヒの格好だった。髪に手を絡め、なびかせるように手を払う。ああ、ハルヒもよくそんな仕草してたな。 「‥‥‥あんた達に希望はないわよ」 そして第一声にこれだ。そんなのまだ分からないだろ。 「分かるわよ。あと数分もすれば、完全に世界は入れ替わる。こっちが本物になってあっちが偽物になるのよ。そしたら神人はこちらから消え、あちらの世界で破壊し尽くすからよ。古泉君も能力を失うし、有希もあたしを見守ることになるわ」 「どうしてこっちの世界にこだわる。お前は本当の世界を壊して、それで何になるっていうんだ。これ以上思い通りになる世界が欲しいっていうのかよ」 「‥‥‥‥」 買ってもらったばかりのおもちゃを壊されてしまったかのような顔をした後、偽ハルヒはボソッと、朝比奈さんまでには届かない声量で何かを言った。 「‥‥本物がいいの」 「‥‥‥‥」 そんな切なげに言われたら、どう返せばいいんだ。というよりもお前、自分で「本物」を連呼してたじゃねーか。 「あたしは本物だったわ。あんたに正体がばれる前まではね」 「‥‥‥俺が否定したからか?」 「そうよ」 そうなのかよ。 「だからあたしは本物となる。現実と閉鎖空間が入れ替われば、あたしが確実な本物となるはずよ。‘涼宮ハルヒ’はあたしとなって、’涼宮ハルヒ`が涼宮ハルヒとなるの」 「ワケ分からないこと言うな。ハルヒはハルヒでお前はお前だ。違うか?」 「違うわ。キョンは何も分かってないわよ」 さっぱり理解出来ない俺をよそに、朝比奈さんの方は 「涼宮さん‥‥」 とポツリと呟いていた。何が何だか‥‥‥。 「どっちにしろ、もう時間がない。お前にはハルヒに能力を返してもらうぞ」 「‥‥‥フン。キョンに何が出来るって言うのよ。有希がいなくちゃ何も出来ないじゃない。頼りきりのあんたがあたしに勝てるの?」 ‥‥‥‥。 「ほら、反論出来ないでしょ? 大人しくあたし側についたら?」 偽ハルヒの言うとおり、俺は反論出来なかった。長門がいなければ朝倉にナイフでメッタ刺しに殺されていただろう。古泉がいなければ閉鎖空間なんぞ知らないで焦りまくった挙げ句神人に踏み潰されてたかもしれん。朝比奈さんがいなければ、ハルヒの能力が目覚めるきっかけとなったあの時代までワープすることも出来ず、今居るSOS団の面子とも顔を合わせることすらなかったに違いない。三者三様、俺に協力をしてくれていたのだ。長門のおかげで面白い小説が読める。古泉のおかげで心置きなくゲームに勝つことが出来る。朝比奈さんのおかげでお茶の旨さを知った。 他の皆が俺を支援している理由なんて探せば山ほどある。どの一部がかけても俺は一人で道を進めないだろう。破天荒な団長にツッコミが出来ないというもんだ。 お前の言うとおり、俺はたいした能力を持たない無力な弱っちい人間だよ。 ‥‥‥でも俺は無敵だ。 窓ガラスが割れる音がして、二人分の着地音が聞こえた。朝比奈さんは「ひっ」と驚いたようだが、俺は振り向かずとも誰かは分かっていたから特段びびることもなかった。ゲームが弱い超能力者と万能宇宙人以外誰がいる? 「解析に時間がかかった」 長門の無機質な声が淡々とそう告げた。振り向いてやると二人とも埃まみれだ。切り傷や刺し傷がなさそうで良かったぜ。 「何が無敵よ」 偽ハルヒが嘲笑交えてそう言った。 「結局誰かの頼りになるんじゃない」 「そうだよ」 おくびれもせず開きなおる。俺もタチが悪くなったもんだ。 「俺には残念だが、宇宙人と互角に渡り合うほどの力はない。巨人と戦うダビデのような勇気も、タイムトラベル出来るほどの知恵もない。だがどうだ。そんな何も持たない俺の周りに、そんなすげー奴らが集まってるんだぜ。一人いりゃ充分なくらいなのに、三人揃っているんだぞ? そんな皆に支えられて、そして何よりも、」 一呼吸おき、目を閉じて寝そべっているハルヒの方を見る。 「ハルヒまでいるんだ。これが無敵とは言えずにいられるか?」 言えないだろう? 「‥‥‥なによ、皆そっちの涼宮ハルヒばかり気にして‥‥‥」 頼んでおいた仕事に失敗した部下を怒鳴りつける前のような上司ばりの不愉快さを露わにして、偽ハルヒは叫んだ。 「一体そっちの何がいいのよ!」 「有希、あんたにとって観察対象は涼宮ハルヒではなく、進化の可能性を秘めている能力を持った者じゃないの? 古泉君。神と崇める対象は一般の女子高生ではなく、世界を創造する能力を持ったものでしょ? みくるちゃん。時空のズレを発生させたそもそもの原因は、涼宮ハルヒの持つ情報爆発の能力じゃないの?」 三人とも押し黙り、何も答えれずにいた。宇宙人の派や機関、未来人の組織の中には、こっちの涼宮ハルヒを観察対象とするよう言っている奴もいるかもしれない。 「そっちのハルヒは忘れて、あたしの世界に来なさいよ。何もかも望み通りにしてあげる。有希が望むなら人間に、古泉君が望むなら超能力を消してもいいわ。みくるちゃんも、この時代に留まらせてあげる。だからあたしの世界に来なさい」 ‥‥三人は相変わらず沈黙をし、ただただ偽ハルヒを見つめていた。そりゃそうだ。あっち側に行く奴がいたら殴ってたところだ。 「何でよ‥‥‥」 歯車が歪み、思い通りに動かないおもちゃにイラつく子供のように叫んだ。 「どうしてなのよ!」 崩れ散る校舎でさえ響く偽ハルヒの声。外にいる神人も段々と透明になり始めてきていた。 ‥‥‥どうして、か。 そりゃな、お前。勘違いしてるぜ。 長門も古泉も朝比奈さんも、宇宙人、超能力者、未来人であってのSOS団じゃない。SOS団内の宇宙人、超能力者、未来人なんだ。そこの順序が大事なんだよ。 「そっちのハルヒにはもう何も残ってないじゃない‥‥‥」 偽ハルヒの目は、少しだけだが潤んでいた。 「どうしてあんた達は、そのハルヒを守るのよ!?」 ‥‥‥‥‥‥、いつだってそうだ。 ハルヒが何か思いつけば、誰もがそれに従ってしまう。古泉はただニコニコと笑ってるだけだし、長門は本を読んで我関せずだ。朝比奈さんはオロオロして、賛成が二で棄権が二だ。ここで誰が何と言おうとハルヒの催しは通ってしまい、いらぬ苦労を俺たちが抱え込んでしまう。そんな未来が待っているのを分かっていながらも、このまま好き勝手させては今後ハルヒはもっとトンでもないことをしでかすかもしれない危険性があるので、一応反論しておくのだ。そう、主に俺が。 今もそうだ。偽物とはいえハルヒはハルヒ。そんなハルヒの言葉に反応出来るのは、この三人ではないのだ。だから、言ってやった。 「団長を守るのに、理由がいるか?」 ハルヒ。目を開けて、周りをよく見てみな。 お前があんなに会いたがっていた宇宙人と未来人、超能力者がお前のために集まってきてくれたぜ。どうしてか分かるか? みんなお前のことが好きだからだよ。 「‥‥‥ふ、フフフ‥‥‥キョンったら‥‥」 偽ハルヒは人を小馬鹿にするような笑い、そして天井を見上げた。真上はSOS団の部屋だ。 「あんた達がどうしてもそっちのハルヒにつくって言うのなら、もう構わないわ。でも世界が入れ変わるまで一分弱‥‥‥今更何しても無駄よ」 な、残り一分弱だと。もうそんだけしかないのかよ!? 偽ハルヒがこちらに背を向け、教室から出ていこうとする。逃すものか。 だが俺が追いかけようとした瞬間に、真上の天井が亀裂が入った。まさか、と思う寸前で誰かに襟首を捕まれ引っ張られた。尻からこけ、 「いってーな!」 と思わず条件反射で文句を言ってしまったが、崩れさる天井の騒音でその声はかき消された。襟首を引っぱったのは長門か。じゃあ理不尽な文句が聞こえてるなこりゃ。Ⅴ 安全だと思われていたSOS団の床はとうとう抜け、俺たちと偽ハルヒの間に瓦礫の山を作ってしまった。上では神人が完全に校舎を破壊しており、その瓦礫の破片も容赦なく降り注いでくる。どうすんだおい。 「古泉!」 古泉の赤い球に期待するしかない。あれで急いでこの瓦礫の山をぶっ飛ばし道を作らないと、時間が! 「ダメです‥‥!」 右手を見てみれば、ピンポン球のよあな小さな赤い球しか浮いていない。もっとでかいの作れないのか。 「能力が‥‥失われつつあります。こちらが現実に変わろうとしているんです!」 そんな‥‥じゃあマジでヤバいじゃないか。どうすんだよ!? そんな非力な三人をよそに、長門は瓦礫にかけより、なんと瓦礫の破片を一つずつどかし始めた。まるでマシュマロでも掴んでるように素早く脇へと捨てていくが、しかしいくら長門とはいえこのスピードでは遅すぎる。もう30秒もないはずだ。その間にここをくぐり抜けて偽ハルヒを捕まえ、能力をハルヒに返すなんて無茶だ。不可能としか言いようがない。 「‥‥‥‥‥‥」 ‥‥‥何、諦めてんだ俺。 ザクザクとモグラのように瓦礫の山を掘り進んでいく長門を見て、そう思った。俺たちが守らなきゃならない世界を、どうして俺たちがこうも簡単に諦めて、代わりに宇宙人が頑張って守ろうとしているんだ。本当に頑張らなきゃならないのは俺たちの方じゃないか。 ‥‥‥諦めるものか。まだ、時間がある。もしないとしても、そう、時間を作ればいいのだ。 「朝比奈さん!!」 ハルヒのそばで涙目でオロオロしている朝比奈さんのもとへ駆け寄った。長門が時間内に掘り進めることを今は信じるしかない。 「五分前です!!」 「え、あ、ちょっと待っ‥‥」 待てない。時間がないんだ。 朝比奈さんの右手首をギュッと握った。まずい。窓から見える神人の姿が消えようとしている。 「朝比奈さん!!」 「申請がと、通りました。キョン君、目を閉じてくださ――――」 言われる前に目を閉じた。そしてすぐさまジェットコースターに乗ったかのような重力無視の感覚が四方八方から襲う。耐えろ、俺。耐えるんだ。 ‥‥‥キョンなら分かってくれると思ってた。有希や古泉くん、みくるちゃんが分かってくれなくてもキョンだけは分かってくれると思っていた。何故? これは私自身が‘涼宮ハルヒ’だから? それとも、私は私という、‘涼宮ハルヒ’に見目姿似ただけの別個体だからかしら? 分からない。‥‥分からない。 分かるのはもう彼らにはなすすべがなく、あたしは創造し終わった世界をどうしていくかを考えなければならないということだけ。やることは膨大にあるわ。とりあえずはコンビニね。コンビニ創ってご飯買って腹ごしらえしないと。そしてそのあとに校舎の創り直し。こんな校舎じゃ皆びっくりするわ。あ、あっちの世界にいるみんなをこっちに創らなきゃ。そして違和感ないようにいつも通りの日常を過ごしていた記憶を創りあげないと。そして、そして‥‥‥‥。 ‥‥‥‥‥‥、 考えれば考えるほど空しくなってきた。あたしは何がしたかったの。どうしてあたしは生まれたの。あたしは‥‥私は‥‥‥ この世界で何を望むの‥‥? ‥‥‥何発式なのかは分からない。だが撃つチャンスは一度しかない。時間的にも、相手がハルヒということも含めてだ。だから俺は、教室の扉を偽ハルヒが閉めた瞬間、すぐさま目の前に踊り出た。 「っ‥‥‥キ、キョン!?」 『ためらわずに』 カチッと、引き金を引いた音がした。銃弾が出たわけでも、針が出たわけでもなかった。本当に出たかどうかさえも分からない。だが目の前のハルヒの様子を見る限り何かは当たったようだ。 「‥‥‥っ!」 おでこを抑え、扉にもたれかかり、どんどん力が抜けていくかのように膝が床についた。ガクリと左手の手のひらを床につき、苦しそうに俺を見上げた。ズキンと胸が痛くなる。 偽ハルヒは‥‥‥ハルヒは、泣いていた。 「‥‥‥悪いな、ハルヒ」 朝比奈さんは急いでもう一人のハルヒの方に近づき、うなだれるハルヒを揺さぶっていた。死にそうな目に合わされた相手だと言うのに、朝比奈さんは一緒に泣いていた。ハルヒはわずかに頬に涙が流れる程度だったが、朝比奈さんはわんわんと泣いている。ハルヒのこんな表情見てしまったら、もし一人だったなら俺だって朝比奈さんのように泣いていたかもしれない。目頭が熱い。 「‥‥‥やっと、」 最後の力を振り絞ったかのような声だった。ハルヒのまぶたはもう閉じようとされている。‥‥まるで、‥‥永遠の眠りにつくかのように。 「‥‥‥ハルヒって、呼んでくれた‥‥」 ‥‥‥物理的な力を失い、廊下に完全にハルヒは倒れた。麻酔銃の効果だ。眠ったらしい。 眠っただけなのだ。何も死んだわけじゃない。死んだんじゃないんだ。 ‥‥‥なのに。 こんなにも涙が出るのはなんでなんだ。 ハルヒと呼んでやっただけで、どうしてそんなに満足そうな顔出来るんだ。お前は‥‥これから、いなくなってしまうのに。 ハルヒ、どうしてお前は‥‥‥‥‥‥。 バンッと誰かが教室のドアを押し倒してくる。とっさにハルヒを引きずり、下敷きになるのだけは免れさせた。誰だ一体‥‥‥と、そんなことするのは、今この状況には一人しかいないか。 長門だ。 「涼宮ハルヒに能力を返す時間はない。したがって一度私が世界を改変する」 「ま、待て長門。急にそんなこ‥‥」 そんな俺の言葉を全く聞きもせず長門はハルヒに手をかざした。能力なんてそう簡単に取ったり取られたりするもんなのか? 俺がハルヒの持つ能力とやらをどういう形をしているのか確認しようとした途端、朝比奈さんの切迫詰まった声が聞こえた。 「強力な時空震がきます。キョン君、目を閉じて!」 ほんの少しだけでいい。あのハルヒが保持していたものが見たい。 だが長門の手の周りがぼんやりとした瞬間、とてもじゃないが目を開けてはいられなかった。頭がグラリグラリと重力を完全に無視し引っ張られ、鋭い痛みがあちこちに走る。気持ち悪くなってきた。頭を両手で押さえ、今自分がどんな体制でどこにいるのかさえも見当もつかないまま俺はひたすら歯を食いしばった。 まずい‥‥‥ 意識が‥‥ ‥‥‥‥。 『‥‥‥キョン』 →涼宮ハルヒの分身 エピローグへ
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「いやーすっかり遅くなっちゃったわね」 全くだ。現在時刻、午後9時半。部活にしては遅すぎるぜ。 朝比奈さんなんかさっきからあくびをかみ殺してばかりだ。ふぁあ。あくびうつった。 とりあえず、早く帰って休もうぜ。明日休みとは言え疲れをためるのは良くない。 「わかってるわよ!…キョン、古泉くん!」 何だ。 「何です?」 「女子をそれぞれの家に送りなさい!こんな時間に女の子が一人で歩いたら危険よ!」 あのなハルヒ、こんな時間になったのはお前が… 「わかりました。ここから一番近いのは長門さんの家ですね」 「じゃあみんなで有希の家へゴー!スパイダーマン♪スパイダーマン♪」 近所迷惑になるからスパイダーマンのテーマ(エアロスミス)歌うな。 「ぅう…暗いですね…」 すみません朝比奈さん、俺がついてますから…本当だったら真っ先にあなたを… 「…キョン」 何だよ… --------- 何となく喋りながら歩き、ほどなく長門のマンションに着いた。 まだ更に朝比奈さんの家・ハルヒの家へと行かなけりゃならん事を考えると少々気が滅入るがまぁ仕方ない。 じゃあな長門。また学校でな。 「………」 「どうしたの有希?」 マンションの門で立ち止まったままの長門に、ハルヒが問い掛ける。 確かに様子がおかしいな。どうしたんだ? 「…あそこ」 「…ぁあっ!ひぃい…」 長門の視線が指す先を俺が見る前に朝比奈さんの悲鳴が夜の住宅地に響いた。 おいおい…あれは… 「おやおや…これは」 おやおやって…お前な… 「キョ、キョン!何なのあれ!」 俺に聞くな!俺にはアレにしか見えんが… 「…有機生命体の言語で言うなら」 待て待て。俺は認めたくないんだ。何かの間違いだ。特撮だ。 「あれは幽霊」 ……はぁ… 「ふみゅう。。。」 崩れ落ちる朝比奈さんを古泉と支えながら、長門に尋ねる。 マジで言ってるのか?幽霊なんてホントにいるのかよ。 「いるじゃない実際に!あたしだってそりゃ100%信じてたわけじゃないけど、 幽霊なんていないって言うならアレは何よ!」 確かにハルヒが指差す先には、中学生くらいの女の子が… その…何だ。浮いてるんだ。宙に。 それに俺は長門に聞いてるんだ。なぁ長門、本当に幽霊なんか… 「…あなたは誰?」 …は?何故それを俺に向かって言うんだ?聞くならアッチだろ? 「あなたに聞きたい。答えて。」 …何か意図するところがあるみたいだな。 俺は俺だ。これでいいか長門。 「いい。次の質問」 ……… 「なぜあなたはあなただと言い切れる?」 ……解らん。 「降りてきなさーい!あんたに聞きたいことがあるのよ!」 向こうでハルヒが拳を振り上げ何やらきゃいきゃい騒いでいるがとりあえず無視する。 「…自意識という情報があるから」 「自分、という概念」 「その情報はとても大事」 「それが確立していないとヒトは自他の境界線を失う」 「だから自意識の情報には強固なセキュリティがかかっている」 「普通死後は全ての情報が破棄されるが自意識の情報はそのセキュリティのせいで残る事がある」 「それが幽霊」 要するに、自意識情報が魂みたいなもんで死後に残ってしまうといわゆる幽霊になるってわけか? 「そう」 なるほどな… 情報統合思念体なんてものの存在を知った今じゃ、 幽霊が完全削除するのを忘れてゴミ箱フォルダに残ったデータだ、 とかいう突拍子もない話の方が、もっともらしい心霊番組よりよほど信じられる。 「キョン!あんたさっきから人を無視して!」 …あぁ、すまん。 「あいつ捕まえるわよ!」 幽霊をどうやって捕まえるって言うんだ! 「頑張るのよ!」 「そうですよ。努力は時に天才を打ち負かすものです」 …古泉を本気で殺したいと思ったのは初めてだ。いや初めてか…?まぁいい。 あのなお前ら、 「あっ!消えた!」 なにっ? さっきまでヤツがいた所を見ると…確かに消えていた。 あぁ…俺の頭にわずかに残っていた特撮説も、一緒に消えちまった。 一般人よりもちょっとばかり超常現象に耐性がついてる俺は、 幽霊が消えた事に驚くよりもさっきから最高の笑みを崩さずこっちを見ているハルヒが、 次に言うだろうセリフを予測しうんざりしていた。 「探すわよ!」 ってな。…まぁいいが、 探しに行く前に、朝比奈さんを起こさないとダメだろ。 「そうね。みくるちゃん起きなさい。気絶なんかしてる場合じゃないわよ」 「う…ん…」 俺の腕の中でかわいらしい声を出す朝比奈さん。 自制しなければ…ってうわぁ! 「……」 いきなりがばっと立ち上がった朝比奈さんは、黙ったまま俺達に視線を向けた。 「みくるちゃん…?」 「これは少々厄介ですね…」 どういう事だ古泉。 「朝比奈みくるの自意識情報が一時的ブランク状態である事を利用して入り込んだ」 …えっとつまり… 「朝比奈さんが気絶しているスキに幽霊が憑りついたということです」 「みくるちゃんが憑りつかれた!?凄いわみくるちゃん! 日頃から巫女さん衣装とか着せてるから霊媒体質になってたのかも!」 …何でそんなに嬉しそうなんだ。 しかし、ハルヒがいくらつねったり胸をつついたりしても無反応な事を考えるとどうやらマジらしい… 「あなたたち」 朝比奈さん(霊)が突然口を開いた。 「あなたたち、私が怖くないの…?」 朝比奈さん(霊)は、朝比奈さんの声で俺達に問い掛けてくる。 不思議と恐怖感は全くない。奇妙なものに遭遇するのにも慣れてきたしな。 「全然大丈夫!ところで、あんた名前は?」 「…ちひろ」 「ちひろちゃんね!どうしてあたし達の前に出て来たの? あと、憑りつくってどんな感じ? そうそう、どうやったら幽霊になれるの?」 朝比奈さん(霊)、どうやらちひろというらしいが… ハルヒのヤツ…幽霊に質問攻めとは… 「好ましくない状態」 長門が呟く。 「一つのフォルダに二つ自意識情報が入っている」 「このまま朝比奈みくるの自意識情報がブランク状態から復帰したら」 「…重大な人格障害を起こす危険がありますね」 「…そう」 人格障害…?まずいじゃないか。何とかならないのか…? 「入り込んだ自意識情報を削除すればいい」 「しかし、セキュリティはどうするんです?」 「外部操作によってセキュリティを解除する」 「正確には自ら解除させるよう仕向ける」 わかったぞ。つまり俺達が幽霊ちひろの未練みたいなのを取り払ってやれば、 セキュリティは解除されるって事だな? 「飲み込みが早いですね。驚きましたよ」 「私も驚いている。 こうも容易に理解することは予測していなかった」 ただ幽霊モノの基本を言っただけなんだが…なんかムカつくな… 長門まで… 「おーいあんたたち!」 俺達をそっちのけで朝比奈さん(霊)となにやら話していたハルヒが、彼女の手をひいてくる。 「ちひろちゃん、生きてた時に付き合ってたひとと話したいんだって!」 またベタな展開だが…いいのか、長門。 「…」コク 正直こんな時間に見ず知らずの人を訪ねるのはどうかと思うが、 朝比奈さんの事を考えれば仕方ない…か。 で、場所は分かってるのか? 「大丈夫。あの人の事はいつも感じているから」 幽霊ならではの能力ってわけか。 「形のない情報として存在しているから自他の境界線はない」 ふむ。 「だから他人を自分として認知することもできる」 頭が痛くなってきた…とにかく行こう。 「こっちです…」 俺達は朝比奈さん(霊)…ちひろについて歩く。 どうやら彼女の恋人の家は例の公園の方向にあるらしかった。 5分ほど歩いたところでふと、ちひろが足を止める。 「………」 …ここか。 「ここね!じゃあちゃっちゃと済ませましょう」 待て! 何普通にチャイム鳴らそうとしてるんだ。 「だって出て来てくれないと話せないじゃない」 あのな…今何時だと… 「…あの…」 …! 「何かご用ですか…?」 …この人は…まさか? ちひろの方へ視線を向けると、彼女は泣きだしそうな表情で呟いた。 「道弘くん…」 やっぱりそうか… 俺達の後ろからやって来た、不審な顔で問いかけてきたサラリーマン風の男。 この人がちひろの探していた人物らしい。 「…どこかでお会いしましたっけ…?」 「あの…私…」 「わからないむぐっ!まいむんももっ!」 何やらわめこうとしたハルヒの口を抑え、古泉と長門に目で合図を送る。 俺達は邪魔者だ。空気を読もうじゃないか。 しばらく遠巻きに見る事にしようと、場を離れかけた時だ。 「何だかわからないけど、制服姿でこんな時間にうろついてたら捕まるよ? 早く家に帰りなさい」 事情を知る俺達にはとてつもなく非情に響く言葉を残し、彼は玄関に歩いて行ってしまった。 「…無理もないですね…彼は何も知らないわけですから」 「話くらい聞いてもいいと思わない!?ふざけてるわ! これじゃあせっかくちひろちゃんが…」 ガチャン… ドアの音がこんなに冷たいとは知らなかったぜ。 「顔が違うだけでわかんないの!? 死んじゃったら忘れるなんて酷い男だわ!信じられない!」 『パパ…か…りーっ』 「いいちひろちゃん、あんな奴の事忘れなさい! もっとマシな男がきっと…」 しっ!ちょっと静かにしろ!今… 『ただい…ちひ…』 …ちひろが息を飲むのがわかる。 いや、息を飲んだのは俺だったのかもしれない。 『ちひろねぇ、パパがかえってくるのまってたんだよ』 『ありがとう。でも夜更かしはダメだぞ』 「「あ…」」 ちひろとハルヒの声が重なる。 「みなさん、こっちを見てください」 古泉が芝居がかったポーズで指し示しているのは… 表札。 そこにはこうあった。 木下 道弘 早紀 千日旅 「これは、何と読めばいいんでしょうね」 「…ち…ひろ…私と同じ…字で」 「これは珍しいですね。きっと出生届を出すときも一悶着あったでしょう。 わざわざこんな字を当てるなんてよほど思うところがあったんでしょうね」 …ハルヒは、驚きと悲しみが混ざり合ったようなよく解らん表情で表札を凝視している。 かくん、と朝比奈さんの体が崩れ落ちる。何とか支えられたが、こりゃ… 「…長門さん」 「彼女の自意識情報は削除された」 …成仏したってことか? 「そう」 「じゃああなたは涼宮さんをお願いします」 再び長門をマンションに送った後、俺と古泉はそれぞれ二手に別れて二人を送ることにした。 あの後ハルヒが終始無言だった事を懸念してるらしい。 懸念だけじゃなく対処もしてほしいんだがな。 「………」 どうしたんだ。黙ってるなんてらしくないじゃないか。 「死んじゃった後の事考えてたの」 …ふむ。 「そしたら…怖くなって…」 あぁ。誰もが体験する感覚だ。自分が死んだらどうなるのか考えて、勝手に恐怖を感じる。 死んだらもう何も感じないし、何も感じない事も感じない。 feel nothingどころかdon t feel nothing の状態になるって事を考えると確かに怖い。 でもなハルヒ、今日した体験で死んでも自意識情報…魂は残る事もあるって解ったじゃないか。 お前ほど自意識の強い奴なら、絶対に幽霊になれると思うぜ。 「当たり前じゃない。幽霊になる方法もちひろちゃんに聞いたし、 死んだら絶対に幽霊になってやるって思ったわ」 …じゃあ何が怖いんだ? 俺は今日の体験で逆に死への恐怖感が減ったくらいだ。ほんの少しだが。 「ちひろちゃんは結局、道弘くんと話せなかった」 …そうだな。でも彼はちひろの事を忘れてなかったじゃないか。 「すれ違いなのよ」 …何がだ? 「例えるなら車道ね。すれ違う時、限りなく近づくんだけど 交わることはないの。だって正面衝突しちゃうでしょ?」 お前まで分かりづらい例えをするようになったか。 要はちひろは道弘さんと話したいし、道弘さんはちひろの事を忘れていないけれど---- 「もう一度二人が会うことはできないってこと…」 …そうか……… 「その事だけじゃないわ。 …そもそも道弘くんがちひろちゃんの事を死んでしまった後も覚えてて、 娘に同じ名前をつけたのって愛してたからよね」 そうだろうな。 「あたしが死んだ時、誰かが同じ事してくれるのかなって考えたら… また怖くなって。」 ハルヒ… 「…あたし死んだらあんたのとこに化けて出るわ」 ……… えーっとこの脈絡でそういうこと言われると…どう反応していいか… 「何よ。イヤなの?」 いや、そういうわけじゃないんだが… お前より先に俺が死んだらどうするんだ? 「あたしのとこに化けて出ればいいじゃない!」 そうする為には俺も幽霊になる方法を知らなければならないんだが… …何赤くなってんだ? 「…すごく、好きな人がいればいいんだって…! もうここまででいいわ!ありがとう!気をつけて帰りなさい!じゃね!」 …はぁ。 何と言うか… 死ぬ時は一緒に…なんて考えちまった俺が憎いぜ。 一緒に幽霊になっちまえば、同じ車線にいるわけだからな。 …疲れてんのかな。明日も休みだし、帰って寝よう。 To ハルヒ Sub 幽霊の件 Txt どっちかが先に死ぬって考えるから怖いんじゃねーか? 例えばお前が先に死んでも忘れられないとは思うが… まぁちょっとした思い付きだ。俺は寝る。 Fm ハルヒ Sub Re 幽霊の件 Txt バカな事言ってないで早く寝なさい!明日9時集合だからね! To ハルヒ Sub Re Re 幽霊の件 Txt 明日は何もなしじゃなかったのか!? Fm ハルヒ Sub Re Re Re 幽霊の件 Txt 今決めたの! fin.
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今にして思えば、ハルヒのあの一言がきっかけだったと言えよう。 現在、俺は社会人二年目で、半年前からハルヒと同棲している。 ハルヒの一言によって今の関係が終わるとはこの時の俺には知る由も無かったのだ。 それはいつもの様に帰宅したある日の事だった。 「ハルヒ、ただいま」 「お帰りなさい、キョン。お疲れ様」 あぁ、ハルヒの笑顔があれば疲れなんて吹っ飛ぶね。 そのままベッドインしたくなるがそれでは雰囲気が無いのでここは我慢するとしよう。 俺は夕食の後、リビングでハルヒの淹れてくれたお茶を飲んでいた。 「あ、あのね、キョン、ちょっと・・・話があるんだけどいい?」 いつになく神妙な面持ちでハルヒが話しかけてきた。 「あぁ、構わんぞ。んで話って何だ?」 「うん。えっと、その・・・」 なんか、切り出しにくそうだな。 ハルヒは黙って俯いてしまっっている。 俺は頭の中で切り出しにくい話を検索していた。 検索結果・・・・別れ話・・・・・ なに!?別れ話だとぉ!! 「何言ってんの?あたしキョンと別れる気無いわよ?もし今度、別れようなんて言い出したら即刻死刑よ!!分かった?」 「あ、あぁ、分かったよ」 俺は心底ほっとした。思ったことをそのまま口に出してしまうこの癖はなんとかしよう。 「でも・・・キョンがどうしても別れようって言うなら・・・あたしは・・・」 あろう事かあのハルヒがしおらしくなっている・・・ 誤解されたままなのもあれなのでここはきちんとしておくとしよう。 「安心しろ、ハルヒ。俺は何があってもずっとお前の傍にいるよ」 「うん、ありがと。あのね、あたし・・・その・・・出来たみたいなの」 俺はハルヒが何を言ってるのか理解出来なかった。 「何が出来たんだ?懸賞のクイズでも出来たのか?」 「違うわよっ!!子供が出来たみたいって言ってんのよっ!!」 なるほどね、そうかそうか・・・って子供!?それ俺の子か? 「当たり前じゃないっ!!あんた以外に誰が居るってのよ!バカキョン!!」 また声に出ていて様だな・・・ 怒ったハルヒは俺の胸をポカポカ叩いている。 俺はハルヒを力一杯抱きしめてやった。 「ゴメンなハルヒ。俺、父親になれるんだな。ほんとに嬉しいよ」 「・・産んでいいの?・・・受け入れて・・・くれるの?」 「当たり前だろ」 「・・・だったんだから・・・」 「え?」 「ずっと不安だったんだから!!拒絶されたらどうしようってそればっかり頭にあって・・・キョンはそんな事絶対しないって分かってるのに・・・それでもやっぱり不安は・・・消えなくて・・・・・」 ハルヒの訴えに俺はハルヒを抱きしめる腕に更に力を込めた。 「今まで気付いてやれなくてゴメンな。明日一緒に産婦人科に行こう。その後ハルヒの両親の所に挨拶しに行こうな」 「挨拶って何の?」 「もちろん、ハルヒと結婚させて下さいって挨拶さ」 「ふぇ?キョン、今なんて言ったの?」 「ん?あぁ、ちょっと待ってろな」 俺はそう言って自分の部屋に向かった。 俺はクローゼットを開け、中に隠してあったものを取り出し部屋を出た。 リビングに戻った俺は未だにポカンとしているハルヒの前に正座した。 「ハルヒ、今までずっと俺と一緒に居てくれてありがとうな。思えば色んなことがあったよな。沢山デートもしたし喧嘩もしたな」 ハルヒはじっと俺の目を見て話を聞いている。 「本当に楽しかった。出来ればいつまでもこの関係を続けたいと思ってた。でも・・・」 俺は、ここで一息置いた。 なんせここからが本番だからな。 「でも?なに?」 「俺はこの関係を終わりにしなくちゃならないと今は思っている」 「!?」 ハルヒが自分の耳を抑えようとする。 俺はその手を握って続けた。 「これからは俺の彼女じゃなくて、妻になって欲しい」 「キョン・・・それって・・・」 「ハルヒ、俺と結婚してくれ」 「キョン!!あたしでいいの?あんたの事信じたいのに信じきれなかったあたしなんかでほんとにいいの?」 「あぁ、お前以外なんて考えられない。それ位俺はお前にゾッコンだ。それで俺のプロポーズをOKしてくれるか?」 「うん、喜んで!がさつでワガママなあたしだけどこれからもよろしくお願いします」 「俺こそよろしくな。でだ、済まないんだが少し左手を貸してくれないか?」 ハルヒはそれが何か分かったらしく、微笑みながら左手を差し出してきた。 俺はさっき部屋から持ってきた小さい箱から銀色に光るリングを取り出しハルヒの左手の薬指にはめた。 ハルヒはその指輪を見てニコニコしていたがそのままソファーで寝息を立てていた。 俺はハルヒをベッドへ運び、そのまま一緒に寝る事にした。 翌日、俺とハルヒは産婦人科へ向かった。 検査の結果は妊娠1ヶ月だった。 いやはや、早く産まれてきてほしいものである。 病院を後にした俺とハルヒは一度家に戻り正装に着替え結婚する事とハルヒが妊娠1ヶ月だった事を報告するため涼宮家に向かった。 インターホンを鳴らしたら何故か俺の母親が出迎えたりしてのだがそれは些細な事であろう。 そう思いたい・・・ 俺の母親のイジりもなんのそのでどうにか家に上がることが出来た。 「あらあら、いらっしゃい」 「今日はお話があって来ました」 「お願い、聞いて!!とっても大事な話なの!!」 「ふむ、聞こうじゃないか」 俺とハルヒは、ハルヒの両親に向かい合う様に座った。 「で、話とはなんだい?」 俺にはユーモアなんて無い。 だから直球勝負あるのみだ!! 「ハルヒを俺に下さいっ!!ハルヒとの結婚を許してくださいっ!!」 「これはまたストレートに来たな。また、どうしていきなりそんな事を言い出したんだい?何か理由があるのだろう?それを聞きたいね」 「実は、あたしキョンの子供を妊娠したの!!だからっ!!」 「ほう、つまり子供が出来たから結婚すると?そんな理由で結婚を許すと思ってるのかい?」 「お、お父さん!?」 「それは違いますっ!!確かにハルヒが妊娠した事で踏ん切りがついた事は認めます。でも、俺はハルヒが好きだから、ずっと一緒に居たいから結婚したいんですっ!!だからお願いしますっ!!ハルヒと結婚させて下さいっ!!」 「・・・キョン・・・・」 ハルヒはまた俺の手を握ってくれた。 「・・・っく、くくくっ、はぁーはっはっは!!いやぁ、若いな!羨ましい限りだ。いいぞ、二人の結婚認めようじゃないか」 俺とハルヒは呆気にとられていた。 「・・・え?ホントですか?いいんですか?」 「あぁ、幾らでも持っていけ!!」 「結婚して・・・いいの親父?でもどうして?」 「あぁ、いいぞ。もう長い付き合いだからな。彼がどういう人間かはよく分かっているさ。さっきのはちょっと試しただけだ。悪かったな」 「ハルちゃん、キョン君、これでやっと言えるわね。おめでとう」 「ありがとうございます」 「母さんありがとっ!!」 「キョン、やったねっ!!」 とハルヒが抱きついてくる。 「あぁ、一時はどうなるかと思ったけどな」 その後は、「キョン&ハルヒの結婚&妊娠祝い」と題された宴会に突入した。 正直、誰が主役なのかさっぱり分からん位に滅茶苦茶だったとだけ伝えておこう。 無事、結婚式の日程も決まり俺とハルヒはせっせと招待状を書いていた。 俺が仕事に行っている間に、ハルヒが俺の分の招待状も書いていてくれたので予想より早く終わった。 ある夜、俺は書きあがった招待状をポストに投函しに行った。 家を出る際ハルヒが「映画のDVDレンタルしてきて」と言っていたので、ハルヒに言われたDVDを無事に借り、帰宅している最中の事だった。 いつもの道を歩いているとなんとひったくりの犯行現場に出くわしてしまったのである。 ひったくりは女性からバッグをひったくると真っ直ぐこちらに走ってきたので俺はひったくりを捕まえようとしたのだが、走って勢いが付いていたひったくりのタックルを食らった俺はあえなく吹っ飛ばされてしまった。 あぁ、ダサいな俺・・・ 等と考えていて注意力が欠落していたのだろう。 俺は頭を電柱に思いっきりぶつけた。 衝撃と鈍い痛みが俺の頭の中を支配する。 全く・・・これじゃあ・・・・マンガのギャグキャラ・・だよな・・・・・ そんな事を思いながら俺の意識は薄れていった・・・ ・・・・・・・・・ 気が付くと俺は白い靄の掛かった所に寝っ転がっていた。 どこだ?ここは・・・ さっきまでの頭の痛みが全然無くなっている。 俺はここがどこなのか確かめるために立ち上がったら突然、俺の足が勝手に何かを目指すように動き出した。 な、なにがどうなってんだよ!? 何の抵抗も出来ないまま暫く進んでいくとトンネルの様なものが見えてきた。 コレイジョウイッテハイケナイ!! 俺の脳が危険信号を出してくるが今の俺にはどうにも出来ない。 トンネルに足を踏み入れそうになった時誰かが俺の腕を掴んだ。 振り返るとそこには見知らぬ少女が立っていた。 「こっち!!」 そう言って少女は俺を引っ張ってトンネルと逆方向に歩き出した。 「お、おい!?お前は誰だ?ここは一体何処なんだ?」 「あたしは××!ここはあの世よ!!」 少女の名前はノイズが混じったみたいに良く聞き取れなかった。 それよりこいつは今何て言った?あの世? あの世って俗に言う死後の世界ってやつか? なんてこった・・・俺は死んじまったってのか? 「まだ死んでないわ。あそこに足を入れたらアウトだったけどね」 「そうなのか?仮にそうだとして、お前は俺を何処に連れて行こうとしてるんだ?」 「もう着いた。さぁ、早く此処に飛び込んで!!」 少女が指差した先には地面にポッカリと大きな穴が開いていた。 「この穴は何なんだ?一体何処に繋がってるんだ?」 「そんなのいいからさっさと飛び込んで!!ホントに間に合わなくなる!!」 「な、何が間に合わなくなるんだ?ちゃんと説明してくれ!!」 「あぁ、じれったいなぁ!!さっさと行かないとホントに死んじゃうわよパパ!!」 そこまで言い切ると少女は俺を穴の中へと蹴り飛ばしやがった!! 「何すんだ!?こっちはまだ心の準備が出来てないんだぞ!!」 と言いつつも何かが俺の中で引っ掛かっていた。 「あはは、パパの意気地が無いのがいけないのよ!!」 「パパって・・・お前まさか!?」 「やっと気が付いたの?まぁ、いいわ。また会おうねパパ!ママが待ってるから早く行ってあげて!!」 そう言って笑う少女の顔がハルヒと被った。 俺はもっと何か言いたかったが穴の闇に飲まれそれは叶わなかった・・・ ・・・・・・・・・・ 「・・・・・キ・・・キョン・・・・早く・・・を開けな・・いよ」 誰かに呼ばれた様な気がして目を開けるとそこにはハルヒの顔があった。 「・・・よぉ、どうしたんだ?」 「アンタが寝ぼすけだから起きるのをずっと待ってたのよ!このバカキョン!!」 「そうか、俺はどれ位寝てたんだ?」 「丸1日ずっと寝てたわよ!!さぁ、この落とし前をどうやってつけてくれるのかしら?」 「そりゃ済まなかったな。ハルヒの好きな様にしてくれて構わないぞ」 「じゃあ、誓いなさい!!」 また主語が抜けている・・・ 「何をだ?」 「それ位自分で考えなさいよ!もう絶対にあたしを辛い目にあわせないって、一人にしないってあたしに誓えって言ってんのよ!!」 「あぁ、分かったよ。絶対にハルヒを辛い目にも1人にもしないって約束する」 「破ったら酷いんだからね、覚えておきなさいよ!!」 「あぁ」 その後の検査で異常は無かったのだが俺はもう一日様子見という事で病院で過ごす事になった。 いきなり約束を破る訳にもいかないのでその晩はハルヒと一緒に泊まる事にした。 その夜、俺はハルヒ曰く「寝てた」間の出来事をハルヒに話してやった。 当然ハルヒには「夢見過ぎなんじゃないの?」とか冷めた目で言われたけどな・・・ 翌日、無事に退院した俺はハルヒに手を引かれ家を目指している。 おっと、1つやり忘れていた事があったな。 俺はハルヒのお腹に手をあて一言呟いた。 「ありがとな」と。 そこから1ヵ月近く話が飛ぶ訳だがあまり気にしないでもらいたい。 ここ1ヶ月は特に何も無い平凡かつ平和な毎日だった訳で、これと言って話す様な事も無いのだ。 今日はいよいよ待ちに待った結婚式当日だ。 ハルヒはというと昨日から実家に戻っている。 花嫁は式の前日は実家に帰るものらしい・・・よく分からんがな。 こうして俺は今、ハルヒの居ない孤独感を味わいながら親の迎えを待っている。 あぁ、ハルヒに早く会いたい等と想いを馳せていると見覚えのある車が見えてきた。 その車が俺の目の前で停まると中から賑やかな人たちが降りてきた。 「やっほーっ!!キョン待ったーっ!?」 「おっはよーっ!!キョン君ーっ!!」 ホントに朝から元気だね、あなた達は・・・ 「おはよう、朝から悪いな」 「そんなの気にしなーい!!さぁ、さっさと乗りなさい!!主役が遅れちゃ話になんないわよっ!!」 「そうだよー、遅刻したら罰金なんだよー」 そう言って母さんと妹は俺を助手席に無理矢理押し込みやがった。 その拍子に俺は、頭をクラクションに思いっきりぶつけた。 ビビッーーーーーーーー!! 朝からこれじゃ先が思いやられるな・・・ 「ちょっとキョン、朝から近所迷惑じゃないっ!!しっかりしなさい」 「そーだぞー、しっかりしろー」 あなた達は一体誰のせいで俺が頭をぶつけたと考えていらっしゃるのかな? 俺が文句の1つでも言おうとしていると親父が肩を叩いて制止してきた。 「まぁ、言いたい事は分かるが、とりあえずシートベルトをして座れ。これじゃ発進出来ない」 「あ、あぁ、スマン親父」 親父にそう言うと俺は座ってシートベルトをした。 「それじゃあ、式場へ向けてレッツゴーーーーーっ!!!」 「ゴーーーーーっ!!!」 俺を乗せた車が式場へ向けて走り出した。 車内では俺の家族が新婚旅行について来るだの好き勝手言っていた。 流石に今回ばかりは謹んでお断りしたがな・・・ こんな事をしていたらいつの間にやら式場に到着していた。 車に乗る度に俺が鬱に入るような気がするのは、気のせいだろうか? 車を降りて入り口に向かうとそこに懐かしい顔が居た。 「よう、古泉じゃないか。久し振りだな、よく来てくれた」 そう、「機関」所属の超能力者、古泉一樹である。 「あぁ、どうもご無沙汰してます。本日はお招きありがとうございます」 「そっちは・・・相変わらずみたいだな」 「えぇ、そりゃもう。涼宮さんの力が無くなったからといって、対抗する組織が無くなる訳ではないですからね。今も毎日忙しくしてますよ」 「それはご苦労さんだな。スマン、迷惑掛けるな」 それを聞いた古泉は一瞬驚いた顔をしていたが、すぐにあのニヤケ顔に戻る。 「いえいえ、確かに力を授かってからは苦労も多いですけど、結婚式に呼んでくれる友人が出来たという事は人生においてプラスになってると僕は考えています」 「あぁ、そうだな。今日は来てくれてありがとな、楽しんでいってくれ」 「はい、そうさせてもらいます。本日はおめでとうございます。ではまた後で会いましょう」 「あぁ」 俺はそう言って古泉と別れ、控え室へと向かった。 控え室に着いた俺は、衣装さん数人に衣服を引ん剥かれ、純白のタキシードに衣装チェンジさせられた。 その際、パンツを一緒に引っ張られマイサンを室内公開してしまったというアクシデントがあったがこれは心の内にしまっておくとしよう・・・ そんな新たなトラウマと格闘していると誰かがドアをノックした。 「はーい、どうぞー」 ガチャ 「やぁ、キョン。おめでとう」 「おう、国木田。よく来てくれたな」 「おい、キョン!俺はシカトか!?」 「あぁ、谷口もよく来たな」 「まったく、折角来てやったってのにそれかよ?へこむぞマジで」 「あぁ、冗談だ。悪かったな」 本来ならここで終わるはずだったのだが、流石アホの谷口はこれで終わらなかったのである。 「しっかし、よくあの涼宮と結婚する気になったな。正気の沙汰とは思えんぞ」 国木田が制止しようとしたがどうやら間に合わなかったらしい。 気にするな国木田、お前はこれっぽっちも悪くないぞ。 「谷口、俺の聞き間違いだと悪いからな。もう一回言ってくれるか?」 俺はいつもより30%声を低くして聞いた。 これでいい加減気づけよ、谷口。 これで気づかなかったら、お前はホントに無能だぞ。 「ん?あぁ、あの涼宮と結婚するなんて正気じゃないと言ったんだぞ」 あぁ、だめだ・・・ 「・・・谷口よ、お前は祝いに来たのか?それとも俺にケンカを売りにきたのか?さぁ、どっちだ?」 「お前、頭大丈夫か?祝いに来たに決まってるだろ?」 「ほぅ、これから結婚する相手をわざわざ侮辱しに来るのがおまえ流の祝うという事なんだな?」 俺は、ゆっくり立ち上がり殺意を全て谷口に向けて放った。 そこまでして、ようやく谷口は自分が何をしたのか悟ったようで土下座しながら謝りだしやがったっ!! 地面に頭を擦り付けて謝っている奴をどうにかする程血に飢えている訳ではないので許す事にした。 「もういい。頭上げろ」 「許してくれるのか?やっぱ、お前いい奴だなぁ」 「ははは、キョンも大変だねぇ」 コンコン 「はい、どうぞ」 入ってきたのは式場の職員だった。 「失礼します。そろそろお時間なので準備の方をお願いします。準備が整いましたら外で待っていますのでお声をお掛け下さい」 「はい、分かりました。ご苦労様です」 「じゃあ、僕達は先に行くよ」 「じゃあな、待ってるぜキョン」 「あぁ、そうしてくれ。また後でな」 控え室への最後の来客が去りまた控え室に一人になった。 俺は鏡を見て、最後のチェックを済ませた。 よし、行くか!! 俺は外で待っていた職員さんに話し掛け教会へと向かった。 入り口で職員さんと別れ、入った教会の中は知った顔で満員御礼だった。 俺は不覚にも感動して泣きそうになってしまったのだがハルヒもまだ来ていないので、そこはぐっと堪える事にした。 深呼吸して自分を落ち着かせているとお約束のあの曲が流れ始めた。 そして教会のドアが静かに開いた。 そこには、おじさん・・・いや今日からはお義父さんだな。 お義父さんとハルヒが立っていた。 もう、さすがにクラッっときたね。 だってそうだろ? もともと綺麗なハルヒが更に綺麗になってるんだ。 もはや、これを形容する事は出来ないだろう・・・ 意識が遠退くのを必死に堪えているとお義父さんに先導されてハルヒが目の前まで来ていた。 「キョン君、娘を頼んだよ。幸せにしてやってくれ」 ここまできてもやっぱりその名で呼ぶんですね・・・ お義父さんがそう言い終わるとハルヒがお義父さんの腕から俺の腕へと腕を絡めてくる。 「はい、必ず幸せにしてみせます」 そう言うと俺とハルヒは祭壇へ向けてバージンロードを一歩一歩を確実に踏みしめた。 祭壇に着くまで俺の頭の中をハルヒとの思い出が走馬灯の様に駆け巡っていた。 思えば、あの日あの公園でハルヒと会わなかったら俺はどうなっていただろう? もし、ハルヒに会っていなかったらこんなにも幸せな気持ちになれただろうか? いや、これだけは断言できるが、絶対にここまで幸せにはなれていないだろう。 そして、俺とハルヒは遂に祭壇に辿りついた。 「汝ら、今日此処に永遠の愛を誓う者の名は○○○○、涼宮ハルヒに相違ないか?」 「「はい」」 「よろしい。では○○○○よ、汝は新婦涼宮ハルヒを妻とし、健やかなる時も病める時も永遠に愛する事を神に誓うか?」 「はい、誓います」 と答えたらハルヒに蹴りを入れられた。 ハイヒールの踵は痛すぎる・・・ なんで俺が蹴られにゃならんのだ? 「よろしい。では涼宮ハルヒよ、汝は新郎○○○○を夫とし、健やかなる時も病める時も永遠に愛する事を神に誓うか?」 「誓わないわ!!」 教会の中が一気にざわつく。 「おい、此処まで来ていきなり何言ってんだよ?」 俺の心は今最大級に冷や冷やしているのがお分かり頂けるだろうか? 花嫁が永遠の愛を誓わないって言い出して焦らない花婿は居ない筈だ。 「だって、居るかどうかも分からない神に誓ったって意味無いじゃないの!!」 また無茶苦茶を言い出したよ、この人・・・ 「それはそうかもしれないが、様式美ってあるだろう?」 「そんなの下らないわよ!!あたしが永遠の愛を誓うのはキョンだけなのよ!!そうでしょキョン?」 こんな恥ずかしいセリフを大勢の前で堂々と・・・・ もう、こうなったらハルヒに便乗するしかなさそうだ。 「あぁ、そうだな。俺も誓うならハルヒだけだな」 「って事だから、もう一回よろしくね!!」 等と神父さんに友達に気軽に頼む様に言い放った。 流石の神父さんも溜息をついている。 ホント、迷惑掛けてすいません・・・ 「で、では、汝ら健やかなる時も病める時も永遠に愛する事を互いに誓いあうか?」 「「はい、誓います」」 「よろしい。では指輪の交換を」 「「はい」」 俺は指輪を取り、ハルヒの左手の薬指に指輪をはめた。 今度はハルヒが指輪を取り、俺の左手の薬指に指輪をはめた。 「神よ!!今日此処に永遠の愛を誓いあった二人に祝福をっ!!願わくばこの者達の進む道が常に光に照らされてる事を願う」 「では誓いの口付けを」 そう言われると俺はハルヒのヴェールをそっと上げた。 ハルヒは涙ぐみながら微笑んでいた。 いい顔だな、ほんと惚れ直すよ。 俺はハルヒの肩にそっと手を置き静かにキスをした。 今まで何回もキスをしてきたが、こんなに幸せなキスはきっとないだろうな・・・ 唇を離すと盛大な拍手と歓声が起こった。 「今、此処にこの者達は永遠の愛によって結ばれた!皆様方、今一度盛大な拍手をっ!!」 神父さんがそう言うとまた盛大な拍手が起こった。 「では、皆様方。花嫁からブーケトスがありますので外の方へお願いします」 みんなが外に出ると俺はハルヒに話し掛けた。 「さっきのは流石にヒヤッとしたぞ?やるなら事前に言っておいてくれ」 「まぁ、そんな事どうでもいいじゃない!それより早く行きましょ!!」 こっちは全然良くなんだがな・・・ 「はいはい、分かったよ花嫁様」 外に出ると沢山の人たちが祝いの言葉を掛けてくれた。 「では、ここで新郎新婦から挨拶を頂戴したいと思います」 と言った神父さんからマイクを渡された。 「えー、皆さん。今日は集まってくれて本当にありがとうございます。急なスケジュールであるにも関わらずこんなに多くの人に集まってもらったことに感謝します。実はもう一つ報告があります。今ハルヒは俺の子供を妊娠しています。これからは夫として父として頑張っていきたいと思いますのでこれからもよろしくお願いします」 また拍手が沸く。 こんなに沢山の拍手が自分に向けられるのは初めてだな。 俺は挨拶を済ませるとハルヒにマイクを渡した。 「みんなー、今日は来てくれてホントありがとねーっ!!キョンも言ってたけど、今あたしのお腹の中にはキョンとあたしの子供がいます。これからはキョンの妻として、生まれてくる子の母親として精一杯頑張るから応援よろしくねっ!!以上!!」 俺の時と同じ様に拍手が沸く。 「新郎新婦ありがとうございました。では花嫁、ブーケトスをお願い出来ますかな?」 「はい、分かりました。ねぇ、キョンお姫様抱っこして頂戴っ!!」 そう言うとハルヒは俺に飛びついてきた。 「あぁ、幾らでもしてやるぞっ!!」 俺は言われるままハルヒをお姫様抱っこした。 するとハルヒはブーケのリボンを解きだした。 「ハルヒ何してるんだ?」 「あたし達の幸せを独り占めなんて許さないわ!こうすればみんなが幸せになれるでしょ?」 俺はハルヒが何をしようとしているのかを悟った。 なるほど、それならみんなに分けられるな。 「あぁ、そうだな。よしやってやれっ!!」 俺がそう言うとハルヒは解いたブーケを空高く放った。 空で散らばったブーケはまるで季節外れの雪の様にみんなに降り注いだ。 それは、幸せが空から舞い降りている様にも思えた。 みんなは一瞬何が起こったのか分からないという表情をしていたが、散らばったブーケに手を伸ばしていた。 その様子を見ていた俺とハルヒは声を合わせて言った。 「「みんながずーっと幸せになりますようにっ!!」」ってな!! さて、次に待っていたのは結婚披露宴である。 この場では新郎新婦とはさっきまでとうって変わって絶好のイジられるターゲットとなるのだ。 はぁ、なにやら先行きが不安なのは俺だけであろうか・・・? その不安は早くも的中したらしい。 なんと今この場で古泉が仲人に抜擢されたのである。 確かに付き合いも長いし、長門や朝比奈さんではどうにもならなそうなので無難といえば無難なのだが幾らなんでもいきなり過ぎるだろ・・・ ほら、あの古泉が流石に戸惑ってるぞ・・・ とか、思っていたらダブルマザーが古泉に何やら封筒を渡していた。 それを見た古泉はみるみる内にいつものニヤケ顔に戻りライトアップされたマイクの方へと歩き出した。 「えー、急遽仲人を任されました古泉一樹と申します。よろしくお願いします」 古泉がそう言うと拍手が起こる。 「お二人の出会いは今から11年前、丁度中学1年生の頃になります」 あぁ、そうだな。もうそんなになるのか。 って、なんでそんな事を知ってるんだ!? 「その時、公園で一人泣いていたハルヒさんに声を掛けたのが彼でした。彼は何も聞かず泣いているハルヒさんを慰めるとおぶってハルヒさんを家まで送りました」 何故だっ!?何故そこまで知っている!? そこでこっちをニヤニヤしながら見ているダブルマザーに目がいった。 まさか!?さっきの封筒の中身は・・・・ 「その後、互いに何も聞かずに別れた二人は運命的な再会を果たすのです」 古泉の手元を見てみると何やら紙を持っていた。 あの紙には北高に入るまでのエピソードが記されているのだろう。 どうでもいいが、あのドキュメンタリー口調はなんとかならないものか・・・ 「3年後お二人はなんと同じ高校へ進学しました。しかも同じクラスで席も隣同士だったのです。もう、これは運命としか言い様が無いでしょう」 古泉よ、そろそろ勘弁してくれ・・・ 「こうしてお二人の交際がスタートして今日を迎えたという訳です。この後もまぁ、色々あったのですがどうやらお二人とも限界の様なのでそこは割合させて頂きます」 ようやく終わった・・・ なんだかどっと疲れたな・・・ お次は定番の隠し芸大会の様だ。 またしても嫌な予感が止まらないのだが・・・ 1番手は長門のようだ。 「来て」 久々にあのインチキパワーが見られるのか等と考えていた俺は長門から指名を受けた。 「あぁ、分かった。じゃあ、ちょっと行ってくるな」 そうハルヒに言い残し、俺は長門について行った。 ついて行った先には人間ルーレットがあり、俺は長門の手によってそれに磔にされた。 「おい、これは一体どんな隠し芸なんだ?」 「対象が回転しながらのナイフ投げ」 ナイフと聞くとあいつを思い出すな・・・ あぁ、今考えてもゾッとする。 「大丈夫。投げるのはナイフのプロ」 長門がそう言って指差した方向を見るとなんとドレスアップした朝倉が立っていたのだ!! 「な、長門さん、これは何の冗談なのかな?」 「冗談ではない。涼宮ハルヒが朝倉涼子へ招待状を出したため、情報統合思念体に再構成を依頼した」 ハルヒの奴、朝倉も招待していたのか・・・ 「おめでとうキョン君。今日はよろしくね。なるべく痛くないようにするからね」 この天使の如き笑顔に騙されてはいけない。 「あ、朝倉!お前やっぱりまだ俺を殺すつもりなのか!?」 「大丈夫、もう殺したりしないわよ。涼宮さんの力が無くなっちゃったのにあなたを殺しても意味が無いからね」 どうでもいいが、さっきからの物騒な会話に客がドン引きしている・・・ここはさっさと終わらせよう。 「そ、そうか、分かった。思いっきりやってくれ!!」 「うん。じゃあ、長門さんお願いね」 「分かった」 長門が何かを呟くとルーレットがかなりのスピードで回り出した。 いかん、こりゃ吐きそうだ・・・ そう思ったのも束の間、無数のナイフが俺目掛けて飛んできたのだ。 かなりの高速で回転しているにも関わらずナイフは俺の身体の形に添ってルーレット板に突き刺さる。 いやぁ、流石は情報統合思念体の作った対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェースだ。 何でもアリっていうのはきっとこいつ等の事を言うんだろうな・・・ やっとルーレットが止まり無事解放された俺はヘロヘロになりながら席に戻ったのだ・・・ ここで一旦俺とハルヒはお色直しのために会場を後にした。 控え室に戻った俺は朝と同じ様にひん剥かれた。 もちろん今度はパンツを徹底的に死守したのは言うまでも無い。 そして着替えが終わりハルヒの支度が終わるのを待っていると、支度が終わったらしく黄色いドレスに身を包んだハルヒが登場した。 「どう、キョンこれ似合ってる?変じゃないかしら?」 そりゃ、もう似合い過ぎってものだ・・・ 「あぁ、ヤバイ位似合ってるぞ」 その返答に満足したらしくハルヒは俺に抱きついてきた。 「ん?どうしたんだ?」 「だって、会場に入ったらこういう事出来そうに無いから・・・今の内に一杯抱きついておこうと思ったんだけどダメ?」 あぁ、もう我慢出来ない!! 「そうだな。もう少しこうしてような」 「うん・・・」 ・・・20分後・・・ 「えー、あのー、お二人ともそろそろいいでしょうか?」 職員の一言によって二人の世界から強制退去させられたハルヒはご機嫌斜めだった。 会場の入り口に着いてもハルヒの機嫌は直りそうに無かったので、ハルヒを強制的にお姫様抱っこした。 「ちょ、キョン?ど、どうしたの?」 「いや、これで入場するのもいいかなと思ったんだが嫌か?」 「い、嫌じゃないわ!それいいわね、そうしましょう!!」 もう、ご機嫌が直ったようだ。 「じゃあ、行くぞ」 入場した瞬間に、俺とハルヒは大量のフラッシュを浴びた。 もはや、軽い芸能人気分だ。 こんなのをよくあれだけ浴びれるもんだと感心しつつ席に戻った俺とハルヒを待っていたのはさっきまで椅子ではなくデカデカとハートマークがあしらわれたソファーだった。 さて、これはなんの冗談だ? 「さぁさぁ、座っとくれよ。折角用意したんだから、ちゃんと使って欲しいっさー」 鶴屋さん、あなたの仕業でしたか・・・ 「いいじゃない、使わせてもらいましょ?」 ハルヒがご機嫌な様なので俺はソファーを使うことにした。 「あぁ、そうしよう。鶴屋さん、ありがとうございます。使わせてもらいますよ」 「うんうん、そうでなくっちゃ。こっちも用意した甲斐があるってもんだい」 俺とハルヒがソファーに座ると、鶴屋さんは満足そうに自分の席へと戻っていった。 ハルヒは俺にくっ付いていられるのに満足らしく、ニコニコと子供のような笑顔をしている。 さて、やっと落ち着いたので辺りを見回してみるとスクリーンで「朝比奈ミクルの冒険 Episode00」が流されていた。 なんで、ここであれが流されてるんだ? 等という俺の疑問は些細な事だったようで結婚式の定番キャンドルサービスの時間がやってきた。 これが夫婦の初の共同作業である。 まぁ、みんな蝋燭を濡らしたりだとか先っぽの紐を切ったりというベタベタな事をしてくれたのは言うまでもない。 そして、今は最後の「SOS団とその友人御一行様」のテーブルに向かっている。 此処では一人一人ちゃんと挨拶しよう。 まずは鶴屋さんだ。 「やぁやぁ、よく来たね」 「どうも。さっきはソファーありがとうございました」 「気にしなくていいっさ。それより、キョン君もハルにゃんもちゃんとめがっさ幸せになるにょろよ」 「えぇ、分かってますよ」 「もちろん!絶対幸せになってみせるわ」 「うんうん、それでこそ君達っさー」 次に朝比奈さんだ。 「キョン君、涼宮さん。本当におめでとうございます。涼宮さん、とっても綺麗ですよ」 「朝比奈さんありがとうございます」 「みくるちゃんありがとね!あなたも早くいい人見つけてね。あたし応援してるわ」 「はい、よろしくお願いしますね」 次に古泉だ。 「どうも、御二方とも本当にお似合いですよ。これから色々大変だとは思いますが、お二人ならどんな窮地に立たされても互いを支え合って乗り越えられると僕は信じていますよ」 「あぁ、古泉ありがとうな。これからはどんな事があっても挫けない様に頑張るよ」 「古泉君、今日は来てくれてありがと!あたし頑張ってキョンを支えるわ」 「えぇ、頑張って下さいね」 次に朝倉だ。 「キョン君、涼宮さん。おめでとう。二人とも、お幸せにね」 「おう、朝倉来てくれてありがとうな」 「えぇ、あなたも幸せになるのよ?いいわね?」 「分かったわ。努力してみる」 最後は長門だ。 「おめでとう」 「あぁ、長門もありがとうな」 「有希、ありがとね。あなた可愛いんだから妥協しちゃだめよ!!理想は高く持ちなさい!!」 「分かった」 こうして最後のテーブルに明かりを灯した俺とハルヒは自分達の席へと戻った。 そしていよいよメインイベントであるウェディングケーキ入刀である。 また、沢山のフラッシュが浴びせられるがさっきほど違和感は無い。 これが慣れというものなのだろうか・・・ 無事ケーキカットも終わり、またハルヒとソファーの上でベタベタしている。 ケーキを食べていたらいよいよ最後のイベントが始まった。 それは「新郎新婦からご両親への挨拶」である。 まずは俺からだ。 「父さん、母さん、本当に今までお世話になりました。今、思えば俺はいつも二人に迷惑を掛けてばっかりでしたね。親の心子知らずという言葉がありますが、まさに俺はその典型的な例だったと思います。しかしながら、今日俺はハルヒと結婚し、最愛の妻のためにもこれから生まれてくる子供のためにもしっかりしていきたいと思います。ですから、これからも俺がヘマをやらかしたらどんどん叱ってやって下さい。よろしくお願いします。最後にもう一度、本当に今までお世話になりました。」 そう言い終わると母さんは泣いていた。 俺も泣きたくなるが今は堪える。 夫としてハルヒを支えてやらなきゃならないからな。 さぁ、ハルヒの番だ。 「お父さん、お母さん、あたしはほんとにワガママで一杯一杯苦労を掛けました。そしてその恩をあたしは全く返せていません。あたし・・・は・・っく・・・ほんとに何をやっても・・・周りから浮くだけで・・・・ホントに駄目で・・・ヒック・・・」 俺は泣き崩れそうになるハルヒを支える。 此処で崩れたらきっと後悔する。 俺の目を見たハルヒは俺に寄り掛かりながら続けた。 「・・・でも・・・あたしはありのままのあたしを受け入れてくれる人と出会いました。今日、あたしはこの人の元へお嫁に行きます。この人とこれからの人生を精一杯生きていきます。だから見てて下さい。これからのあたしを。精一杯生きてるあたしを。お父さん、お母さん、本当に今までお世話になりました。そして・・・ありがとうございました」 ハルヒが泣いている。 ハルヒの両親も俺の両親も泣いている。 でも、これは悲しいから涙が出るんじゃない・・・ 嬉しいから・・・幸せだから出る涙がある事を俺は知っている。 それを教えてくれたのは今、俺の腕の中で泣いてるハルヒなのだ。 なんという幸せな空間なのだろう・・・ いつまでもこんな幸せが続けばいいと思う・・・ そしてそんな幸せな気分のまま俺達の結婚式は終わったのだ・・・ 無事結婚式を終えアパートへと帰宅した俺とハルヒはベッドに入るや否や新婚初夜という事で激しくお互いを求め合った。 ようやくハルヒが安定期に入った事と「これでホントにあたしはキョンのものになれたのよね。さぁ、好きなだけあたしを求めて、キョンの好きにして?」 というハルヒの言葉に俺の理性は完全に陥落したのである。 だが、詳しい内容は割合させてもらおう。 何故かって? そんなの決まっている。 あんなに可愛いハルヒは誰にも見せたくないからな。 なんたってハルヒは俺だけのものになった訳だしな。 まぁ、俺もハルヒだけのものな訳なのだが・・・ さて、ノロケ話はこれ位にして本題に入るとしよう。 今日から俺とハルヒは新婚旅行へ行く訳なのだが、昨晩、頑張り過ぎた為に二人して寝坊してしまったのである。 「ちょっと、この目覚まし時計壊れてるんじゃないかしらっ!?」 見ての通りハルヒは朝からご立腹のようだ。 「いや、それはないだろう。ちゃんと時間通りに鳴ってた気がするぞ」 「じゃあ、なんで起きられなかったのよ?」 「そ、それは、その、昨晩頑張り過ぎたからな・・・・」 あ、ハルヒの顔がみるみる赤くなる。 あぁ、ほんとにカワイイなぁ。 「こ、このバカキョン!!朝から何言ってるのよ!?」 等とイチャイチャしてたらマジで時間が無くなった!! 「さぁ、時間も無いしそろそろ支度を始めましょ」 「あぁ、そうだな」 ハルヒ特製の朝食を食べ、着替えを済ませいよいよ俺達は家を出た。 目的地はここから電車を使って4時間ほどの場所にある温泉が有名な観光地だ。 「さぁ、行くわよキョン!!いざ新婚旅行へ出発よっ!!」 「あぁ!!行こう!!」 さぁ、遂に新婚旅行のはじまりであるっ!! さて地元の駅から電車で6時間ほどの旅だった訳だが・・・ 電車の車内で色々あった俺は今日一日分の精神力を見事に使い果たしていた。 ハルヒは到着早々遊ぶ気満々だったが朝の寝坊もあって辺りは日が暮れ始めていた。 「さぁ、キョン何処に行きましょうか?」 「とりあえず、旅館に荷物を置きに行きたいな。このままじゃ動きづらくて堪らん」 「そうね、じゃあ行きましょっ!!」 そう言ってまた俺の腕に抱きついてくる。 あぁ幸せ過ぎて俺は死にそうだ。 「ちょっと、キョン!!あたしの前で死ぬとか言わないでよねっ!!今度言ったら罰金だからね!!」 また俺の悪い癖が出ていた様だ。 ホント、どうにかならんかね・・・これ。 「キョンが死んじゃったら・・・・あたし・・・あたし・・・」 あぁ、そうだよな・・・ 俺だってハルヒが突然死んでしまったら生きていけないだろう・・・ 「済まなかった、俺は死なないよ。ハルヒの傍にずっといるから安心しろ」 「絶対よ?約束だからね!!破ったらひどいんだから!!」 「あぁ、約束だ」 それを聞くとハルヒはいつもの太陽の如き笑顔に戻った。 「じゃあ行くわよ!!泊まる旅館、駅から送迎バスが出てるのよ。急ぎましょ」 「おう」 そう言って俺達は送迎バスへと向かった。 無事バスを見つけ移動すること20分程で旅館に到着した。 フロントで受付を済ませ、鍵を受け取った俺とハルヒは部屋に向かっている。 「やっぱりこの苗字にはまだ違和感があるわ」 おいおい・・・ 「しっかりしてくれよ?」 「分かってるわ。あ、ここじゃない?」 ハルヒが部屋の前で立ち止まり鍵を開けた。 部屋は割りと広めで中々風情があった。 「わぁ、素敵な部屋じゃない!!」 ハルヒも大満足のようだ。 荷物を置いた後、出掛けたがるハルヒをどうにか説得しその日はそのままゆっくりする事にした。 豪勢な夕食を堪能した俺とハルヒは混浴露天風呂に向かった。 いやぁ、名物と言うだけの事はあったね。 風呂を上がりさっぱりした俺達は部屋の布団の上でダラーっとしていた。 「今日は疲れたし、もう寝るか?」 「そうね。明日もあるし今日は寝ましょう」 そう言ってハルヒが部屋の電気を消した。 真っ暗な部屋で睡魔の誘惑を受けているとハルヒが俺の布団に潜り込んできた。 「どうした?」 「ずっと、キョンと一緒に寝てたから一人だと寝れないの。だから一緒に寝ていい?」 「あぁ、いいぞ」 「じゃあ、おやすみキョン」 「おやすみハルヒ」 こうして新婚旅行初日は幕を閉じた。 翌日、朝食を済ますや否や俺はハルヒに観光名所巡りに引っ張り出されていた。 「さぁ、行くわよ!!何かがあたし達を待ってるわ!!」 「その何かとは何だ?教えてくれ」 「何かは何かよ!言葉で表せるものに興味は無いわ!!」 久々にハルヒ節が炸裂している。 こうなっては誰にも止められないのを俺はよく知っている。 「分かったよ。幾らでも付き合うよ」 「当たり前でしょ!!なんたってあたしの夫なんだからどこまでもついて来てもらわなきゃ困るわ!」 「あぁ、そうだな」 その日は観光のパンフレットに載っていた場所のほとんどに行った。 そして今は本日最後の観光名所である夕日が一番綺麗に見えると評判の場所に来ている。 「うっわー、ホントに綺麗に見えるわねー」 お前の方が綺麗だけどな・・・ 「あぁ、ホントだな」 しばらくお互い黙って夕日を見ているとハルヒが切り出した。 「ねぇ、みくるちゃんと有希すっかり綺麗になってたわね」 「あぁ、そうだな。正直見違えたな」 「ふーん、やっぱりそう思ったのね」 ハルヒの声のトーンが急激に下がる。 これはヤバイな。 早くも離婚の危機か!? 「あの子達ね、あんたの事好きだったのよ・・・」 「そ、そうなのか?」 いや、それは気が付かなかったな・・・ 「全く、白々しいわね」 ほんとに気付かなかったんだよ!! 「あたしはそれを知っててあんたを独占したの。団長っていう立場を利用してあの子達とあんたが必要以上に近づかないようにしてたの」 俺は黙ってハルヒの話を聞く。 「ホントあたしって最低よね・・・・・・いつも「団長だから団員のために」とか言ってたくせに結局最後は自分を守ってた。キョンを誰にも渡したくなかった。だってキョンが居なかったらあたしはきっと壊れちゃうから・・・」 抱きしめてやりたい。 でも、今はまだそれをしちゃいけない気がする。 「あたしは自分が情けない。みくるちゃんや有希の幸せを願っているのに・・・なのにキョンを手放す事だけは絶対出来なかった」 こんなハルヒを見ているのは辛い。 だが、ハルヒの夫としてここは耐えなければならない。 「あたしは今とっても幸せだけど・・・これはあの子達の幸せを犠牲にして得た幸せなの・・・だからあたしはあの子達に憎まれても・・・それは仕方がないわ・・・」 そこまで聞くと俺はもう我慢出来なかった。 ハルヒを思いっきり抱きしめた。 「・・・キョン?・・・」 「バカか!?お前は!!」 「・・え?・・・」 「いつ長門と朝比奈さんがそんな事を言ったっ!?言ってないだろう!?」 「・・・でも・・・でもっ!!」 「結婚式に来てくれた二人の顔をお前だって見ただろっ!?お前を憎んでる顔をしてたかっ!?して無かっただろっ!?二人とも心の底から祝福してくれてたじゃないか!!」 「・・・それは・・・そうだけど・・・」 「確かに二人は俺の事が好きだったかもしれない!!でもな、それでも俺はお前を選んでたさっ!!」 「・・・ホント・・・に?・・・・・ホントにあたしを選んでくれた?・・・」 「あぁ、選んでたよ。俺は始めて会ったあの日からずっとお前が好きだったんだからな!!だから、何があっても俺は、俺だけは最後までお前の傍にずっと居てやる!!」 「キョン!!あたしも・・・あたしもキョンが大好き!!」 「いいか?誰だって何かを犠牲にして生きてるんだ。長門も朝比奈さんも古泉も俺もな。だからそれから逃げるな!!ちゃんと向かい合え!!倒れそうになったら幾らでも俺が支えてやる」 「・・・うん・・・ック・・分かった・・・ヒック・・・もう・・絶対に・・逃げないわ・・・」 「あぁ、だから今は泣け。そして泣いた分だけ強くなれ。そうしないと生まれてくる子供に笑われちまうぞ」 「・・うん・・・うん・・・ふわぁぁぁぁぁぁああん・・・」 気が付くと辺りはすっかり暗くなっていた。 俺は泣き止んだハルヒを背負って旅館に戻った。 食事の時間はとっくに過ぎていたが旅館の人が夜食を用意してくれた。 その夜食を食べ終わるとハルヒは横になりそのまま眠ってしまった。 今日は一日動きっぱなしだったし、沢山泣いたもんな・・・ ハルヒお疲れ様・・・ 俺はその言葉に沢山の意味を込めた。 そして俺もそのまま寝床に着いた。 旅行も明日で終わりだな・・・ そんな事を考えつつ俺の意識は薄れていった・・・ 最終日は旅館をチェックアウトした後、昨日の内に観光を思う存分満喫した俺達は御土産屋を回る事にした。 ハルヒはお土産と一緒に「宇宙人全集 温泉地限定浴衣バージョン」なる物を買っていた。 何でも此処でしか売っていない限定物らしいのだが・・・ まさか、それが目的で此処を選んだんじゃないよな? あらかたお土産を買った俺達はそのまま帰路に着いた。 無事帰宅した俺達に残された大きなイベントはこれでハルヒの出産だけとなった。 それから6ヶ月程の時間が過ぎた。 現在はハルヒは妊娠8ヶ月半で、出産まであと少しである。 もうハルヒのお腹も大分大きくなっていて確実に成長しているのだと妊娠していない俺にも実感出来る程だった。 この子もハルヒのように毎日を元気に過ごして欲しいと俺は思っている。 「あ、キョンこの子今動いたわ!!」 子供が生まれても俺はその名で呼ばれ続けるのだろうか? 結婚して以来、俺はハルヒに何度か本名で呼んでくれと頼んでいるのだがそれは悉く却下されている。 最悪子供にまで「キョン」と呼ばれる事が無い様に努力しよう。 「何っ!?ほんとか?」 「あんたバカ?そんな嘘ついてどうすんのよっ!?そんなに疑うなら触ってみなさいよ!!」 そう言いハルヒが俺の手を取り自分のお腹に当てる。 その時、子供がハルヒの中から蹴ってきた。 どうやらこの子もハルヒと同じ位に気が強いらしいな・・・ 文句でも言っているのだろうか? 「ね?今動いたでしょ?」 「あぁ、ほんとに動いたな。正直感動した。早く顔が見たいな」 「ホントよね!!さっさと出てこないもんかしら?」 おいおい・・・ 「そんなにポンっと出てくる訳無いだろ?てかそれじゃあ感動が全く無いじゃないか。それにその子にもタイミングってもんがあるだろうし気長に待とうぜ」 「そんなの分かってるわよ!!いちいち冗談を真に受けないでよね?ほんっとにあんたって進歩しないわよね」 ハルヒは本日も絶好調のご様子だ。 いやはや、結婚式前後の時のしおらしかったハルヒが恋しいねぇ・・・ あの時のハルヒはそれはそれは可愛かったね・・・ 「なーに鼻の下伸ばしてんのよ!?このエロキョンっ!!」 どうやら顔に出ていたようで、ハルヒの視線がさっきから痛すぎる。 「どーせ、みくるちゃんや有希の事でも考えてたんでしょ?」 なんでここで長門と朝比奈さんの名前が出てくるんだ?さっぱり理解出来ん。 「いや、俺はお前の事を考えていたんだが」 「そうなの?まぁ、それなら高級レストラン1回で特別に許してあげるわ」 「はいはい、それはどうも」 「それはそうと、ねぇ名前はもう決めてくれた?」 「あぁ、今最後の2択で悩んでいるところなんだ」 「へぇ、あんたにしては仕事が早いわね。じゃあ、その最後の2択とやらを聞かせてちょうだい。あたしが採点してやるわ!」 「それは生まれた時のお楽しみだ」 「あんた、あたしにそんな口聞いていいと思ってんの?あんた何様よ!?」 「俺か?俺はハルヒの旦那様だが」 「ま、まぁそうね、間違っちゃいないわね。って開き直るな!!」 こんな夫婦喧嘩のような会話をしていて子供に悪影響を与えないのかとたまに心配になる。 だが同時に、これが俺達の自然体なのだからこのままでいいとも俺は思っている。 今はとりあえずこの怒りが収まらない俺の奥様をどう鎮めたものか・・・ 「ちょっとキョン!!ちゃんと聞いてんのっ!?さっさと答えなさい!!30秒以内!!」 それだけを考えている・・・ その3週間後、いつものように労働に勤しんでいると突然俺の携帯が鳴り出した。 急いで廊下に出てディスプレイをチェックすると発信はハルヒの携帯からだった。 「どうした?何かあったか?」 「あ、キョン?あたしきたみたいなの!!」 相変わらず主語が抜けている。 「来たって何が?まさか宇宙人か?」 「あんたってホントにアホでしょっ!?陣痛がきたみたいって言ってんのよ!!」 「え?だって予定日まであと3週間もあるじゃないか?」 「そうだけど、きちゃったもんはきちゃったのよ!!」 確かに電話の向こうのハルヒは苦しそうである。 落ち着け・・・落ち着くんだ、俺!! 「大丈夫なのか?病院までちゃんと行けるか?」 「今、母さんが来てくれてるから大丈夫。タクシー来たら病院に行くからアンタも急いで来なさいっ!!」 「いきなりそんな事を言われてもな、まだ仕事残ってるし。出来るだけ急いで行くよ」 「はぁっ!?アンタ、あたしと仕事とどっちが大事なのよっ!?いいからさっさと来なさい!!3秒以内!!遅刻したら離婚だからね!!じゃ!!」 ブチッ!! ツー ツー ツー はぁ、どうすりゃいいんだよ・・・ 俺だって今すぐにでも行きたいが、いきなり早退させてもらえる訳も無いしな・・・ そう思いつつドアを開けると部長が俺の鞄を持って立っていた。 「話は全部聞かせてもらった。今日はお前が居ると何故かみんなの仕事が捗らんからさっさと帰れ」 「え?で、でも」 「でももヘチマもあるか!とにかく今日のお前は邪魔なんだ。だから帰れ!!」 「あ、ありがとうございます!!」 「お礼を言われるような事はしとらん。邪魔だから追い出すだけだ」 「はい。失礼します」 俺は部長に頭を下げると病院を目指して走り出した。 その際、部署から声援が聞こえたのはきっと気のせいではないだろう。 会社を出てタクシーを捜したが中々来ない。 こんな所でタイムロスをしたくないので俺はがむしゃらに走り出した。 病院はここから車で1時間は掛かるが、この場でタクシーを待っている余裕は今の俺には無いので、今はただ一歩でも病院に近づく様に走っているのだ。 暫く走っていると偶然にも信号待ちをしているタクシーを発見した俺は慌ててドアをノックした。 幸い、客は乗せておらず俺はそのタクシーに乗って病院へ急いだ。 事情を聞いたタクシーの運ちゃんが一般道で混雑する時間帯に120キロを出すという中々スリリングな事をしてくれたおかげで30分程で病院に到着する事が出来た。 願わくばあの運ちゃんが違反で捕まりませんように・・・そう願いつつ病院の中へ入った。 俺は受付でハルヒが何処か聞こうとしたが、俺の顔を見るなり看護師さんが俺をハルヒの元へ案内してくれた。 そういえば、診察室でキスしたバカップルって事で有名だったな、俺達・・・ 案内された分娩室の前には、ハルヒの母さんと俺の母さんが待っていた。 「ちょっと、キョン!遅いじゃない!?」 「あぁ、スマン。お義母さん、すいませんお世話になりました」 「いいのよ。それよりハルちゃんが無理言ってごめんなさいね」 「いえ、それでハルヒは?」 「20分位前に分娩室に入ったところよ」 「そう・・ですか」 すると分娩室から看護師さんが出てきた。 「あ、旦那さんやっときたぁ!!さぁ、早く中に入って下さい。奥さんがお待ちですよ」 と言って俺を分娩室に連れ込む。 廊下と分娩室との間にある部屋に入った俺は看護師さんに怒られていた。 「もう、遅いじゃないですか。ダメですよ?出産も立派な夫婦の共同作業なんですからね!分かりましたか?」 「はい、ごめんなさい」 「よろしい。じゃあこれ着て下さい」 と言って自分達が着ているものと同じものを俺に渡してきた。 俺がそれを着終わるのを確認すると俺をハルヒのいる分娩室へと通した。 「奥さん、さっきからカンカンですから覚悟しといた方がいいですよ」 「でしょうね。慣れてるから大丈夫ですよ」 分娩室にはかなり苦しそうにしているハルヒと担当の先生と看護師さん数人が居た。 「あら、やっと来たの?遅かったじゃない」 ハルヒの担当の先生が話し掛けてきた。 「どうも、遅くなってすいませんでした」 「まぁ、それはいいから奥さんに話し掛けて励ましてあげて。なんだったらまたキスしちゃってもいいからね」 きっとこれがこの人流の励まし方なのだろう。 そう・・・信じたい・・・ 「はい、分かりました」 俺はハルヒの隣に立って話し掛けた。 「よう、遅くなって済まなかったな」 「お・・そいわ・よ・・・何や・・ってたのよ・・・」 怒ってはいるがいつもの勢いは無い。 それほどまでに苦しいのだろう。 「ホントにスマン。これでも大急ぎで来たんだぜ?」 「・・・遅刻し・・たら・・離婚・・・って言った・・でしょ・・・」 「文句なら後で幾らでも聞いてやるから、今は子供を生む事だけを考えてくれ。俺もずっとここに居るからな」 そう言って俺はハルヒの手を握った。 「分かった・・・わ・・覚悟し・・・ておきなさいよ・・・」 「あぁ」 もうそこから何時間経っただろうか・・・ ハルヒは未だに苦しんでいる。 早く終わって欲しい・・・ 俺はハルヒの手を握りながらそれだけを願っていた。 こんな時「ハルヒ頑張れ!!」としか言ってやれない自分に嫌気が差す。 ハルヒは激しい痛みによって気絶し、また痛みによって覚醒する行為を何回も何回も繰り返した。 正直、その姿を見ていられなかったがここで目を閉じてしまったらハルヒは一人ぼっちになってしまう。 俺は何度も目を瞑りそうになる度に自分に「瞑るな!!」と言い聞かせた。 そして遂にその時がやってきた。 「おぎゃー、おぎゃー」 と元気な泣き声が聞こえる。 俺がふっとその泣き声のする方へ目線を上げるとそこには看護師さんに抱かれた小さな赤ちゃんの姿があった。 俺はやっと終わったと安心した。 「やったな、ハルヒ。無事に生まれたぞ」 「・・・・・・・・・・」 ハルヒの反応が無い。 俺の頭の中で最悪の予感が起こる。 「は、ハルヒ?おい、これはなんの冗談だ?」 いつの間にか握っているハルヒの手に力が無くなっている。 そんな事はある筈が無い・・・・・・・・ 「ハルヒっ!?ハルヒーーーーっ!!」 俺は目の前が真っ暗になっていた・・・・ 「旦那さん、落ち着いて!!大丈夫、気絶してるだけよ。ほらちゃんと呼吸してるでしょ?」 え?本当に・・・・・・・? 俺は恐る恐る確認する。 すー はー すー はー 本当だ。 ハルヒは生きてる。 良かった、本当に良かった。 再びハルヒの手に力が戻る。 「・・・・ぅっさいわね・・・・勝手に殺すんじゃないわよ・・・・・」 ハルヒはゆっくり目を開いた。 「あぁ、そうだな。済まなかった」 「・・・全く・・・他に言う事・・・あるでしょ・・・」 「あぁ、ハルヒ良く頑張ったな。ありがとう、お疲れ様」 それを聞いたハルヒは力無く微笑むと再び目を閉じ深い眠りについた。 眠ったハルヒと一緒に分娩室を出ると母さん達だけでなく俺の親父にハルヒの父、そして妹が待っていた。。 「無事生まれました。ご心配お掛けしました」 おれがそう言うと歓声が沸いた。 なぁ、ハルヒ、ほんと俺達はいい家族に恵まれたよな。 俺はそのままハルヒに付き添い、みんなは保育器に入っている俺達の子供を見に行っていた。 「生まれてすぐに離れ離れになるのはなんか寂しいな」 俺は眠っているハルヒにそんな事を話掛けていた。 幸いハルヒの部屋は個室だったので、俺はその晩ハルヒに付きっきりで居ることにした。 翌日、会社に電話をして子供が無事生まれた事、一日仕事を休ませて欲しいという事を部長に話した。 部長が「無事生まれたか、そうかそうか。それは良かった」と言うと部署内で歓声が沸いているのが聞こえた。 「有休って事にしとくから、気にせず休め」 「ありがとうございます。では」 俺はそう言って電話を切り、受付で車椅子を借りてハルヒが眠る病室へと戻った。 ハルヒはその日の昼位にやっと目を覚ました。 「お、やっと起きたか?おはよう」 「ん?おはよ。今何時?」 「あぁ、12時半位だな」 「そう。ねぇ、赤ちゃんは?」 「新生児室にいるよ」 「そう、じゃあ今から見に行ってくるわ」 「おいおい無理するなよ?」 「無理なんてしてないわ」 そう言って立ち上がろうとするが足に力が入らないようだ。 「そうかい、じゃあこれに乗れ。そしたら連れて行ってやる」 そう言って車椅子を引っ張り出した。 俺は車椅子に乗ったハルヒを連れて新生児室に来ている。 俺はハルヒに付きっきりだったので、ここに子供を見に来るのは始めてである。 「ねぇ、あたし達の子供ってあれよね」 ハルヒが自分の部屋の番号が書かれたプレートの下がった保育器を指差す。 「あぁ、そうだな。可愛いな」 「ホントね。アンタに似なくて良かったわ」 「おいおい・・・」 「冗談よ!!いちいち真に受けるなっていつも言ってるでしょ?」 「お前の冗談は冗談に聞こえないんだ」 「そんな事はどうだっていいわよっ!!」 いや、よくはないと思うんだが・・・ 「それより、あの子の名前をそろそろ教えてくれない?」 「あぁ、そうだな。あの子の名前は「はづき」だ。「春」の「月」って書くんだがどうだ?」 「ふーん。まぁ、あんたにしちゃ中々なんじゃない?」 「そうかい?そりゃ良かった」 「あなたの名前は春月よ!!美人のママとダメダメヘッポコのパパだけどこれからよろしくね!!」 おいおい、いきなりその自己紹介は無いだろ? まぁ、いいか。 そこはこれから幾らでも修正して行けばいいしな。 まずはこの子に挨拶だ。 「ワガママなママとそのママに全然頭が上がらないパパだけどこれからよろしくな春月」 そして1週間後・・・ ハルヒは無事退院する事になった。 体調を完全に回復したハルヒと春月を連れて俺は家へと帰ってきた。 1週間程は静かだったこの部屋もまた賑やかになるだろう。 いや、ここは以前にも増して賑やかになると言い換えておこう。 まぁ、この子が始めて喋った言葉が「キョン」だったとか色々騒動はあったのだがそれは別の機会にしよう。 なんたって、一人でも手を焼いていたのが今度は二人になってしまったんだからな。 また、俺の気苦労も増えそうだ・・・・ あぁ、名前の意味? それは、「ハルヒ」っていう太陽から光を一杯もらって、いつか自分自身で光り輝いて欲しいって思いを込めて「春月」って名前にしたのさ。 「ちょっとキョン!!何してんのよっ!?早く来なさい!!」 早速、春月が何かしでかしたようだな。 そろそろこの言葉も封印したいのだがそれはまだ先の話になりそうだ。 「あぁ、今行くよ。はぁ、やれやれ」 fin エピローグ その後の話を少しだけしたいと思う。 春月は無事4歳となり今日も元気に外をハルヒと一緒に走り回っている。 無論、俺も二人に引っ張り回されている最中だ。 「きょんくん、おそいよ!!おくれたらばっきんなんだよ!!」 「そうそう、遅れたら罰金よ!!それが嫌ならさっさと来なさい!!」 はぁ、すっかり似たもの親子になっちまったな。 これからがある意味では楽しみで、ある意味では怖いな・・・ もうお気付きの方も多いと思うが、そう俺の努力虚しく俺は我が子にも「キョン」と呼ばれているのである。 今は、大きいハルヒと小さいハルヒである春月に振り回される忙しい毎日を過ごしている。 大変だが充実した日々を送れている事を俺は二人に感謝したいと思う。 じゃあ、二人が呼んでいるのでそろそろ行くとしよう。 罰金は嫌だしな・・・ 「おい、待ってくれよ!!」 そう言って俺は二人の元に走り出した・・・・・ fin